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醤油のにおいが運動機能を高める

 2019年10月28日 06:00

 料理の美味しそうなにおいは食欲を刺激して、おなかが鳴ったり唾が出たりする。逆に、こげ臭かったりドリアンやくさやのようににおいが強かったりする料理は、食欲を減退させることもある。HITO病院(愛媛県)作業療法士で高知大学生理学講座の箭野豊氏らは、こうした食品のにおいが食欲だけでなく運動機能に及ぼす影響を検討。醤油のにおいを嗅ぐと腕の運動機能が向上するとの研究結果を、科学誌 Occupational Therapy International2019年10月1日オンライン版)に発表した。

食事へのモチベーションが運動機能を変化させると仮定

 箭野氏らの施設では、脳卒中などで脳機能に障害を受けた患者に対する作業療法(リハビリテーション)の一環として調理療法を導入している。脳機能に障害を受けた患者では、手足が痺れたり話しにくくなったり、めまい、視野が狭くなるなどの症状が出るため、買い物や洗濯などの家事、服薬・金銭管理といった日常生活に支障を来す。食事に関連するリハビリは、主に箸やナイフなどを使って食事ができるようになることを目的に行われる。

 一方、食品のにおいには食欲を促進/減退させる効果があり、よいにおいは食べることに対する強いモチベーションとなる。そのため、食品のにおいを嗅いで食欲が高まれば、食事のために体を動かそうとして身体反応にも変化が生じる可能性がある。実際、食べ物のにおいは脳の報酬系(食欲や性欲、やる気などと関連する機能)を活性化することが知られている。

 そこで同氏らは今回、「食品のにおいを嗅ぐ(嗅覚を刺激する)と、食事へのモチベーションが促されて運動機能が高まる」との仮説を立て、健康な成人被験者72人を対象に検証した。

バラの香りには効果なし

 箭野氏らは嗅覚を刺激する食品として、日本の代表的な調味料で簡単に入手でき、においを嫌う人が少ないと考えられる醤油(濃口醤油)を選択。

 被験者の嗅覚に刺激を与えるため①醤油グループ②フェネチルアルコール(PEA:芳香族アルコールの一種でバラのような香りがする)グループ③刺激を与えない水グループに24人ずつ振り分けた。昼食または夕食の30~60分前に座った状態で振り分けられた液体(醤油、PEA、水)が5mL入った試験管を20秒間嗅いでもらい、嗅覚刺激の前後で修正Functional Reach Test(mFRT)スコア(日常生活で必要となる動的バランスや坐位バランスを評価する尺度)の変化を比較した。mFRTの評価に際し、被験者には腰、膝、足首が90度になる姿勢で座ってもらい、腕を90度に曲げた状態から伸ばせる距離を測定した。

 その結果、水グループとPEAグループでは嗅覚刺激の前後でmFRTスコアに変化がなかったのに対し、醤油グループでは統計学的に有意な増加が認められた。こうした効果は醤油のにおいだけに見られており、醤油のにおいを嗅ぐことで健康な人の腕の運動機能が向上するという報告は今回が初めてという

 同氏らは「研究結果は、調味料のにおいを用いたリハビリが運動機能の改善に有効であることを示唆している」と結論。「食事へのモチベーションを高める食物関連のにおいと身体反応との相互作用の解明を進め、においを用いた調理療法を開発したい」と期待を示している。

(あなたの健康百科編集部)

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