座談会 JDDWが示すAI推進の標 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする [座長] 小池 和彦 氏 日本消化器関連学会機構(JDDW)理事長 [出席者](発言順) 三澤 将史 氏 昭和大学横浜市北部病院消化器センター 講師 桑原 崇通 氏 愛知県がんセンター消化器内科 医長 三吉 範克 氏 大阪大学大学院医学系研究科外科学講座消化器外科学 学部内講師 上山 浩也 氏 順天堂大学医学部附属順天堂医院消化器内科 准教授 西田 直生志 氏 近畿大学医学部消化器内科 教授 近年、医療デジタルトランスフォーメーションの前進を背景に、各診療領域で人工知能(AI)の応用が盛んに行われています。中でも消化器領域は最も開発が進んでいる領域の1つで、診断支援や画像解析などのAIが実用化され普及しつつあり、第32回日本消化器関連学会週間(JDDW 2024)では第24回医療セミナー「生成AIで変わる診療・研究・教育」が設けられるなど、JDDWでも強い関心を集めています。本座談会では、日本消化器関連学会機構理事長の小池和彦氏の座長の下、消化器領域における医療AI活用の最前線で活躍する三澤将史氏、桑原崇通氏、三吉範克氏、上山浩也氏、西田直生志氏にお集まりいただき、消化器領域におけるAI活用の現状、課題、今後についての議論を通じ、JDDWとしてのAI推進への姿勢を示していただきました。 消化器領域におけるAI活用の現状~各分野で進歩するAI、ポイントは"5年後を予測した開発" 小池 消化器領域におけるAIの開発状況について教えてください。 三澤 まず、消化器領域におけるAIの歴史をさかのぼると、1980年代の第二次AIブーム時に内視鏡診療分野で研究が始まりました。2010年代に入りディープラーニング(深層学習)が登場して以降、国内外で機械学習の技術が発展し、研究が飛躍的に進んだのが2015年前後です。現在の状況としては、医療機器承認を受けた上部・下部内視鏡AIが多数販売されており、実臨床で使用できるようになっています。さらに、肝胆膵の超音波診断AIや腹腔鏡のナビゲーションAIなど、多方面で開発競争が激しくなっている状況です。 小池 AIを開発するには、情報工学の知識や技術的な素養が必要になると思います。今や内視鏡医がAIに関する知識を持つことは常識となっているのでしょうか。 桑原 私自身は大学院時代にプログラミングなどを研究していた背景を持ちますが、最近はディープラーニングや画像解析技術が進歩しているので、開発だけであればプログラミングの知識がなくても可能です。ただ、製品化や医療機器承認を得るとなるとハードルは高くなります。 三吉 外科領域でのAI活用ではナビゲーション手術が挙げられます。1990~2000年ごろに手術支援ロボットの性能が大きく向上し、2000年にda Vinci サージカルシステムを用いた手術が行われ始め、2010年ごろからはAIと手術支援ロボットが融合したシステムが開発されるようになりました。近年では、手術中のビデオ画像を解析して異物検出や術野特定を行うなど、ビデオサージェリーとAIの融合が加速しています。 上山 胃の画像診断支援AIとしては、gastroAIとCAD EYEが上市されています。ただ精度面に関しては、評価試験での腫瘍検出成績は良好なものの、実臨床では厳しい評価が多いというのが現状です。しかし、まだ発展途上にあるという認識を持った上で、使用・普及していく必要があると思います。 小池 狭帯域光観察(NBI)と比べると診断精度はどうでしょうか。 上山 胃の画像診断支援AIはヘリコバクター・ピロリ除菌後の症例などで胃炎などを胃がんと誤診する場合があり、直接比較したデータはありませんが、現状ではNBIが優れている印象です。感度を維持しつつ誤検出を抑制するといった今後のバージョンアップが期待されます。 西田 まず、AIを開発する上で最も重要なポイントは、当たり前かもしれませんが、「AIに何をさせるか」だと考えられます。これを明確にしなければ、学習用データベースの構造化ができません。学習用データベースの構築は基礎となる部分になりますので、AIでどのような課題を解決させるかを明確にすることが非常に重要です。また、数年で学習データが古くなる場合や、さらにはデータの基になる疾患構造自体が変化することもありえますので、開発したAIが陳腐化しないようにAIで解決すべき問題を十分に吟味することは非常に大切です。