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高齢者に厳し過ぎるカロリー制限は要注意

 2019年12月09日 06:00

 日本糖尿病学会の『糖尿病診療ガイドライン』が3年ぶりに改訂された。今回の改訂で最も大きく変わったのが食事療法に関する項目であり、その中でも注目されるのが総エネルギー(カロリー)摂取量の設定方法の変更だ。これには、高齢者への厳し過ぎる食事制限をいさめる狙いがある。背景にあるのは"BMI 22神話の崩壊"だ。

高齢者の目標体重を高めにする計算式に変更

 食事療法は2型糖尿病治療の基本であり、毎日の食事で摂取するエネルギー量を制限することは血糖コントロールの改善に役立つ。このような考えに基づき、『糖尿病診療ガイドライン』では体重に見合った1日の総エネルギー摂取量(kcal/日)を算出する計算式を提示してきた。

  用語の多少の異同を無視すると、この計算式は前回の2016年版ガイドラインも2019年版ガイドラインも「目標体重(kg)×日常の身体活動量に応じた所定の係数」で一致している。今回変わったのは目標体重(kg)の算出法で、下記のようになる。

 <目標体重(kg)の算出法>

●2016年版

一律に:身長(m)2×22

●2019年版

65歳未満:身長(m)2×22

65歳以上:身長(m)2×22~25

  つまり、2016年版では年齢に関係なく、身長(m)2への乗数は22で一律であったが、2019年版では患者が65歳以上の場合は、患者の状態に応じて乗数は22~25と幅を持たせることを医師に対して推奨している。特に患者が75歳以上の場合は、フレイルや要介護状態の有無などを慎重に判断して、この乗数を決めることを勧めている。

  繰り返しになるが、総エネルギー摂取量(kcal/日)は、こうして算出された目標体重(kg)に「日常の身体活動量に応じた所定の係数」を乗じて算出する。この係数とは、2019年版の場合、下記の通りである(微妙な改訂があったが、ここでは割愛する)。

 <日常の身体活動量に応じた所定の係数>

・軽い労作(大部分が坐位の静的労作):25~30

・普通の労作(坐位中心だが通勤・家事、軽い運動を含む):30~35

・重い労作(力仕事、活発な運動習慣がある):35以上

  例えば、身長160cmで軽い労作の高齢者の場合の総エネルギー摂取量は、2016年版ガイドラインでは1,408~1,690kcal/日(1.62×22×25~30)であったが、2019年版ガイドラインでは1,408~1,920kcal/日(1.62×22~25×25~30)となり、最大値が230kcal/日多く設定されることになった。

高齢者では死亡率が最も低いBMIは上昇する

 2016年版まで、『糖尿病診療ガイドライン』が身長(m)2への乗数を22としてきたのは、BMI 22の場合が最も健康だと考えられてきたからだ。

  しかし、最近の研究ではこの"BMI 22神話"が崩壊している。死亡率が最も低いBMIは年齢によって20~25の範囲に分布し、高齢になるほど上昇することが分かっている(Lancet 2016; 388: 776-786)。高齢者では身長が短縮し、筋肉量が減少するためだと考えられる。高齢者ではBMIでは体格を正確に評価できず、筋肉量と体脂肪量を分けて算定する体組成評価を用いるべきだという意見もあるが、簡便性の点ではBMIに劣る。

 BMIの割に筋肉量が減少している高齢者に対して、過剰なカロリー制限を強いると、フレイルの誘因となり、かえって健康を損なうので要注意だ。今回紹介したガイドラインは、糖尿病患者に特化した指針だが、高齢者では死亡率が最も低いBMIは上昇することを示した前述の研究は健康な一般の人を対象としたものだけに、高齢者全般の指針とすることができそうだ。

(あなたの健康百科編集部)

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