生活習慣病が将来のNAFLD発症に関与
第57回日本人間ドック学会学術大会
2016年08月24日 07:10
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メタボリックシンドロームの一病態とされる非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と腎結石は、生活習慣の変化によりわが国での保有率が増加している。横浜市立みなと赤十字病院健診センターの伊藤美奈子氏は、肥満などの生活習慣病やメタボリックシンドロームを保有している場合は、将来のNAFLDや腎結石の発症の可能性が高いことを第57回日本人間ドック学会学術大会〔7月28~29日、大会長=社会医療法人財団慈泉会理事長/相澤健康センター(長野県)名誉顧問・相澤孝夫氏〕で報告した。
NAFLD発症群で生活習慣病とメタボリックシンドロームが有意に悪化
これまで伊藤氏らは、NAFLDと腎結石が生活習慣病・メタボリックシンドロームと関連しており、NAFLDでより関連が強いことや、NAFLDと腎結石を合併する場合は動脈硬化がより進行している可能性が高いことを横断研究により示している。今回は縦断的な分析を行った。
対象は2012年10月~15年9月に同センターの人間ドックで腹部超音波検査を施行し、5年前にも同検査を行った1,023例のうち、飲酒量20g/日以下の756例。脂肪肝、腎結石の診断は超音波検査で行い、5年前にNAFLDが認められなかった530例について、その後NAFLDを発症した群(92例)と発症していない群(438例)に分け、生活習慣病の保有とメタボリックシンドローム該当の変化について検討した。また、5年前に腎結石が認められなかった702例について、その後腎結石を発症した群(60例)と発症していない群(642例)に分け、同様に比較した。
その結果、NAFLD発症群では非発症群に比べて肥満、腹部肥満、脂質異常症、高尿酸血症、メタボリックシンドローム該当について5年前より悪化している割合が高く、有意差が認められた。
腎結石については、NAFLD発症群において高尿酸血症の割合が高かった。
NAFLD発症の独立した予測因子は肥満、脂質異常症、高尿酸血症
次に、生活習慣病の有無や治療状況、メタボリックシンドローム該当率、好ましくない生活習慣の保有(週1日以上の運動なし、週4回以上の間食、喫煙)について、5年前のデータを用いて比較した。その結果、NAFLD発症群は非発症群に比べ、肥満、腹部肥満、脂質異常症、糖代謝異常、高尿酸血症の保有率と脂質異常症、高尿酸血症の治療率、メタボリックシンドローム該当率と運動習慣を持たない者の割合が有意に高かった。腎結石については、発症群において高血圧、高尿酸血症の保有率および治療率の割合が高かった。
NAFLD発症を従属変数とし、ロジスティック回帰分析を用いて多変量解析を行ったところ、独立した予測因子は肥満、脂質異常症、高尿酸血症だった。腎結石の発症因子については、今回の検討では明らかにできなかった。
さらに、5年前にNAFLDも腎結石も認められなかった490例について、5年後にいずれも発症していない群、腎結石のみ発症した群、NAFLDのみ発症した群、腎結石とNAFLDを発症した群の4群に分類し、5年前のデータを用いて比較した。その結果、腹部肥満は、合併群で他の3群より保有率が高く、有意差が認められた。高血圧、脂質異常症、糖代謝異常、高尿酸血症についても合併群で最も保有率が高く、脂質異常症と高尿酸血症では有意差が認められた。メタボリックシンドローム該当率と因子数についても、合併群が最も高く有意差が見られた(図)。
図. メタボリックシンドローム該当率と因子数
(伊藤美奈子氏提供)
以上から、同氏は「NAFLDや腎結石を保有していなくても、生活習慣病やメタボリックシンドロームを保有する者では、将来のNAFLDと腎結石の発症の可能性が高いことが示唆された。NAFLDだけでなく、腎結石も動脈硬化を促進させる生活習慣病であることを周知し、早期介入につなげることが重要と考えられた」とした上で、「本研究では肝生検ではなく超音波検査でNAFLDを診断していること、全ての腎結石を超音波で診断することは不可能であることなど幾つかの限界がある。また後ろ向き研究でもあることから、今後は前向きの観察研究が行われることが望まれる」とまとめた。
(林 みどり)