このためには、例えば、上市が5年後とすると、開発するAIの5年後の需要も予測して決める必要があります。 小池 開発期間を考慮しておかなければ、完成した時点で時代遅れになるということですね。 大腸内視鏡診断支援AIの診療報酬加算獲得のポイント~病変検出支援プログラム加算新設までの道のり 三澤 今年(2024年)6月に病変検出支援プログラム加算が新設されました。具体的には、CADe(病変検出システム)を用いて大腸内視鏡下でポリープ切除術を施行した場合に60点が加算されます。経緯としては、以前より日本消化器内視鏡学会が病変検出支援プログラム加算の要望を提出していましたが通らず、並行してサイバネットシステム株式会社と共同で企業ルートを使い、厚生労働省と交渉してきました。最終的にはCADeを用いた場合の将来的な大腸がんリスクの減少というエンドポイントデータを示すことを要件に認められました。これにより、私が開発に携わった内視鏡画像診断支援プログラムEndoBRAIN-EYEが加算対象になりました。 小池 CADeによる大腸がんリスクの減少データは得られたのでしょうか。 三澤 直接的なデータはありませんが、国内外の研究で大腸の腫瘍検出率が7~10%向上することが報告されています。実際には、腫瘍検出率が1%向上すると大腸がんリスクが3%低下するという、米国の大規模試験で示された結果を提示しました。 小池 その他に認可を受けているAIを教えてください。 三澤 EndoBRAIN-EYEと同時に認可されたCAD EYEと大腸内視鏡診断支援AIのEIRL Colon Polypがあります。 桑原 なぜ、加算が60点なのですか。 三澤 当初はNBI加算と同じ200点で交渉を進めていましたが、最終的に60点になりました。 桑原 加算対象がポリープ切除術に限られています。なぜでしょうか。 三澤 ポリープ切除術に限定して申請したわけではありません。対象の絞り込みを求められ、結果としてポリープ切除術のみになりました。 三吉 臨床研究のような明確なデータがない場合、他のデータと組み合わせることは可能ですか。 三澤 ケース・バイ・ケースだと思いますが、第一に臨床研究の結果が必要になると感じました。前向きランダム化比較試験であればより良いと思います。 桑原 安全性の改善というデータでも可能でしょうか。 三澤 その議論はありませんでしたが、安全性の改善により患者の利益が大きくなるといったデータが用意できれば可能ではないかと考えます。 臨床への実装直前、今注目すべきAIとは(表) 表. 消化器領域における主なAIの発売および開発状況 (2024年9月までの情報を基に編集部作成) 小池 各領域で注目すべきAIについてお伺いします。まず胃からご紹介をお願いします。 上山 岡山大学が企業と共同開発した早期胃癌深達度AI診断支援システムが2024年3月に医療機器製造販売承認を取得しました。また、開発段階ですが、内視鏡医に負担が大きいと考えられている対策型胃がん検診の二次読影における初期診断用AIの実現が待たれます。その他には、現在、順天堂大学と企業との共同研究でNBI拡大内視鏡を用いた胃がん診断AIを開発し、その有用性を多施設共同研究として検証しており、アプリの開発も進めています。 小池 肝臓に関してはいかがでしょうか。 西田 日本で承認に向け準備中のものとしては代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)および代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の診断に関するAI、海外では腹部MRI画像からMASLD/MASHの診断を支援するAIが開発中と聞いています。また、私たちも肝腫瘤の超音波診断を支援するAIを開発し、性能評価試験を行っているところです。 小池 胆膵領域はいかがですか。 桑原 現時点ではまだ日本で実装されたAIはありませんが、数年以内には上市されると考えています。 小池 大腸で注目すべき新しいAIはありますか。 三澤 大腸に関しては、病変検出や診断など一通りの支援AIが臨床使用できるようになったことから、次の活用として早期がんの転移リスクの評価AIに注目が集まっています。「浸潤がんのリンパ節転移は10%とリスクは低く、不要な手術が多いのではないか」という問題があります。早期がんの組織標本画像を解析することでリンパ節転移リスクを層別化し、患者ごとに経過観察や切除などの妥当性を評価するAIが複数開発されています。 