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"びっくり離職"する前に医師に相談を

 2020年02月03日 06:00

 近年、肺がんの薬物治療が進歩したことで、患者の生存率は向上し、治療を受けながら学校に通ったり働いたりできるようになってきた。しかし、がん治療と就労の両立について事前に十分な説明を受けている患者はまだ少ない。そのため、がん告知のショックで離職してしまう"びっくり離職"をはじめ、患者が治療を継続しながらどのように社会と関わっていくかが新たな問題として浮上している。昨年(2019年)12月6~8日に開催された第60回日本肺癌学会では、神奈川県立循環器呼吸病センター呼吸器内科医長の池田慧氏が、肺がん患者における治療と仕事の両立についての実状を紹介し、両立の実現に向けた医師の役割について提案。特に"びっくり離職"防止の重要性を強調した。

なぜ、いま"両立支援"なのか

 池田氏によると、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の進歩により、肺がんの治療成績が向上している中で、治療中の患者の状態や生活も大きく変化してきている。以前は、制限なく働ける患者と療養中(働けない)の患者が二極化していたのに対し、最近では"働ける"と"働けない"のボーダーラインが極めて曖昧かつ長期化している。そのため、働き方を調整しながら治療を行う"中間層"ともいえる患者が増加しているという。

 この点について、同氏は「働き方を調整しながら治療を行う患者が増えるということは、裏を返せば、不具合を抱えながら働く人が増えているということを示している。そのため、肺がん治療においては今後、治療と就労の両立に関する支援がより重要となってくるだろう」と考察。「それを実現するには医師の関与が不可欠だ」と指摘した。

主治医の7割は患者の就労状況をよく把握していない

 池田氏は、肺がん患者の治療と就労の両立の実状について、日本肺癌学会が昨年末に患者を対象に行った「肺がん治療と就労の両立に関するアンケート」を紹介。

 この調査では、治療開始前に就労に関して話し合いが行われたかという質問に対し、「話し合ったことはない」との回答が36%に上った。一方で、「医師・医療者から質問があり、医師を含め話し合った」はわずか30%であった(図1)。さらに、主治医は就労状況を把握しているかという質問に対し、「ほとんど/どちらかといえば、把握していない」という回答が28%、「どちらかといえば把握していると思う」は41%と、主治医が自身の就労状況を把握していない、あるいは把握しているかどうかがはっきりしない患者が70%を占めていた。

図1.肺がん患者の就労両立状況・意思の把握状況

 がんに罹患した際の心の動きとして、特に告知後の2週間は日常生活への適応度が低くなるとされ、重要な決断は避けた方がよいといわれる。しかし、厚生労働科学研究「離職タイミング多施設調査」(高橋班2015)によると、がん診断時に就労中していた患者のうち21%が退職している。そのタイミングを見ると、診断確定時が32%、診断~治療導入の時期が9%で、いわゆる"びっくり離職"が40%超を占めていた(図2)。

図2.がん患者の退職タイミング(950人)

(図1、2とも池田慧氏提供)

 同氏はこの点について、医師から就労の話題を切り出すことが重要であり、「びっくり離職を防ぐのは、医師の役割である」と主張。「一度退職したら戻れないし、再就職も極めて困難な現状で、まずは『今の仕事を辞めないで』と伝えるだけでもよい」と呼びかけた。さらに、「医師が就労の話題を振ることで、患者が就労について相談しやすい雰囲気をつくることも重要だ」と強調した。

 一方で、医師の側からは、自らの就労支援に関する知識のなさから、就労に関する話題を切り出すことに躊躇するとの声も聞かれる。同氏は「もちろん医師が十分な知識を持っていることが理想だが、それは現実的ではない。ここでの医師の役割は、患者をきちんと相談支援センターや専門部署につなぎ、そこを"ハブ"として、患者をさまざまな就労の専門家たちへとつなぐことである」と述べた。かつては不治の病といわれたがんだが、早期発見・早期治療により長生きが可能な時代となった。治療と仕事の両立を図る上で医師が果たす役割は大きいが、患者も主治医としっかり相談し、"びっくり離職"をしないように心がけたい。

(あなたの健康百科編集部)

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