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新クラスの脂質低下薬、心血管イベントを抑制

ベンペド酸・スタチン不耐例の新たな選択肢に

2023年03月15日 05:05

473名の医師が参考になったと回答 

 臨床家を悩ませるスタチン不耐例を対象に、新規LDLコレステロール(LDL-C)低下薬bempedoic acid(ベンペド酸)の心血管(CV)イベント抑制効果を検証する第Ⅲ相試験CLEAR Outcomes※1の成績が判明した。同試験を主導した米・Cleveland ClinicのSteven E. Nissen氏によると、ベンペド酸は忍容性も良好で、主要心血管イベント(4-MACE:心血管死、非致死性心筋梗塞/脳卒中、冠血行再建術の複合)のリスクを13%有意に抑制したという。特に一次(初発)予防においては、スタチン以外のLDL-C低下薬として初のエビデンスとなった。結果は、米国心臓病学会/世界心臓病学会議(ACC.23/WCC、3月4~6日)で発表され、N Engl J Med2023年3月4日オンライン版)に同時掲載された。

肝で活性化受けるプロドラッグ

 スタチンによるLDL-C低下は、CVイベントのリスク低減における基盤を成す。しかしNissen氏らによると、スタチンの筋骨格系副作用は7~29%とも報告され、CVイベント抑制につながるLDL-C値達成をもたらすガイドライン推奨用量での服用を妨げる障壁となっている。

 ベンペド酸は低分子の経口LDL-C低下薬で、欧米では既に2020年に認可済みだが日本では第Ⅱ相試験の段階にある。スタチンと同様に肝臓でのコレステロール合成経路を阻害する作用を持つが、標的酵素が異なる。スタチンがHMG-CoA還元酵素を阻害するのに対し、ベンペド酸はより上流のATPクエン酸リアーゼを阻害する。加えてプロドラッグであり、活性化に関わる酵素ASCVL1※2は肝臓に豊富に発現するが筋肉には発現せず、筋関連の副作用軽減が期待できる。

スタチン不耐の初発・再発予防1万3,970例が対象

 CLEAR Outcomesは、スタチン不耐の問題に初めて焦点を当て、ベンペド酸のCVイベント抑制効果を検証すべく計画されたプラセボ対照二重盲検試験だ。

 対象は、2016年12月~19年8月に32カ国で登録した、①CVイベントの高リスク(初発予防例)または既往例(再発予防例)、②スタチン不耐※3(副作用のため服用不可能または希望しない)、③LDL-C 100mg/dL以上─などの条件を満たす1万3,970例。初発・再発予防例をそれぞれ、ベンペド酸群(180mg/日、6,992例)とプラセボ群(6,978例)にランダムに割り付け、二重盲検下で中央値40.6カ月追跡した。承認用量未満の極めて低用量のスタチン服用が忍容できる例は登録可とした。

 主要評価項目は4-MACEとし、副次評価項目はハードエンドポイントである「心血管死、非致死性心筋梗塞/脳卒中」(3-MACE)、致死性/非致死性心筋梗塞、冠血行再建術、致死性/非致死性脳卒中、心血管死、全死亡の順に検定した。

6カ月時にLDL-Cが21.7%、hsCRPは22.2%低下

 ベースライン時の患者背景は、平均年齢が65.5歳、女性が48.2%と半数近くを占め、糖尿病合併が45.6%、初発予防例が30.1%で、スタチンは22.7%、エゼチミブは11.5%が服用。平均LDL-Cは139.0mg/dL、高感度C反応性蛋白(hsCRP)は2.3mg/Lだった。

 LDL-Cの推移を見ると、投与開始6カ時はプラセボ群が0.6%の低下にとどまったのに対して、ベンペド酸群では21.7%低下。群間差はその後縮小し、追跡中の平均は15.9%(22.0mg/dL)であった。

 同試験では、PCSK9阻害薬を含め他の脂質低下薬追加が許可された。追加した患者の割合はベンペド酸群の9.4%に対し、プラセボ群では15.6%と多かったことが、経時的な群間差縮小に影響したと考えられる。

 さらに、ベンペド酸群ではhsCRPの低下幅も大きく、6カ月時で22.2%、試験終了時で19.4%の低下を示した。これに対してプラセボ群は、試験終了時も1.6%の低下幅にとどまった。

4-MACEが13%、3-MACEは15%のリスク低減

 では、これらの結果は臨床転帰にどのように反映されたのか。 主要評価項目の4-MACEの発生は、プラセボ群927例(13.3%)に対してベンペド酸群では819例(11.7%)と、13%の有意なリスク低下を示した〔ハザード比(HR)0.87、95%CI 0.79~0.96、P=0.004、〕。両群の乖離は追跡開始後12カ月未満の早期から認められ、差は経時的に広がった。治療期間40カ月での治療必要人数(NNT)は63人だった。