小池 肝硬変検体から採取した肝組織標本をAIで解析する研究によって、肝がんに進展しやすい病変が判明してきたという論文も幾つか出ています。 西田 MASHでは、組織標本画像と静脈瘤出血や肝がんの発生など原疾患により引き起こされる合併症を費もひも付けることで、診断時点で将来的な合併症の発症リスクを推測するAIが開発中と聞いています。MASHに関しては、罹患者数の増加が見込まれるだけでなく、肝機能のスクリーニング検査に漏れている集団も多いと推測されるため、今後さまざまな合併症が問題となる可能性があるので、こうした取り組みは重要だと思います。 小池 外科領域で注目すべきAIを教えてください。 三吉 日本のAIでは、術中画像を認識し、画面上に切除部位と非切除部位をリアルタイムで表示する外科手術視覚支援プログラムSurgical Vision Eurekaがあります。海外のAIですが、術前のCT画像に基づき、実際の疾患と治療を結び付ける手術ナビゲーションシステムがあります。手術そのものではありませんが、私は人の動線など手術室全体の動きをAIで解析する研究を進めています。また、AIによる病理組織解析で手術リスクを判定し、リスクがない場合には内視鏡治療のみで完結できるよう助言するといった、新しいアプリの開発も期待されています。 小池 膵がんなどは切除後にほぼ再発しますので、再発時期が予測できるAIが開発されるとよいと思います。 三吉 画像データの解析から予後予測までを網羅的に行う、オミックス解析のようなAIも開発されています。 AI活用への課題~海外プラットフォームとの競合や医師のパフォーマンス低下、学習データの管理に懸念あり 西田 先日、取り込んだ診療情報を自動的に構造化しAIで解析することにより、医療提供の支援サービスやネットワーク構築を行うという日本と米国の企業による共同プロジェクトの発表がありました。米国の電子カルテシステムの環境が日本とは異なるので、直ちに日本の診療情報を構造化することはできない可能性はあると思いますが、今後こうした海外プラットフォームに対し、日本で進められている「AIホスピタル」はどのように競合していくのか、注視しています。 三吉 外科手術に関するものではないですが、国内の病院で得られたデータを使用した術後の合併症予測プログラムがあります。ただ、まだ精度は低い印象を持っています。 小池 安全面はどうでしょうか。 三澤 各国で大腸ポリープ検出支援AIが普及する中、指摘されているのがデスキリング(de-skilling)です。つまり、AIがない状態に置かれた場合、医師のパフォーマンスが低下するという事態に陥る可能性が懸念として挙げられています。 小池 では、技術面に関する進歩や課題はありますか。 桑原 今後はChat GPTのようなAIを応用した技術が出てくると考えられます。また、電子カルテを基に自動診察するAIなど、これまで使えなかったデータを活用し、検出や診断より高度な診療に一歩踏み込んだAIが登場すると予想しています。 西田 いわゆる汎用型AIの医療応用ですね。汎用型AIでは学習に必要な量と学習の複雑さ、つまり学習の量に加えてパラメータ数が膨大になり、学習データの構造化やその品質管理が大変難しいという問題があります。また、特化型AIでも学習データを作成するにはかなりの人的負担がかかります。学習データの作成におけるマンパワー不足を解消するためには、AIを用いた学習データのアノテーション(データへのラベル付け作業)支援が必要とされます。この点に関しては、汎用型AIより特化型AIの開発では対応しやすいと考えています。現状では、AI向けの学習データを作成する上で必須となる、信頼性が低い情報を排除するデータクリーニングの作業を単一施設で行うには負担が大きいです。各医療分野の専門家の協力が欠かせないため、各学会が技術的に支援すべき部分に思えます。 AI推進のためにJDDWとして取り組むべきこと~法的な壁をいかに超えるか、開発や上市に向けた学会レベルの支援を 西田 AI自体はプログラムなので個人情報に該当しませんが、上市、つまり営利目的の際には、個人情報保護法に基づいたデータ使用に関してはインフォームド・コンセントを得る必要があります。しかし、全データについてインフォームド・コンセントを得ることは現実的に不可能です。次世代医療基盤法を利用する方法もありますが、データ提供元施設の長の承認が必要で、多くの施設からデータを収集した場合は、全ての承認を得るまでに時間を要するという問題があります。