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大腸がん転移の謎を解明

 2019年11月18日 06:00

 大腸がんは日本人で死亡者数が多いがんの1つだ(国立がん研究センターの発表では2017年は男女合計で2位)。がんが進行すると肝臓や肺などへの転移が起こるが、これまで大腸がんが転移するメカニズムははっきりと分かっていなかった。そこで、順天堂大学大学院と東京大学大学院の研究チームは大腸がん患者の細胞を解析したところ、ある性質を持つがん細胞集団が転移に関連していることを発見。今後、治療薬や大腸がん転移を防ぐ方法の開発につながる可能性があるという。詳細はInternational Journal of Cancer (2019年9月10日オンライン版)に掲載された。

転移メカニズムの仮説は複数あった

 人の細胞には幾つか種類があり、体表面を覆う表皮や臓器の粘膜などを「上皮系」、組織と組織の間を埋める細胞を「間葉系」という。大腸がんは、上皮系の性質を持つ多数のがん細胞がシート状に集まって形成されている。

 従来はなんらかの刺激によってがん細胞が間葉系の性質を持ち、単一細胞となってシートから離れ、他の臓器に染み込む(浸潤する)ことで転移すると考えられていた。

 他に、大腸がん細胞が間葉系になるのではなく、上皮系のシート状のままで複数のがん細胞が集まって集団をつくり、浸潤・転移するという説もあった。 

上皮系および上皮/間葉系の性質を持つがん細胞が転移に関わる

 そこで研究グループは、人のがん細胞が転移する様子の観察を行うため、同意を得た40人の大腸がん患者から腫瘍片(がん細胞のサンプル)を採取。それを免疫が働かないようにしたマウス(1stマウス)の皮下に移植し、皮下に発生したがん細胞を処理して別のマウス(2ndマウス)の腸粘膜に注射した。2ndマウス28匹中13匹の腸にがんが発生し、13匹のうち8匹で肝臓または肺への転移が起きた。

 転移について解析したところ、がん細胞集団の方が単一のがん細胞より転移しやすいことが分かった。また、大腸がん患者の腫瘍、マウスに移植し増大した患者由来の移植片・血管内を循環しているがん細胞集団からは、上皮系および上皮と間葉系両方の性質を持つがん細胞が検出された。このうち上皮/間葉系がん細胞は、肝臓に転移したがんが大きくなるにつれて減少した。一方、人工的に上皮系または上皮/間葉系の状態にならないように操作した腫瘍をマウスの脾臓に注射すると、肝臓への定着・増殖が抑制された。

 これらの結果から、上皮系および上皮/間葉系の性質を持つ大腸がん細胞が集団を形成して血中に浸潤し、肝臓や肺などに転移した後は上皮/間葉系の性質を弱め、再び上皮系の性質に戻ることで転移がんが増殖することが分かった。

がん細胞集団を標的にした治療法や上皮/間葉系の獲得を防ぐ治療法の開発に期待

 今回解明された転移のメカニズムやがん細胞集団をターゲットとした治療の開発により、がんの転移が防げる可能性がある。研究グループは、今後さらに大腸がん細胞が上皮/間葉系を獲得するメカニズムを解明し、がん細胞集団の形成を阻害する方法を明らかにしていく予定という。

(あなたの健康百科編集部)

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