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サリドマイド奇形のメカニズムが解明

 2019年10月16日 06:00

 サリドマイドという薬剤を耳にしたことはあるだろうか。妊娠初期に服用すると子の手足などに奇形を来すという副作用が発覚したため販売が中止された薬剤だが、その後、多発性骨髄腫(血液がんの一種)などに効果があることが分かり、現在は厳格な管理の下で投与されている。しかし、サリドマイドが奇形を引き起こすメカニズムは不明であった。東京医科大学、東京工業大学、イタリア・ミラノ大学から成る国際共同研究グループは、サリドマイドによる奇形が「p63」という蛋白質の分解によって引き起こされることを明らかにし、英科学誌Nature Chemical Biology2019年10月7日オンライン版)に報告した。

今回の研究のポイント

・サリドマイドは胎児に催奇形性を示す薬剤であり、p63という蛋白質の分解を誘導することで手足や耳の発生を阻害していることがゼブラフィッシュを用いた実験により明らかとなった

・サリドマイドは同研究グループが以前に同定したサリドマイド標的蛋白質であるセレブロンに結合し、セレブロンの働きを乗っ取ることでp63の分解を誘導する

・今回、サリドマイド催奇形性の詳細なメカニズムが判明した。同研究の成果から、サリドマイドの副作用を軽減した新薬の開発が期待される

 

サリドマイドによるp63蛋白質の分解が催奇形性の原因

 サリドマイドは1950年代に鎮痛・睡眠薬として40カ国以上で処方され、日本では胃腸薬としても市販されていた。しかし、妊娠初期の女性が服用すると生まれた子の手足や耳、内臓などに奇形を生じる「催奇形性」という副作用があったことから世界的な問題となり、1960年代前半に相次いで販売が中止された。日本ではつわり止めにも利用されていたため被害が拡大したという。その後の研究により、サリドマイドはハンセン病や多発生骨髄腫などの治療に有効であることが判明し、現在は厳格な管理の下で投与されている。

 過去の検討において、研究グループはサリドマイドが「セレブロン」という蛋白質に結合すると、セレブロンの機能が変化して通常は分解されない蛋白質が分解されることを明らかにしている。分解される蛋白質はセレブロンの「ネオ基質」と呼ばれるが、サリドマイドの催奇形性に関係するネオ基質はこれまで不明だった。

 今回の研究により、サリドマイドの催奇形性に関係するネオ基質が「p63」という蛋白質であることが明らかとなった。p63には大小の2つのタイプがあり、胎児の発生過程においては、小さいp63(ΔNp63)が手足の形成に、大きいp63(TAp63)は耳の形成に重要な役割を果たしている。モデル動物としてゼブラフィッシュを用いた実験では、ΔNp63は胸びれ(ヒトの手足に相当)の奇形と関連し、TAp63は耳の奇形と関連していることが示された。

図. サリドマイドによる手足と耳の奇形のメカニズム

 

(東京医科大学プレスリリースより)

 近年、サリドマイドをベースとした血液がん治療薬の開発が進められている。今回の研究によりp63の分解がサリドマイドの催奇形性の原因であることが明らかになったことから、p63を分解しないサリドマイド系化合物を探索することで、安全性の高い新薬の開発が可能になると考えられる。

(あなたの健康百科編集部)

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