個人情報である学習データを用いて構築されたAIアルゴリズムは、法的には個人情報を含まないと考えられるのでしょうか。 三澤 プログラムつまりアルゴリズム自体は、個人情報保護法のQ&Aにおいて個人情報には該当しないと記載されています。ただ、学習画像を収集する際には、個別に本人の同意が必要で使用目的を明確に示す必要があります。そこで、1つの方法としては、個人情報保護法の改正で新設された仮名加工情報の利用が挙げられます。 西田 改正された次世代医療基盤法では、仮名加工情報を認定事業者で取り扱えるようになりましたね。 三澤 個人情報保護法にも別途に仮名加工情報という枠組みが設けられていて、個人データを病院から共同研究企業に提供する場合のハードルが下がっており、共同研究関係にあれば同施設と扱ってもよいとされています。 西田 私たちは次世代医療基盤法の枠組みの中で上市を目指してきましたが、データを収集した施設長の承認を得る手続きには、どうしても時間がかかります。この部分でJDDWのサポートがあれば、大変ありがたいと感じています。 桑原 現在、AI開発は主に患者数の多い領域で進められていますが、AIは希少疾患や有病率の低い疾患にこそ有用だと考えています。しかし、費用効果の面で開発が難しいことが少なくありませんので、公開データベース作成や個人情報問題を解消するガイドライン作成など、学会レベルで開発費を削減する仕組みをつくるべきです。 小池 本日は、消化器領域でのAI活用に関し貴重な議論を交わしていただき、ありがとうございました。JDDWおよび各学会を通じて、より多くの消化器領域のAIが開発・上市されることを望んでいます。 MTウェブJDDW2024 TOP JDDW2024公式サイト 第67回日本消化器病学会大会 [会長]上野 義之 山形大学 内科学第二(消化器内科学) 第110回日本消化器内視鏡学会総会 [会長]田中 聖人 京都第二赤十字病院 第29回日本肝臓学会大会 [会長]加藤 直也 千葉大学大学院 消化器内科学 第23回日本消化器外科学会大会 [会長]瀧口 修司 名古屋市立大学大学院 消化器外科学 第63回日本消化器がん検診学会大会 [会長]岡庭 信司 飯田市立病院 消化器内科 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ×
[座長] 小池 和彦 氏 日本消化器関連学会機構(JDDW)理事長 [出席者](発言順) 三澤 将史 氏 昭和大学横浜市北部病院消化器センター 講師 桑原 崇通 氏 愛知県がんセンター消化器内科 医長 三吉 範克 氏 大阪大学大学院医学系研究科外科学講座消化器外科学 学部内講師 上山 浩也 氏 順天堂大学医学部附属順天堂医院消化器内科 准教授 西田 直生志 氏 近畿大学医学部消化器内科 教授 近年、医療デジタルトランスフォーメーションの前進を背景に、各診療領域で人工知能(AI)の応用が盛んに行われています。中でも消化器領域は最も開発が進んでいる領域の1つで、診断支援や画像解析などのAIが実用化され普及しつつあり、第32回日本消化器関連学会週間(JDDW 2024)では第24回医療セミナー「生成AIで変わる診療・研究・教育」が設けられるなど、JDDWでも強い関心を集めています。本座談会では、日本消化器関連学会機構理事長の小池和彦氏の座長の下、消化器領域における医療AI活用の最前線で活躍する三澤将史氏、桑原崇通氏、三吉範克氏、上山浩也氏、西田直生志氏にお集まりいただき、消化器領域におけるAI活用の現状、課題、今後についての議論を通じ、JDDWとしてのAI推進への姿勢を示していただきました。 消化器領域におけるAI活用の現状~各分野で進歩するAI、ポイントは"5年後を予測した開発" 小池 消化器領域におけるAIの開発状況について教えてください。 三澤 まず、消化器領域におけるAIの歴史をさかのぼると、1980年代の第二次AIブーム時に内視鏡診療分野で研究が始まりました。2010年代に入りディープラーニング(深層学習)が登場して以降、国内外で機械学習の技術が発展し、研究が飛躍的に進んだのが2015年前後です。現在の状況としては、医療機器承認を受けた上部・下部内視鏡AIが多数販売されており、実臨床で使用できるようになっています。さらに、肝胆膵の超音波診断AIや腹腔鏡のナビゲーションAIなど、多方面で開発競争が激しくなっている状況です。 