図. 4-MACE(心血管死、非致死性心筋梗塞/脳卒中、冠血行再建術の複合)累積発生率

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N Engl J Med 3月4日オンライン版

 主要副次評価項目の3-MACEのリスクも同様に、ベンペド酸群で15%有意に低下(ベンペド酸群8.2% vs. プラセボ群9.5%、HR 0.85、95%CI 0.76~0.96、P=0.006)。致死性/非致死性心筋梗塞は23%(同3.7% vs. 4.8%、0.77、0.66~0.91、P=0.002)、冠血行再建術は19%(同6.2% vs. 7.6%、0.81、0.72~0.92、P=0.001)の有意なリスク低下が確認された。一方、致死性/非致死性脳卒中はベンペド酸群で15%の低下傾向を示したものの有意差には至らなかった(P=0.16)。

 心血管死、全死亡については、両群のKaplan-Meier曲線は追跡中ほぼ重なって推移した。Nissen氏は「ここ10年以上、LDL-C低下療法による心血管死へのベネフィットは認められていない」と指摘した。

筋障害、糖尿病新規発症に差なし、痛風、胆石などはベンペド酸群で多い

 安全性では、重篤な有害事象(ベンペド酸群25.2%、プラセボ群24.9%)、薬剤中止に至った有害事象(同10.8%、10.4%)は両群で同等であり、スタチンで問題とされる筋障害(同15.0%、15.4%)や新規糖尿病発症(同16.1%、17.1%)も同等だった。一方、肝酵素上昇(同4.5%、3.0%)、腎イベント(同11.5%、8.6%)、痛風(同3.1%、2.1%)、腱断裂(同1.2%、0.9%)に加えて、今回初めて明らかになった胆石(同2.2%、1.2%)もベンペド酸群で多かった。

 主要評価項目のサブグループ解析では、年齢、性、初発予防か再発予防かなどにかかわらず、ベンペド酸群が優れ、Nissen氏は女性での効果が確認された点を強調した(HR:男性0.87、女性0.86)。 一方、再発予防(HR 0.91)よりも初発予防(同0.68)でリスク低下幅が大きかった点について、原著Supplementary Appendixによると有意な交互作用(P=0.03)が認められたが、米・Duke Clinical Research InstituteのJohn H. Alexander氏の付随論評(2023年3月4日オンライン版)では偶然の結果である可能性を指摘している。

 以上を踏まえ、Nissen氏は「スタチン不耐がノセボ効果(思い込みによって有害事象が出現する現象)によるものなのか、実際に不耐であるかにかかわらず、CVイベント高リスクの患者は効果的な代替療法を必要としている。今回の試験は、スタチン不耐例においてMACEのリスクを低減するためにベンペド酸を用いる強固なエビデンスを提示した」と結んだ。

エゼチミブとの配合剤では中強度スタチンに匹敵

 パネリストで米・Brigham and Women's HospitalのMichelle O'Donoghue氏は、安全性の懸念が示唆された点に注意を促した上で、同試験の成績を「全般的に説得力のある結果だ。CVイベント抑制効果はLDL-C低下から予測される効果※4に一致しており、LDL仮説をさらに支持するものだ」と解説した。

 Nissen氏は、ベンペド酸は欧米で単剤およびエゼチミブとの配合剤として利用できる点を指摘。配合剤によるLDL-C低下作用は38%と、中強度のスタチンに匹敵するとして、「それがこの薬の潜在的な有用性だ」と展望した。

 司会の1人でACC会長のEdward Fry氏は「CVイベント高リスク患者が保有する危険因子を、もはや無視したり治療せずにいることはできない。『エビデンスが証明されていない治療は避けて。既に証明された治療があるのですよ』と伝え、患者への啓発に取り組むことは臨床家としての私たちの責務だ」とコメントした。

 一方、記者会見で、臨床家がスタチンからベンペド酸への切り替えを急ぐ懸念はないかとの質問に対し、Nissen氏は、CVイベント抑制の要はスタチンである点をあらためて強調。「他クラス薬を試す前にスタチンを6剤試みている」と自身の診療を紹介。同試験の登録に際して行われた書面を用いた厳格なインフォームド・コンセントの過程については、「日常診療でも実践すべきだ」との見解を示した。

(杉田清美)

  • ※1 Cholesterol Lowering via Bempedoic acid, an ACL-Inhibiting Regimen Outcomes
  • ※2 very-long-chain acyl-CoA synthetase 1
  • ※3 スタチン不耐の定義には論議があるが、同試験ではスタチン服用中に生じた/増加し、中止後に消失/改善した有害事象と定義。①2剤以上に不耐、②2剤目を希望しなければ1剤で不耐、③医師に2剤目を試行しないようアドバイスされた─などの場合、書面でインフォームド・コンセントを取り、患者と試験参加医双方が署名するとした。 同書面には、①患者:スタチンによる死亡を含めたCVリスク低減、別のスタチンなら忍容できるかもしれないなどを理解している、②医療従事者:患者への説明・治療歴・話し合いに基づき、極めて低用量を除き患者がスタチン療法に忍容できないと判断した─などを明記した。書式は原著Supplementary Appendixで確認できる
  • ※4 Cholesterol Treatment Trialists(CTT)共同研究のメタ解析では、LDL-Cの約39mg/dL低下により主要動脈硬化性イベントが22%抑制される直線関係が確認されている。原著にも、ベンペド酸のイベント低減は、このメタ解析結果と矛盾がないと明記されている

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