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SGLT2阻害薬は黄斑浮腫の治療薬となるか?

 2021年10月29日 17:55
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 高血糖による慢性炎症で血管壁が損傷を受け、血管透過性が亢進して構造物の少ない黄斑部に浮腫を形成する糖尿病黄斑浮腫(DME)。治療は抗VEGF薬が中心だが、高価であり、頻回投与に反応不良な症例が一定数存在するなどの課題がある(JAMA Ophthalmol 2018; 136: 257-269)。そうした背景の下、SGLT2阻害薬のDMEに対する効果が注目されている。千葉大学糖尿病・代謝・内分泌内科診療講師の越坂理也氏は第36回日本糖尿病学会/第27回日本糖尿病眼学会(10月8~9日、ウェブ併催)で、内科医の立場からDMEに対するSGLT2阻害薬の作用メカニズムを説明するとともに、目下、進行中のCOMET試験の近況を報告した。

SGLT2阻害薬単独投与で20%以上の中心窩網膜厚減少

 越坂氏はまず、労働者健康安全機構千葉ろうさい病院眼科の高綱陽子氏らとの共同研究を紹介した。集学的な眼科治療により改善が得られなかったDME患者に、中心窩網膜厚(CRT)の減少と視力の回復が認められた例があった。そうした例では、改善前に糖尿病に対するSGLT2阻害薬治療が開始されていたことが判明したという。エンパグリフロジンが投与されていた黄斑浮腫を伴う中等度の糖尿病網膜症患者(66歳、女性)では、その後視力の回復が認められ、2年間にわたり状態は安定し、眼科治療の追加なしで経過した(図1Case Rep Ophthalmol Med 2020; 2020: 8867079)。

図1. 中等度の糖尿病網膜症患者(66歳、女性)におけるSGLT2阻害薬投与前後の黄斑浮腫の変化

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Case Rep Ophthalmol Med 2020; 2020: 8867079

 続いて越坂氏は、千葉大学病院眼科診療講師の辰巳智章氏らによる後ろ向きコホート研究の結果を報告した。同科を受診した糖尿病患者64例を対象に、①SGLT2阻害薬が導入されている割合、②黄斑浮腫(CRTが350μm以上と定義)を有する症例におけるSGLT2阻害薬導入前後のCRTと視力の変化―を検討した。その結果、SGLT2阻害薬を使用していたのは64例中24例(37.5%)であり、SGLT2阻害薬単独使用群(抗VEGF薬治療未施行)の15眼中6眼(40%)で20%以上のCRT減少が見られた(関連記事「SGLT2阻害薬は黄斑浮腫にも有効か」)。

SGLT2阻害薬に網膜ペリサイト保護効果

 こうした症例を紹介すると、内科医からは「SGLT2阻害薬が持つ利尿作用によって、黄斑浮腫にも改善が見られただけではないか」と言われるという。その影響も考えられるが、越坂氏らはSGLT2阻害薬による網膜のペリサイト(周皮細胞)を保護する働きの関与を推定している。

 網膜ペリサイトには、ナトリウムグルコース共輸送体であるSGLT2とグルコース輸送体であるGLUT1がある。グルコースはSGLT2を介して細胞内に輸送され、グルコースや、その代謝物であるソルビトール、プロテインキナーゼC(PKC)が蓄積される。一方、ナトリウム(Na)はNa-K ATPaseによって細胞から排出されることで恒常性を保っているが、高グルコース条件下ではソルビトールやPKCによってNa-K ATPaseの働きが阻害される。そのため、細胞内に異常に蓄積されたNaはペリサイトに浮腫を引き起こし、収縮能力を失う。網膜は細胞が隙間なく密に接着して血液網膜関門となり、物質の透過を厳密に制御することで、微小環境を維持している。ペリサイトが収縮能力を失うと、細胞間のtight junction障害による血液網膜関門の破綻が生じ、血管外への漏出、網膜の過灌流につながるとともにペリサイト喪失をもたらす(図2Glycobiology 2017; 27:691-695)。

図.2 グルコース依存性の細胞調節メカニズムと網膜ペリサイトの喪失

32202_fig02.jpg

Glycobiology 2017; 27:691-695

 SGLT2阻害薬は高グルコース条件下で、Naとグルコースの過剰取り込みを抑えることで、細胞内グルコースやソルビトール、PKCを正常化するため、ペリサイトの浮腫と喪失を軽減する可能性がある。

 ただし、SGLT2阻害薬単独で全てのDMEに対処できるわけではない。抗VEGF薬単独では効果が不十分な症例において機序の異なるSGLT2阻害薬を併用することで、治療効果が発揮されると同氏らは考えている。

 こうした背景から現在、「抗VEGF薬ラニビズマブ投与下の糖尿病黄斑浮腫を有する2型糖尿病患者を対象としたSGLT2阻害薬ルセオグリフロジンの有効性および安全性に関する多施設共同非盲検グリメピリド対照平行群間ランダム化比較研究:COMET試験」が共同研究者の君津中央病院(千葉県)内科の石橋亮一氏、高綱氏、辰巳氏らによって実施されている(Diabetes Ther 2020; 11: 1891-1905)。主要評価項目は対象眼について両群における治療開始時から48週間の抗VEGF薬投与回数の差で、研究実施期間は2022年10月末までを予定している。

 さらに研究グループは、株式会社JMDC(旧・日本医療データセンター、複数の健康保険組合のレセプトや健診データを蓄積している)が保有するデータベースから抗VEGF薬でDMEの治療を行った2型糖尿病患者348人を抽出、SGLT2阻害薬の有無により2群に分け、抗VEGF薬の注射回数の差異を検討するリアルワールド解析を行っている。SGLT2阻害薬がDMEの新たな治療オプションになる可能性を追求しているところだという。

 最後に越坂氏は、内科医が眼科領域治療を行う難しさに触れ、「糖尿病眼合併症に対する治療法の開発には、眼科と内科の連携が重要である。COMET試験でも、患者には内科と眼科の同日受診などのメリットを提案している。今後も連携を取って研究を進めたい」とまとめた。

(平吉里奈)

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