小池 AIを開発するには、情報工学の知識や技術的な素養が必要になると思います。今や内視鏡医がAIに関する知識を持つことは常識となっているのでしょうか。 桑原 私自身は大学院時代にプログラミングなどを研究していた背景を持ちますが、最近はディープラーニングや画像解析技術が進歩しているので、開発だけであればプログラミングの知識がなくても可能です。ただ、製品化や医療機器承認を得るとなるとハードルは高くなります。 三吉 外科領域でのAI活用ではナビゲーション手術が挙げられます。1990~2000年ごろに手術支援ロボットの性能が大きく向上し、2000年にda Vinci サージカルシステムを用いた手術が行われ始め、2010年ごろからはAIと手術支援ロボットが融合したシステムが開発されるようになりました。近年では、手術中のビデオ画像を解析して異物検出や術野特定を行うなど、ビデオサージェリーとAIの融合が加速しています。 上山 胃の画像診断支援AIとしては、gastroAIとCAD EYEが上市されています。ただ精度面に関しては、評価試験での腫瘍検出成績は良好なものの、実臨床では厳しい評価が多いというのが現状です。しかし、まだ発展途上にあるという認識を持った上で、使用・普及していく必要があると思います。 小池 狭帯域光観察(NBI)と比べると診断精度はどうでしょうか。 上山 胃の画像診断支援AIはヘリコバクター・ピロリ除菌後の症例などで胃炎などを胃がんと誤診する場合があり、直接比較したデータはありませんが、現状ではNBIが優れている印象です。感度を維持しつつ誤検出を抑制するといった今後のバージョンアップが期待されます。 西田 まず、AIを開発する上で最も重要なポイントは、当たり前かもしれませんが、「AIに何をさせるか」だと考えられます。これを明確にしなければ、学習用データベースの構造化ができません。学習用データベースの構築は基礎となる部分になりますので、AIでどのような課題を解決させるかを明確にすることが非常に重要です。また、数年で学習データが古くなる場合や、さらにはデータの基になる疾患構造自体が変化することもありえますので、開発したAIが陳腐化しないようにAIで解決すべき問題を十分に吟味することは非常に大切です。このためには、例えば、上市が5年後とすると、開発するAIの5年後の需要も予測して決める必要があります。 小池 開発期間を考慮しておかなければ、完成した時点で時代遅れになるということですね。 大腸内視鏡診断支援AIの診療報酬加算獲得のポイント~病変検出支援プログラム加算新設までの道のり 三澤 今年(2024年)6月に病変検出支援プログラム加算が新設されました。具体的には、CADe(病変検出システム)を用いて大腸内視鏡下でポリープ切除術を施行した場合に60点が加算されます。経緯としては、以前より日本消化器内視鏡学会が病変検出支援プログラム加算の要望を提出していましたが通らず、並行してサイバネットシステム株式会社と共同で企業ルートを使い、厚生労働省と交渉してきました。最終的にはCADeを用いた場合の将来的な大腸がんリスクの減少というエンドポイントデータを示すことを要件に認められました。これにより、私が開発に携わった内視鏡画像診断支援プログラムEndoBRAIN-EYEが加算対象になりました。 小池 CADeによる大腸がんリスクの減少データは得られたのでしょうか。 三澤 直接的なデータはありませんが、国内外の研究で大腸の腫瘍検出率が7~10%向上することが報告されています。実際には、腫瘍検出率が1%向上すると大腸がんリスクが3%低下するという、米国の大規模試験で示された結果を提示しました。 小池 その他に認可を受けているAIを教えてください。 三澤 EndoBRAIN-EYEと同時に認可されたCAD EYEと大腸内視鏡診断支援AIのEIRL Colon Polypがあります。 桑原 なぜ、加算が60点なのですか。 三澤 当初はNBI加算と同じ200点で交渉を進めていましたが、最終的に60点になりました。 桑原 加算対象がポリープ切除術に限られています。なぜでしょうか。 三澤 ポリープ切除術に限定して申請したわけではありません。対象の絞り込みを求められ、結果としてポリープ切除術のみになりました。 三吉 臨床研究のような明確なデータがない場合、他のデータと組み合わせることは可能ですか。 三澤 ケース・バイ・ケースだと思いますが、第一に臨床研究の結果が必要になると感じました。前向きランダム化比較試験であればより良いと思います。 