低体重が1年以上続くと、低身長や骨粗鬆症となる
2019年12月23日 06:00
わが国は先進国の中でも珍しく、肥満だけでなく"女性のやせ"が問題になっている。神経性やせ症は10〜20歳代の女性で発症する頻度が高く、その半数が過食を伴い、6〜11%は死に至る。政策研究大学院大学保健管理センター教授の鈴木眞理氏は、第40日本肥満学会・第37回日本肥満症治療学会(11月2〜4日)の「日本人女性のやせと摂食障害」で神経性やせ症について概説。罹患が長期化すると多くの後遺症がもたらされ、低身長や骨粗鬆症などの取り返しの付かない影響を受けると説明した。
摂食障害の人はストレスがたまるとダイエットをしたくなる
日本人の20歳代女性は4分の1がやせ過ぎで、その割合は最も貧しいアフリカの国と同等であり、肥満者の増加が問題となっている先進国の中でも特殊な状況にある。鈴木氏は「現代女性は強迫観念にも似たやせ願望を持っており、やせていることは幸せで自信につながるとの思い込みに加え、貧困や就労、朝食を抜く、忙し過ぎて食べる時間がない、自炊をしないことがやせ過ぎにつながっている」と紹介した。
やせを主症状とする疾患に摂食障害がある。摂食障害は主に10〜20歳代女性が発症し、過食や拒食、特定の食べ物しか食べないなど食事に関する行動になんらかの障害が生じ日常生活に支障を来すもので、神経性やせ症、神経性過食症、過食性障害などに分類される。同氏は、それぞれの特徴について次のように説明した。
神経性やせ症はいわゆる拒食症で、病的にやせているにもかかわらず自分が太っているように見えるという視覚異常を有する。食事を取らずにやせている「制限型」と、空腹の反動で一度に大量の食べ物を食べてしまい、食べた分を無理やり吐いたり下剤などで排出したりする「むちゃ食い・排出型」に大別される。死亡率は6〜11%と精神疾患の中でも高く、感染症と餓死が多いとされている。地域差はあるものの、女子高校生の0.17〜0.56%が罹患しているという。
神経性過食症は、神経性やせ症のむちゃ食い・排出型と同じく一度に大量の食べ物を食べてしまい、食べた分を嘔吐や下剤などで排出する代償行動が見られるが、やせは伴わない。若い女性の3〜5%が罹患しており、1型糖尿病に合併しやすいとされている。
一方、過食性障害では、過食はするが代償行動は見られず、患者の約半数は男性である。
同氏は、摂食障害になる人の性格の特徴として①几帳面でまじめ②怖がりで不安が強い故に、完璧にこなそうと無理をしている③物事を正解か不正解でしか考えられない白黒思考など認知の偏り−を挙げ、「ストレスを感じやすくためやすいにもかかわらず、ストレス対処方法はがむしゃらに頑張るか、我慢するかしかなく、他人の力を借りたり任せたり、弱音を吐いたり、諦めたり、多様な方法を使い分けることができない」と述べた。
「そこで挫折すると、『やせると気分も良く、自信も持てる』と思い込んでダイエットを始め、現実逃避としてやせることに没頭しているうちに、脳の機能障害が起こり発症する」と説明し、「ストレスがあるとやせたくなる病気」と指摘した。
身長を伸ばすには、骨密度+栄養素の摂取と体重が重要
日本人女性における神経性やせ症の発症は15歳以下が約25%を占めいる。15歳以下といえば、身長が伸び、体重が増え、初潮を迎え、骨密度がピーク値となる大事な時期。
鈴木氏らが14歳未満で神経性やせ症を発症して18歳までに回復した患者を対象に、正常範囲まで身長が伸びた患者と低身長患者で比較したところ、身長が伸びた患者ではBMI(肥満指数:18.5以下でやせ、17.6以下でやせ過ぎと判定される)16未満の期間が1年未満であること、低身長患者は最大骨量(骨密度)が低値のままであることが分かった(表)。たとえ神経性やせ症が治癒しても、低体重期間が長いと低身長や低骨密度となってしまい、その後の人生にも大きく影響を及ぼしてしまうのである。
表. 回復後の身長別に見た神経性やせ症患者の特徴(自験例)
(鈴木眞理氏提供)
身長を伸ばすにも、骨密度を上げるにも成長期の十分な栄養および必要な栄養素の摂取、適度な運動に加え、体重(BMI)が重視されている。体重は栄養状態と女性ホルモンの分泌に深く関係しているからである。骨密度の低下や回復は体重に依存することが分かっており、同氏は「現在のところ、やせたままで正常域まで骨密度を回復させる薬物療法は確立されていないことから、体重の増加が重要である」と述べた。
レプチンは食欲抑制と月経周期に関連
やせが進むと無月経に陥ることがあるが、女性ホルモンの分泌が体重と正比例することも分かっている。また、月経周期や無月経に関与するといわれるレプチンは、食欲を抑制する働きを持つ。レプチンは食欲抑制に、グレリンは食欲刺激に働き、体重・代謝が保たれている。しかし、やせている場合はグレリンの分泌量が多くなり、食欲を刺激される。さらに体脂肪が少ないと、食べ控えをやめるような刺激が加えられるため、制限型の神経性やせ症患者の半数は途中からむちゃ食い(過食)を伴う。鈴木氏は「こうした際に、ほとんどの患者が食べるのは甘くて脂っこい食べ物であり、野菜などでは脳が満足しない」と指摘する。また、神経性やせ症では、低血圧や徐脈、低体温、便秘、逆流性食道炎、肝機能異常、腎機能障害、脳萎縮などを伴なうことがあり、うつ気分や不安も強くなる。
最後に、同氏は①身体面では1kgでもいいから体重を増加させる②心理的な課題の解決支援が重要③包括的な相談事業を行う摂食障害治療支援センター(九州大学心療内科、東北大学心療内科、浜松医科大学精神科、国立国際医療研究センター国府台病院心療内科)がある④日本摂食障害学会や一般社団法人日本摂食障害協会の支援がある−ことを紹介し、講演を終えた。
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1)摂食障害の最新基礎知識と治療法
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4)家族にできること・できないこと
※お申し込み・お問い合わせは「一般社団法人日本摂食障害協会」公式サイトまで
(あなたの健康百科編集部)