上田ではなぜ 疑義照会がスムーズなのか1

上田薬剤師会会長の飯島康典氏に聞く

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 処方する医師-調剤する薬剤師-服用する患者という薬の三角形の中で、薬剤師のみが疑義照会を義務として課され、医師も患者もその意義を十分に理解していない。PharmaTribune誌で行ったアンケートからはこれが大きな問題を生む構図が見えてきた。長野県の上田地域では早くから医薬分業が定着し、面分業が根付いているという。

 上田では疑義照会はどのように行われているのか。上田薬剤師会会長の飯島康典氏(上田市・イイジマ薬局)に聞いた。

 長野県上田小県(うえだちいさがた)地域をカバーする上田薬剤師会(表1)は、医薬分業の先進地として有名だ。現在では、"かかりつけ薬剤師"構想を先取りした地域としても知られ、厚生労働省の役人や全国の薬剤師の見学が引きも切らないという。では、上田で疑義照会が問題になることはないのか。薬剤師の負担となってはいないのか。

20年前には医師会と全面対決したことも

 飯島氏は、疑義照会に関して医師からクレームを受けたり、トラブルになったりするケースはほとんどないと言い切る。ただし、実はそこに至るまでに紆余曲折の歴史があった。

 1997年5月に上田の薬剤師会と医師会が衝突、上田事件として全国の注目を集めたことがある。医師の処方した薬剤の副作用を含む医薬品情報を、薬剤師が患者に文書で示したのが発端だった。今はまったく普通のことだが、インフォームド・コンセントの理念が浸透する前であっただけに、医師会は強く反発。「医薬分業の停止」まで語られる事態となったが、同氏を含む薬剤師会役員の総辞職という形で幕引きが図られた。その後、医師会と薬剤師会による医薬品情報問題検討小委員会で協議が重ねられ、患者への情報提供に関するルールがつくられたという。

 上田事件は医師と薬剤師の、医療人としての向き合い方の問題だったかもしれない。20年たった今、上田薬剤師会は医師会の理解を得ながら多様な事業を行っている。これは医療人として対等の立場で向き合い、"顔の見える関係"を築き上げた努力の結果であろう。

新規開業クリニックには薬剤師会が訪問

 上田における医師と薬剤師の関係を示すものとして、例えば地域医薬品リスト集がある。上田薬剤師会の会員薬局が応需できる全医薬品を掲載したリストだが、これを説明するため薬剤師会は、上田小県地域で新規開業する医師にコンタクトを取る。そして、クリニックのコンピュータを覗かせてもらい、入力された用法・用量を確認するという。このプロセスを踏むことで、「分3は間違いなので分2に直す?」といった単純な疑義はほぼなくなると、飯島氏は胸を張る。

 もう1つ、病院からの院外処方箋は病院薬剤師が事前にチェックする例が多い。病院薬剤師が多数加入している点は上田薬剤師会の特徴だが(表1)、病院薬剤師と薬局薬剤師は相互の業務軽減のため協議を重ねている。これでガイドラインと相反するといった疑義照会は大幅に減る。現在は、A医院とB内科からの薬の重複や相互作用に関わる本来的な疑義照会が目立つようだ。

 実際、大和綾瀬薬剤師会(神奈川県)が2016年に会員薬局の現状把握などのために上田薬剤師会との比較を行った調査では、これを裏付ける結果が得られた。1週間に応需した処方箋のうち疑義照会を行った割合は、大和綾瀬で4.0%、上田で4.7%と差がないが、内訳は大きく異なっていた。大和綾瀬では「記載漏れや判読不能」「用法に関する疑い」が多かったが、上田では「投与日数・投与量等に関する疑い」が最多で、「残薬による処方日数調整の確認」がこれに次いだ(図1)。

 新規開業のクリニックを訪問し,医師に薬剤師の職能を理解してもらうことができるのは、いったいなぜか。その理由はこちらから。

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