エネルギー制限食は本当に長寿食か
NIPPON DATA80から
北里研究所病院糖尿病センターセンター長 山田悟
2016年10月11日 07:30
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研究の背景:霊長類では寿命延長効果は確認できず
抗加齢医学の世界では、エネルギー制限食(従来はカロリー制限食と呼ばれてきたが、本稿ではエネルギー制限食と呼称する)はgolden standardとも言える食事法であった。それは、さまざまな動物種における寿命延長作用が報告されてきたからである(Science 2000;289:2126-2128、Aging Cell 2006;5:514-524、Science 2001;292:104-106、J Gerontol 1985;40:657-670)。
しかし、ヒトに最も近いサルではエネルギー制限食の寿命延長作用は必ずしも確認できていない。すなわち、米・ウィスコンシン大学のグループは加齢関連死亡率の減少を示したものの全死亡率の低下は示せず(Science 2009;325:201-204、関連記事)、米国立衛生研究所(NIH)のグループにいたってはまったくそうした効果を示せなかったのである(Nature 2012;489:318-321、関連記事)。
そして、ヒトにおいてもそれは同様で、エネルギー制限食の効果を検討したLook AHEAD試験の結果、体重を減量し、HbA1cも低下させたが、心血管イベントを抑制することはできず(N Engl J Med 2013;369:145-154)、逆に男性大腿骨近位部の骨密度を有意に低下させてしまっていた(Diabetes Care 2014;37:2822-2829)。実はウィスコンシングループのサルにおいても骨量の低下が認められていたので〔Age (Dordr) 2012;34:1133-1143〕、霊長類ではエネルギー制限食の寿命延長効果の確認ができないだけでなく、エネルギー制限食の筋骨格系への安全性の問題が立ち上がっているのである。
そのような中、観察研究のデータではあるが、日本動脈硬化学会が動脈硬化性疾患発症リスクを計算する基準として採用したNIPPON DATA80において、総エネルギー摂取と総死亡率との関係を見る解析が行われ、日本動脈硬化学会の機関誌J Atheroscler Thromb(2016;23:339-354)に掲載された。寿命の延長効果を見るようなランダム化比較試験の実施が倫理的・経済的に困難であることを考えると、日本人におけるエネルギー制限食の意義を推し量る上で柱となる研究と考え、ご紹介したい。
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