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ホーム »  ニュース »  2016年 »  医療の現場レポート »  【寄稿】熊本地震とKEEP project

【寄稿】熊本地震とKEEP project

熊本市民病院神経内科 橋本 洋一郎

 2016年06月02日 07:00

はじめに

 東日本大震災から5年後に熊本で大震災を経験するとは思ってもいませんでした。熊本地震の発災直後から熊本の現状を報告して欲しいとの依頼メールが来ていましたが、早期の情報発信は不安をあおったり、誤った解釈をされたりすると困るので控えていました。地震発生から1カ月以上経過したため、熊本大学循環器内科准教授の掃本誠治先生を中心に行われている静脈血栓塞栓症〔VTE:深部静脈血栓症(DVT)/肺血栓塞栓症(PE)〕への対応"KEEP project"について報告します。

前震と本震で生活が一変

 人生には"上り坂"があり、"下り坂"がある、そしてもう1つの坂がある、"まさか"という坂です。今年(2016年)4月14日(前震)と16日(本震)の熊本地震は、熊本にとっては"まさか"の大震災で熊本での生活は一変しました。3回目の大きな余震が来る可能性もあると報道され、1時間に7〜8回の余震が続いたため、車中泊の方が激増しました。4月17日時点の避難者数は、855カ所に18万3,882人(うち熊本市10万8,266人)、1カ月経過した5月14日時点で1万,606人(うち熊本市3,248名)と報告されています。

重症VTE患者が発生

 発災直後からVTE対応の必要性に関する連絡が新潟大学呼吸循環外科の榛沢和彦先生と福井大学第二内科(地域医療推進講座、神経内科)の山村修先生からメールやLINEで来ました。そのような中で4月17日と18日に重症のPE患者が救急病院に搬送され、4月18日に51歳の女性が死亡したことが新聞報道され、済生会熊本病院はVTEに関する記者会見を4月19日開きました。

DVT検診を開始

 4月19日と20日に榛沢先生に熊本市民病院の循環器内科(坂本憲治先生)と技師のチーム、さらに大学循環器内科や熊本赤十字病院の医師も加わり、益城町と熊本市でDVTのエコー検診を行いました(写真1)。

写真1. 益城町立広安小学校でのDVT検診(4月19日

写真1新潟大学の榛沢和彦先生と熊本のチーム

 血栓が見つかった場合、採血を了解いただいた方にはD-dimerを避難所で測定して、危険性の層別化も行いました。さらに榛沢先生に手配してもらった段ボールベッド(暖段ベッド)の搬入なども行いました(写真2)。

写真2. 熊本市立城南中学校でのDVT検診と段ボールベッドの搬入(4月20日

写真2

 山村先生は阿蘇医療保健復興連絡協議会(Aso disaster recovery organization: ADRO)の活動に関与されているようです。

日本循環器学会主導のDVT検診を開始

 熊本県から日本循環器学会にVTE対応の依頼があり、4月21日には熊本県、熊本市、厚生労働省の担当者の方たちとともに、熊本大学循環器内科(掃本誠治准教授)と市内基幹病院の循環器内科の部長なども加わり、VTE対策の会議が開催されました。同日夕方に国立循環器病研究センター(NCVC)のDVTチーム4人が到着し、協議しました。4月22日にはNCVCのドクターカー、日帰りで来熊されたNCVC総長の小川久雄先生も加わられ、DVT検診を熊本市と益城町で行いました(写真3〜5)。

写真3. 益城町のエミナースでのDVT検診(4月22日)

写真3右から国立循環器病研究センター総長の小川久雄先生、私、熊本市民病院循環器内科の坂本憲治先生。後方に停車しているのはNCVCのドクターカーです

写真4. 益城町のエミナースでのDVT検診(4月22日)

写真4熊本市民病院の臨床検査技師が大活躍でした

写真5. 国立循環器病研究センターチームと熊本チーム(大学、市民、日赤)

図5DVT検診後の1時間程度のミーティング後に撮影(4月22日

KEEP projectと命名

 その後は、県庁で会議を毎日18時に行い、日本循環器学会や日本臨床衛生検査技師会のチームと熊本のチーム(主に熊本市民病院の医師、検査技師、看護師)が連日、避難所でのDVT検診を継続しました。このプロジェクトをNCVCの小川久雄先生が「熊本地震血栓塞栓症予防プロジェクト:Kumamoto Earthquakes thrombosis and Embolism Protection (KEEP) Project」と命名されました。

 メンバーとしては、掃本誠治先生(熊本大学、代表)、私(熊本市民病院、副代表)、小島淳先生(熊本大学)、西上和宏先生(済生会熊本病院)、細川浩先生(熊本赤十字病院)、坂本憲治先生(熊本市民病院)、藤本和輝先生(熊本医療センター)、野田勝生先生(熊本中央病院)、それに厚生労働省、熊本県健康福祉部健康局健康づくり推進課、熊本市健康福祉局保健衛生部健康づくり推進課などの行政の方も加わっており、さらに多くの学会あるいは医師から支援や協力をいただいています。顧問に小川久雄先生(日本循環器学会代表理事、NCVC代表理事・総長)、安東由喜雄先生(熊本大学神経内科教授、医学科長)に就任いただいています。検診データは十分に解析・検討した上で発表する予定です。