桑原 安全性の改善というデータでも可能でしょうか。 三澤 その議論はありませんでしたが、安全性の改善により患者の利益が大きくなるといったデータが用意できれば可能ではないかと考えます。 臨床への実装直前、今注目すべきAIとは(表) 表. 消化器領域における主なAIの発売および開発状況 (2024年9月までの情報を基に編集部作成) 小池 各領域で注目すべきAIについてお伺いします。まず胃からご紹介をお願いします。 上山 岡山大学が企業と共同開発した早期胃癌深達度AI診断支援システムが2024年3月に医療機器製造販売承認を取得しました。また、開発段階ですが、内視鏡医に負担が大きいと考えられている対策型胃がん検診の二次読影における初期診断用AIの実現が待たれます。その他には、現在、順天堂大学と企業との共同研究でNBI拡大内視鏡を用いた胃がん診断AIを開発し、その有用性を多施設共同研究として検証しており、アプリの開発も進めています。 小池 肝臓に関してはいかがでしょうか。 西田 日本で承認に向け準備中のものとしては代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)および代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の診断に関するAI、海外では腹部MRI画像からMASLD/MASHの診断を支援するAIが開発中と聞いています。また、私たちも肝腫瘤の超音波診断を支援するAIを開発し、性能評価試験を行っているところです。 小池 胆膵領域はいかがですか。 桑原 現時点ではまだ日本で実装されたAIはありませんが、数年以内には上市されると考えています。 小池 大腸で注目すべき新しいAIはありますか。 三澤 大腸に関しては、病変検出や診断など一通りの支援AIが臨床使用できるようになったことから、次の活用として早期がんの転移リスクの評価AIに注目が集まっています。「浸潤がんのリンパ節転移は10%とリスクは低く、不要な手術が多いのではないか」という問題があります。早期がんの組織標本画像を解析することでリンパ節転移リスクを層別化し、患者ごとに経過観察や切除などの妥当性を評価するAIが複数開発されています。 小池 肝硬変検体から採取した肝組織標本をAIで解析する研究によって、肝がんに進展しやすい病変が判明してきたという論文も幾つか出ています。 西田 MASHでは、組織標本画像と静脈瘤出血や肝がんの発生など原疾患により引き起こされる合併症を費もひも付けることで、診断時点で将来的な合併症の発症リスクを推測するAIが開発中と聞いています。MASHに関しては、罹患者数の増加が見込まれるだけでなく、肝機能のスクリーニング検査に漏れている集団も多いと推測されるため、今後さまざまな合併症が問題となる可能性があるので、こうした取り組みは重要だと思います。 小池 外科領域で注目すべきAIを教えてください。 三吉 日本のAIでは、術中画像を認識し、画面上に切除部位と非切除部位をリアルタイムで表示する外科手術視覚支援プログラムSurgical Vision Eurekaがあります。海外のAIですが、術前のCT画像に基づき、実際の疾患と治療を結び付ける手術ナビゲーションシステムがあります。手術そのものではありませんが、私は人の動線など手術室全体の動きをAIで解析する研究を進めています。また、AIによる病理組織解析で手術リスクを判定し、リスクがない場合には内視鏡治療のみで完結できるよう助言するといった、新しいアプリの開発も期待されています。 小池 膵がんなどは切除後にほぼ再発しますので、再発時期が予測できるAIが開発されるとよいと思います。 三吉 画像データの解析から予後予測までを網羅的に行う、オミックス解析のようなAIも開発されています。 AI活用への課題~海外プラットフォームとの競合や医師のパフォーマンス低下、学習データの管理に懸念あり 西田 先日、取り込んだ診療情報を自動的に構造化しAIで解析することにより、医療提供の支援サービスやネットワーク構築を行うという日本と米国の企業による共同プロジェクトの発表がありました。米国の電子カルテシステムの環境が日本とは異なるので、直ちに日本の診療情報を構造化することはできない可能性はあると思いますが、今後こうした海外プラットフォームに対し、日本で進められている「AIホスピタル」はどのように競合していくのか、注視しています。 