親子の唾液接触でアレルギーを抑制か

2023年06月14日 16:13

　近年、先進国を中心にアレルギー性疾患の小児患者が増加しており、予防対策が急務となっている。アレルギー増加の原因として、清潔過ぎる環境下では細菌やウイルスへの曝露機会の喪失により免疫防御システムの発達が妨げられるという衛生仮説が提唱されており、常在菌や共生菌と免疫防御システムとの関連について研究が進められている。和歌山県立医科大学皮膚科学講座の久保良美氏らの研究グループは、日本人の小・中学生および保護者を対象に乳児期の親から子への唾液接触と学齢期のアレルギー発症リスクとの関連について検討。その結果をJ Allergy Clin Immunol Glob（2023; 2: 100108）に発表した。

小・中学生3,570人と保護者にアンケートを実施

　アレルゲンへの耐性は、腸内細菌叢の多様性、乳幼児期の微生物による免疫刺激、出生時の母親からの微生物獲得など、さまざまな要因により獲得できると考えられている。口腔内は消化管に次いで常在細菌が豊富で、唾液を介した細菌の腸内への移動により腸内細菌叢が変化して免疫能を高めることが示唆されている。

　既報では、親の唾液で洗浄したおしゃぶりの使用が乳幼児期のアレルギー発症予防につながる可能性が示唆されているものの（Pediatrics 2013; 131: e1829-e1837、関連記事「親の唾液に子どものアレルギー予防効果―スウェーデン研究」）、学齢期におけるアレルギー発症とその関連性については明らかでない。

　久保氏らは今回、石川県と栃木県の小中学生3,570人および保護者を対象に無記名の自記式調査票を用いた疫学調査（2016～17年）を実施。生後0～6カ月時における親の唾液で洗浄したおしゃぶりの使用および生後6～12カ月時における親との食器の共有と学齢期のアレルギー発症リスクとの関連性について検討した。

アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎の低下と関連

　有効回答が得られた3,380人（94.7%）を解析対象とした。0～6カ月時に親の唾液で洗浄したおしゃぶりを使用していた子は76人（2.2％）、6～12カ月時に食器を共用していた子は336人（9.9%）だった。アレルギー性疾患の有病率は、アトピー性皮膚炎が18.3%、アレルギー性鼻炎が59.2%、喘息が27.1%だった。

　親の唾液で洗浄したおしゃぶりの使用には、母親の妊娠中の喫煙、同胞の存在、親の口腔衛生知識の欠如が有意に関連し、食器の共有には母親／父親のアレルギー歴なし、幼児期のネコやイヌの飼育が有意に関連していた（全てP＜0.05 ）。

　解析の結果、乳児期の親の唾液で洗浄したおしゃぶりの使用は、学齢期のアトピー性皮膚炎〔オッズ比（OR）0.24、95%CI 0.10～0.60、P＝0.002〕およびアレルギー性鼻炎（同0.33、0.15～0.73、P＝0.006）の発症リスク低下と有意に関連していた。母親のアレルギー歴、妊娠中の母親の喫煙、親の口腔衛生知識を調整後も、有意な関連が維持された（アトピー性皮膚炎：同0.35、0.13～0.91、P＝0.032、アレルギ―性鼻炎：同0.33、0.14～0.73、P＝0.007）。

　一方、乳児期の食器の共有は学齢期のアトピー性皮膚炎発症リスクの低下と有意に関連し（OR 0.53、95%CI 0.34～0.83、P＝0.006）、同様の因子を調整後も関連は維持された（同0.52、0.32～0.84、P＝0.007）。

親の唾液で洗浄したおしゃぶりの使用／食器の共有と喘息との有意な関連は認められなかったものの、発症リスクの低下傾向が見られた（順にOR 0.17、95%CI 0.02～1.31、P＝0.089、同0.89、0.52～1.50、P＝0.652）。

　以上を踏まえ、久保氏らは「乳児期の親との食器共有は学童期のアトピー性皮膚炎発症リスクの低下と、乳児期の親の唾液で洗浄したおしゃぶりの使用は学童期のアトピー性皮膚炎およびアレルギー性鼻炎発症リスクの低下と有意に関連していた」と結論。

　その上で、親の唾液によるおしゃぶり洗浄がリスク低下と強い関連が示されたことから、「乳児期の中でもどのタイミングでの唾液接触が発症リスクを低下させるのか、より詳しい研究が必要である」と指摘。また、近年口腔衛生知識が普及し、コロナ禍における感染予防意識の広がりも相まって乳児が親の唾液に接触する機会が減少していることにも触れ、「今回得られた知見は大変貴重であり、結果を踏まえ安全で効果的なアレルギー疾患発症予防法の開発につなげたい」と展望している。

（植松玲奈）