車中泊者のDVT一斉検診を実施

 4月29〜30日に益城町グランメッセ車中泊者のDVT一斉検診を自衛隊のテントで実施しました(写真6)。

写真6. 益城町グランメッセ車中泊DVT一斉検診

写真64月29日〜30日(自衛隊のテントで実施)。400人以上の方に行いました

 熊本地震では車の損傷はなかったのですが、4月30日のこの車中泊の方のDVT一斉検診の後に、私の愛車(SC 430)が全電源喪失(発電機の故障、10年間で唯一の故障)し短期間乗れなくなりました。熊本地震では蛇口をひねれば水が出る、毎日入浴できる、コンビニに行けば飲みものや食べ物が24時間買えることのありがたさを実感しましたが、エンジンをかければ車が動くことのありがたさも実感しました。

ゴールデンウイークにVTEフォローアップ検診を実施

 また5月3〜5日には熊本市DVTチームの長井洋平先生(熊本大学医学部消化器外科、災害コーディネーター)のコーディネートによりゴールデンウイーク熊本地震VTEフォローアップ検診が全国から約100人の方に集まっていただいて行われました(写真7)。

写真7. ゴールデンウイーク熊本地震DVTフォローアップ検診

写真75月3〜5日に岩手、福島、新潟、福岡など全国から参加いただきました。左の写真は中央区役所のスタッフ(女性は当院の看護師)

熊本市民病院チームによる継続的DVT検診

 5月8日より熊本市DVT対策班を引き継ぎ、連日午後に循環器内科の医師と臨床検査技師で熊本市の避難所でDVT検診を継続しています。避難所には熊本市民病院の看護師さんが常駐しており、DVTのハイリスクの方をピックアップしてもらって、ハイリスクDVT検診に方向性を変更しています。

脳卒中・VTE予防ポスターを作成

 『復興には、まず健康』です。まず第一弾として脳卒中予防のためのポスターを作成しました。日本脳卒中協会、日本脳卒中学会、ファイザー株式会社でポスター(A2判1,500枚)とチラシ(A4判15,000枚)を作成して、脳卒中予防の啓発も開始しています(写真8・左)。

 第二弾として日本栓子検出と治療学会とファイザー株式会社とでVTE予防のポスター・チラシも作成中です(写真8・右)。

写真8. 啓発ポスター,脳卒中予防(左)とVTE予防(右)

写真8

日常生活を徐々に取り戻す

 発災後は診療を含め1日も休まずに活動を続けてきました。自身も被災して復興への貢献を果たしながら日常生活を徐々に取り戻しています。5月7日には熊本保健科学大学の言語聴覚士さんたちに講義をしてきました。90分×3回の集中講義でした。熊本地震後の大学全体初の講義ということで記念撮影をしました(写真9)。

写真9. 熊本保健科学大学で言語聴覚士さんたちに講義5月7日

写真9熊本地震後の大学全体初の講義!

 5月12日には熊本大学医学部でも講義をしました(写真10)。

写真10. 熊本大学医学部での講義5月12日

写真10

 5月18〜21日に神戸市で開催された第57回日本神経学会学術大会にも参加でき、学会賞受賞講演(写真11)、教育講演、市民公開講座での講演(写真12)をどうにか行うことができました。被災しながらも日常を取り戻すことが医師にとっても必要だと思っています。自宅の損壊はほとんどありませんでしたが、私の書斎(実際は物置)はドアが一部しか開かない状態のままです(写真13)。

写真11. 第57回日本神経学会学術大会での学会賞受賞講演(5月19日

写真11

写真12. 第57回日本神経学会学術大会での市民公開講座(5月21日

写真12

写真13. 私の書斎

写真13ドアが開かないため脱稿時点もこのままの状態です

 地震保険のチェックも終わりましたので、そろそろどうにかしなければと思っています。

被災者の健康維持・増進を目指す

 震災後,検診や病院の外来受診者の血圧が上がっていることが多々あります。阪神淡路大震災や東日本大震災でも震災後に血圧が上昇し、心筋梗塞や脳卒中が増加したとの報告があります。VTE対策とともに、たこつぼ型心筋症、急性期心筋梗塞、大動脈解離、心不全、脳卒中などの循環器疾患の予防対策が必要です。特に脳卒中を発症すると急性期医療、回復期リハビリテーション、維持期のリハビリテーションと介護が必要となります。脳卒中診療は、DVTの検出(奇異性脳塞栓症の診断・治療)、弾性ストッキングの着用など、VTE予防とは関連が強く、全国の支援いただいている多くの先生と議論しながら熊本地震被災者への対応を続けています。

 今後も熊本や大分で被災された方たちの健康維持(KEEP)・増進ができるように、掃本先生の指揮の下で地元のメンバーを中心に活動を継続していきたいと思っています。引き続きご支援のほどよろしくお願いいたします。

最後に

 DVT検診のデータについては今回全く触れていません。データが一人歩きして、いろいろな解釈をされてしまうと困ります。熊本地震の現場で活動し、思ったことを客観的なデータを基に近い将来報告できればと思っています。いろいろな想定外のことやトラブルも起こりました。

 またどこかで災害は起こると思います。私たちが発災直後に経験したような混乱した状況を、次の災害で繰り返さないような提言ができればと思っています。

  

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