三吉 外科手術に関するものではないですが、国内の病院で得られたデータを使用した術後の合併症予測プログラムがあります。ただ、まだ精度は低い印象を持っています。 小池 安全面はどうでしょうか。 三澤 各国で大腸ポリープ検出支援AIが普及する中、指摘されているのがデスキリング(de-skilling)です。つまり、AIがない状態に置かれた場合、医師のパフォーマンスが低下するという事態に陥る可能性が懸念として挙げられています。 小池 では、技術面に関する進歩や課題はありますか。 桑原 今後はChat GPTのようなAIを応用した技術が出てくると考えられます。また、電子カルテを基に自動診察するAIなど、これまで使えなかったデータを活用し、検出や診断より高度な診療に一歩踏み込んだAIが登場すると予想しています。 西田 いわゆる汎用型AIの医療応用ですね。汎用型AIでは学習に必要な量と学習の複雑さ、つまり学習の量に加えてパラメータ数が膨大になり、学習データの構造化やその品質管理が大変難しいという問題があります。また、特化型AIでも学習データを作成するにはかなりの人的負担がかかります。学習データの作成におけるマンパワー不足を解消するためには、AIを用いた学習データのアノテーション(データへのラベル付け作業)支援が必要とされます。この点に関しては、汎用型AIより特化型AIの開発では対応しやすいと考えています。現状では、AI向けの学習データを作成する上で必須となる、信頼性が低い情報を排除するデータクリーニングの作業を単一施設で行うには負担が大きいです。各医療分野の専門家の協力が欠かせないため、各学会が技術的に支援すべき部分に思えます。 AI推進のためにJDDWとして取り組むべきこと~法的な壁をいかに超えるか、開発や上市に向けた学会レベルの支援を 西田 AI自体はプログラムなので個人情報に該当しませんが、上市、つまり営利目的の際には、個人情報保護法に基づいたデータ使用に関してはインフォームド・コンセントを得る必要があります。しかし、全データについてインフォームド・コンセントを得ることは現実的に不可能です。次世代医療基盤法を利用する方法もありますが、データ提供元施設の長の承認が必要で、多くの施設からデータを収集した場合は、全ての承認を得るまでに時間を要するという問題があります。個人情報である学習データを用いて構築されたAIアルゴリズムは、法的には個人情報を含まないと考えられるのでしょうか。 三澤 プログラムつまりアルゴリズム自体は、個人情報保護法のQ&Aにおいて個人情報には該当しないと記載されています。ただ、学習画像を収集する際には、個別に本人の同意が必要で使用目的を明確に示す必要があります。そこで、1つの方法としては、個人情報保護法の改正で新設された仮名加工情報の利用が挙げられます。 西田 改正された次世代医療基盤法では、仮名加工情報を認定事業者で取り扱えるようになりましたね。 三澤 個人情報保護法にも別途に仮名加工情報という枠組みが設けられていて、個人データを病院から共同研究企業に提供する場合のハードルが下がっており、共同研究関係にあれば同施設と扱ってもよいとされています。 西田 私たちは次世代医療基盤法の枠組みの中で上市を目指してきましたが、データを収集した施設長の承認を得る手続きには、どうしても時間がかかります。この部分でJDDWのサポートがあれば、大変ありがたいと感じています。 桑原 現在、AI開発は主に患者数の多い領域で進められていますが、AIは希少疾患や有病率の低い疾患にこそ有用だと考えています。しかし、費用効果の面で開発が難しいことが少なくありませんので、公開データベース作成や個人情報問題を解消するガイドライン作成など、学会レベルで開発費を削減する仕組みをつくるべきです。 小池 本日は、消化器領域でのAI活用に関し貴重な議論を交わしていただき、ありがとうございました。JDDWおよび各学会を通じて、より多くの消化器領域のAIが開発・上市されることを望んでいます。 MTウェブJDDW2024 TOP JDDW2024公式サイト 第67回日本消化器病学会大会 [会長]上野 義之 山形大学 内科学第二(消化器内科学) 第110回日本消化器内視鏡学会総会 [会長]田中 聖人 京都第二赤十字病院 第29回日本肝臓学会大会 [会長]加藤 直也 千葉大学大学院 消化器内科学 第23回日本消化器外科学会大会 [会長]瀧口 修司 名古屋市立大学大学院 消化器外科学 第63回日本消化器がん検診学会大会 [会長]岡庭 信司 飯田市立病院 消化器内科