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世界的健康問題"Hikikomori"への有効な対処法とは

 2020年02月13日 06:00

 「引きこもり」という言葉が、"Hikikomori"として世界で通用しつつあることをご存じだろうか。1990年代に不登校児などの若者に現われ、日本社会の病理とされたこの現象が世界の先進国でも広まりつつあるという。そして、日本では8050問題と呼ばれる、引きこもりの長期化、高齢化が深刻になっている。内閣府の発表によると、15〜39歳の引きこもり人口は54万人、40〜65歳は61万人と推定され、既に中高年層が若年層を凌駕した。この問題に関して、先に引きこもりの新定義と診断基準を発表した九州大学病院精神科神経科講師の加藤隆弘氏らの研究チームは、続いて家族用の支援プログラムを開発し効果を検証。本人よりも先に家族を変える取り組みが、引きこもりの長期化を予防すると報告した。

定義と分類:「自室からほとんど出ない」重症例

 そもそも、医学の対象となる引きこもりとは何か、どのように定義されるのか。加藤氏らがWorld Psychiatry(2020; 19: 116-117)に発表した論文から整理しよう。引きこもり(Hikikomori)とは、「病的な社会的孤立の一形態で、その本質的特徴は自宅での物理的孤立」だという。そして①自宅での極度の社会的孤立②孤立が6カ月以上続く③孤立による明らかな機能低下や苦痛がある−の3項目が、引きこもりの要件となる。社会的孤立とは、会社や学校に行かず自宅から外に出られない状態だ。

 その頻度で「軽度:時々外出する(週2~3日)、中等度:自宅からほとんど出ない(週1日以下)、重度:自分の部屋からほとんど出ない」と分類される。よく見られるのは10歳代から20歳代にかけてだが、30歳以降の発症もまれではない。高齢者や専業主婦/主夫の引きこもりも増えているという。

 引きこもり非常に大きな苦痛を伴う。進学や就職ができないことは強い挫折感を生み、自己評価を損ない、経済的自立を阻む。他人との交流機会の喪失は、コミュニケーション能力を低下させ、社会復帰をさらに難しくする。家族への暴言や暴力は家族崩壊や犯罪につながりかねず、各種の心身症、依存症やうつ病などを合併する人も多い。最近では、50歳代になった引きこもり者と80歳代の親がともに、高齢化などで孤立し経済的にも困窮するという8050問題が深刻化している。こうした点から、引きこもりは健康問題として扱われ、医療が介入すべきだと加藤氏らは考えている。

対応:まず両親が適切な知識とスキルを獲得する

 最近の調査では、引きこもり者の平均年齢は34.4歳、引きこもり継続期間は9.6年。こうした長期化、高齢化の原因の1つとして、専門家やサポート機関への支援要請の遅れがある。引きこもり者が自らから助けを求めた例は7%にすぎず、全体の72%は両親や親戚からの相談だった。しかし両親の多くは、何年もの間、見て見ぬ振りをする。子供の引きこもりを恥じ、問題を直視できず、どのように対応してよいか分からないケースが大半を占めるからだ。

 この点からは、両親が適切な知識と対処法を身に付けることが引きこもり問題、長期化の解決には最も重要だと考えられる。そこで加藤氏らが作成したのが、オーストラリアで開発された市民向けの「心の応急処置」マニュアル、メンタルヘルス・ファーストエイド(MHFA)*1と、認知行動療法に基づく「コミュニティ強化と家族訓練法(CRAFT)*2」を組み合わせた、家族向けの5日間の教育プログラムだ。実際の引きこもり者の家族でプログラムを実践するパイロット試験を行い、効果を検証した結果がHeliyonに掲載された本論文である。

 プログラムでは1回2時間のセッションを週1回、5週間にわたって行う。各セッションの概要をに示す。プログラムを通じて親は、引きこもりや精神疾患に対する理解を深め、頭ごなしの叱責にならずに子供と対話を交わせるスキルを獲得する。最終的には、引きこもり者が自ら受診してくれることが目標となる()。

表. 引きこもり者家族向け教育支援プログラムの概要

(Kubo H, et al. Heliyon 2020; 6: e03011を基に編集部作成)

図. 引きこもり者家族向けのメンタルヘルス・ファーストエイド

(九州大学プレスリリース)

 この試験には21人の親が参加、5回のセッションに参加し、6カ月間の追跡調査を受けた。プログラム完了後にアンケートを行ったところ、「うつ状態にある引きこもり架空症例への対応スキル」や「精神疾患への偏見」が改善したことが分かった。さらに参加者からの報告によると、引きこもり者の社会参加が増えるなど、社会適応面での行動変容が認められたという。

 引きこもり問題では、本人も家族も引きこもり状態への「恥」の意識を持っており、それが解決を困難にしている。今回の取り組みでは、講師の客観的なレクチャーを受ける経験、他の親と問題について話し合う経験を通じ、まず親が変わっていくのだろう。同氏らは、今後このプログラムが全国で用いられ、家族に対する教育支援が広がることを期待している。また、プログラムの改善を重ね、時間の短縮やオンライン化を検討しているという。

*1 ベティー・キッチナー、アンソニー・ジョーム『専門家に相談する前のメンタルヘルス・ファーストエイド:こころの応急処置マニュアル』(2012年、創文社)

*2 堺泉洋、野中俊介『CRAFT ひきこもりの家族支援ワークブック―若者がやる気になるために家族ができること』(2013年、金剛出版)

(あなたの健康百科編集部)

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