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日本肺癌学会、肺がん患者向けのガイドブックを初刊行

 2020年02月04日 06:00

 日本肺癌学会は昨年(2019年)末、患者や家族に向けた解説書である『患者さんのための肺がんガイドブック2019年版悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む(以下、ガイドブック)』を初めて刊行した。刊行に至った背景や経緯、内容について、編集委員長として作成を統括した岐阜市民病院がんセンター長の澤祥幸氏、編集副委員長として編集実務を担った地域医療機能推進機構(JCHO)東京新宿メディカルセンター呼吸器内科医長の清水秀文氏、編集委員として患者の立場から作成に携わった三重肺がん患者の会代表の大西幸次氏に話を伺った。

肺がん治療の変化を受けWJOG版ガイドブックを刷新

――刊行に至った背景を教えてください

清水氏 患者向けの解説書としては西日本がん研究機構(WJOG)による『患者さんのためのガイドブック よくわかる肺がんQ&A(以下、肺がんQ&A)』があり、日本肺癌学会ではこれを「公認」するという形式で推奨していました。2007年に第1版が刊行され、最も新しいものは2014年に改訂された第4版です。しかし、その後にがん免疫療法が確立し、がんゲノム医療が登場するなど、診断や治療は目覚ましい進展を遂げました。このような変化を受けて「日本肺癌学会が主軸となって患者向け解説書を刷新すべき」という機運が高まり、前理事長の光冨徹哉先生が刊行を提案しました。

澤氏 私はWJOGの一員として『肺がんQ&A』の作成に関わっていたため、ノウハウの継承という役割を果たすべく『ガイドブック』の作成委員長を拝命いたしました。そして、「若い先生やメディカルスタッフ、患者さんの声も取り入れたものをつくってほしい」という現理事長の弦間昭彦先生の要望を受け、縦隔腫瘍の罹患経験を持ち、患者さんの気持ちに寄り添うことができる清水先生に副委員長をお任せし、編集実務を担当してもらいました。また、患者会からは大西幸次さんや肺がん患者の会ワンステップ代表の長谷川一男さんに参画いただき、編集委員としてご協力いただきました。

――患者さんが作成に関わるのは初めての試みなのでしょうか?

澤氏 数年前までは肺がんの患者会はほとんど存在しておらず、また、肺がんの治療成績も芳しくなかったため、こうした書籍の作成に肺がん患者さんの協力を仰ぐことは困難でした。『肺がんQ & A』では「キャンサーネットジャパン」に協力を仰いでいました。しかし、近年の治療成績の向上や肺がん患者会活動の活発化により、肺がん患者さんの声を『ガイドブック』に反映できるようになりました。

――その他、編集委員の構成に特徴があれば教えてください

澤氏 『肺がんQ&A』はWJOGが発行していたため、編集委員は腫瘍内科医が多かったのですが、今回は日本肺癌学会が主体となったことから、外科や緩和医療の先生にも加わっていただきました。また、看護師や薬剤師などのメディカルスタッフも加わっており、まさに「チーム医療」を体現した編集体制を構築することができました。

「ペイシェントジャーニー」に沿ってQ&A形式で肺がんを解説

――本書はどのような構成になっているのでしょうか?

澤氏 ベースとなった『肺がんQ&A』は、米国の腫瘍内科医Joan H. Schiller先生の著書『One Hundred Questions and Answers』を参考にしてQ&A形式を採用しました。今回発行された『ガイドブック』は『肺がんQ&A』を下地としていますが、クエスチョンは日本肺癌学会やWJOGが長年開催している市民公開講座や市民セミナーでよく聞かれる質問を整理した上で、「ペイシェントジャーニー」に基づき「肺がんの診断」「治療方針の決定」「治療内容」「再発した場合」「緩和ケア」「生活のアドバイス」に分類して構成しています。

 その上で、がん免疫療法やゲノム医療、新たな分子標的薬といった診断と治療のupdate、治療費や日常生活・就労に関わるクエスチョン、インターネット検索の「コツ」や最新のトピックス、例えば先日話題に上った「人生会議(アドバンス・ケア・プランニング)」なども新たに加えています。今回の出版に際しては特にの点に配慮して情報を更新しています。

表. 『ガイドブック』作成に当たって特に配慮された点

(『患者さんのための肺がんガイドブック2019年版 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む』)

 

 さらに今回、書名にも反映されているように、新たに「悪性胸膜中皮腫」と「胸腺腫瘍」の情報を盛り込んでいます。日本肺癌学会の学会員にはこの2つの希少がんを診ている先生も多いことから、「われわれがやらなければ誰がやる」という強い意気込みが込められています。これらの新たな情報を加えつつも、患者さんの読みやすさを考慮してクエスチョンの見直しを行い、質問数を『肺がんQ&A』の119から94に整理しました。

患者の声を反映し、診療に役立つガイドブックを目指す

――患者さんの意見はどのような形で反映されているのでしょうか?

澤氏 書籍内の決定事項には患者さんの意見を大きく反映させており、文字の書体や大きさ、レイアウトといったデザイン面はもちろん、「持ち運ぶことを考えて薄い本にしてほしい」など、医師目線では気付きにくい点もご指摘いただきました。

 もう1点重要なことは用語や言い回しです。分かりやすく、平易な用語を用いるように努めていますが、それでも患者さんには分かりにくいということは少なくありません。読みにくい用語にはふりがなを付けたり、必要に応じて用語解説を付記しましたが、それらを適切に行うために患者さんの意見を重視しています。

清水氏 患者さんの声を受けて用語を改めた例としては「曝露」があります。クエスチョン90ではご家族に対する薬剤の曝露について解説していますが、「一般にはなじみが薄い」という意見を受け、曝露という用語を使わずに排泄物、嘔吐物を適切に取り扱うよう解説しています。また、叱責口調や不安をあおるような表現になっていた文章を、「大丈夫だよ」と優しく諭す表現に改めてもらった箇所もあります。全体的に、患者さんの悩みをすくい上げるような姿勢を取っています。

大西氏 「高校卒業に相当する学力があれば理解できる」ということを1つの基準としました。当然ですが、患者は自分が肺がんと診断されるまではがんに対して無関心であり、知識もありません。私自身も診断されて初めて勉強しましたが「病期は4段階? なぜ10段階ではないのか」と思ったことを覚えています。このような患者が肺がんを正しく理解するためには、医師向けのガイドラインではなく分かりやすくかみ砕いた入門書が必要です。

澤氏 診断後はすぐにでも治療に取りかからなければならないため、「一晩で読んでもらえる内容にしたい」との思いで作成しています。

大西氏 患者の感想として「患者も勉強しなければいけないという気持ちになる」「分かりやすく解説しているので読もうという意欲が湧きやすい」「これを読んで肺がんをきちんと理解できれば先生とのコミュニケーションもスムーズになり、有意義な診療につながるかも」といった意見が上がっています。

澤氏 おっしゃるように、基本知識を身に付けることで患者さんの疑問が解消され、診療が円滑化すると期待しています。お求め安い価格設定にさせていただきましたので、ぜひ、患者さんに勧めていただければ幸いです。また、患者さんから質問を受けることが多いメディカルスタッフにもご一読いただければと思います。

(あなたの健康百科編集部)

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