遺伝子治療が不治の病を変える!?
神戸大学微生物感染症学講座感染治療学分野教授 岩田健太郎
2018年01月01日 06:30
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(c)Thinkstock/Getty Images
研究の背景:現行の血友病治療にはいろいろと欠点がある
僕は血液の専門家ではないが、今回は血友病の話である。
血友病は伴性劣性遺伝する遺伝疾患で、第Ⅷあるいは第Ⅸ因子の欠乏による出血が問題だ。そのため、さまざまな血液製剤を用いてきたのだが、多くの患者が合併症としてのHIVや肝炎ウイルスの感染に苦しんできた。遺伝子組み換え凝固因子製剤の開発で感染のリスクはなくなったが、煩瑣な治療による生活の質の低下は大きな問題である。また、凝固因子製剤により出血のリスクは下がるものの、血中第Ⅸ因子濃度が不十分だとやはり出血リスクは残る。要するに、現行の治療にはいろいろと欠点があるのだ。
余談だが、「優性」や「劣性」という言葉を使うと遺伝子の優劣を示す誤解を生じさせるから、という理由で、日本遺伝学会が「顕性」と「潜性」に改めたのだそうだ。学術界が「政治的に正しくあろう」とする、こういう改称はよくあるが、良いアイデアとはいえない。人口に膾炙しない用語はどこか嘘くさいし、なにより「ケンセー」と「センセー」は紛らわしい。言い間違い、聞き間違いによるトラブルが続出するリスクの方が高い。観念上の「差別なんとか」は差別感情そのものと対峙することが大事で、言葉をすり替えることでどうこうなるものではない。黒人を「アフリカン・アメリカン」と呼んでも、米国の黒人差別がなくなったわけではない。僕の黒人の友人は「黒い肌を黒と言って何が悪い。そう呼ぶのがいけない、という発想自体が差別的だ」と憤慨していた。
遺伝疾患の治癒をもたらすのは、遺伝子治療(gene therapy) であろう。しかし、これまでさまざまな遺伝子治療が試みられてきたが、「これは」という結果を出したものは多くない。血友病患者に対する遺伝子治療でも臨床効果を示し、かつそれが持続する結果を出したものはなかった。また、遺伝子を挿入した細胞に対する免疫反応(血栓症など)が惹起されるという有害事象も観察されている。
そんな中での今回紹介する研究である1)。
1)George LA, Sullivan SK, Giermasz A, Rasko JEJ, Samelson-Jones BJ, Ducore J, et al. Hemophilia B Gene Therapy with a High-Specific-Activity Factor IX Variant. N Engl J Med. 2017 Dec 7;377(23):2215-2227.
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