シップヘルスケアファーマシー東日本株式会社川村 和美 患者さんの望みに応えるか、医師の指示に従うべきか...。どのように判断したら適切なのだろうとモヤモヤしたことはありませんか? とりわけ、"倫理的判断"に迷う場面においては、直感に基づく判断をせず、そのケースをさまざまな側面から幅広く検討し、より望ましい決定をするというプロセスが重要になります。 さて、今回は「治療とは関係のない長い話をする患者さん」のケースです。薬剤師として、どのように対応すればよいでしょうか。 このケースの詳しい状況説明や、薬剤師が倫理的に判断するために必要な5つの視点からの解説はこちらに掲載しています。 それぞれの対応は望ましい? このケースを考える上で大切な、5つの視点から解説していきます。※(関連記事)倫理的に判断するための5つの視点とは? Aさんの服薬指導を短く切り上げ、できる限り素早くBさんに対応する。 この方法の問題点は、特に患者さんの視点と関係者の視点の不足です。突然、服薬指導の時間を短く切り上げられたAさんは、自分よりBさんが優先されたような気持ちになるでしょうし、いつもとは異なり時間をかけて話を聞いてもらえない状況を不満に感じるかもしれません。 "うるさい人ほど得をする"状況を見ていた他の患者さんがいたとすれば、それぞれに感じることがあるでしょう。口にしないだけで、同じような不満を感じている患者が他にもいるかもしれないのです。そうした不満を周囲の人に伝える可能性も考えられます。 Aさんに断りを入れてから服薬指導を中断し、先にBさんに薬をお渡ししてからAさんの服薬指導を再開する。 この方法は、特に状況の視点とQOLの視点が欠如しています。これでは、Bさんに文句を言われたから対応をしたにすぎず、AさんとBさん、あるいは他の患者さんは公平な扱いを受けていません。 その場限りの策では、Aさんの薬剤師や薬局に対する認識は何も変わらないため、この先もずっと長い話に付き合ったり、同じ問題を繰り返し抱えることになるでしょう。 Bさんがなんと言おうと、信頼関係の構築には傾聴が大切だと思うので、Aさんの話を最後まで聴く。 この方法の問題点は、薬学的な視点、関係者の視点、状況の視点、QOLの視点が足りないと考えられます。 Bさんからの問題提起があったにもかかわらず、「どんな話でも傾聴することが大切だ」という自分の思い込みにより、なんら改善をしないわけですから、Bさんはもちろん他の患者さんも離れていき、Aさんのような"とにかく話をしたい、聴いてもらいたい"患者さんだけに選ばれる薬局となってしまうかもしれません。 Aさんに引けを取らないくらい、Bさんの話もしっかりと傾聴する態度を示し、Bさんにもご理解いただく。 この方法には、特に薬学的な視点、患者さんの視点、QOLの視点が欠けています。 この薬剤師はBさんにもAさんと同様の対応をして、理解してもらおうと考えたようですが、おそらくBさんは世間話をしたいわけでも、聴いて欲しいわけでもないでしょう。Bさんの忙しい状況に配慮した上で、健康に役立つ情報の収集や提供を効率的にしようとする姿勢を続けていったとき、Bさんとも信頼関係が築けていけるはずです。 今回のAさんはもちろん、今後は誰であっても無駄な話は極力避け、迅速な調剤と交付を心掛ける。 この方法には、薬学的な視点、患者さんの視点、状況の視点が不足しています。患者さんのニーズがある以上、迅速な対応に心掛けることは必要です。ただし、単に時間短縮だけに注力し、調剤報酬と同等あるいはそれ以上の薬学的サービスを提供しようと努めなければ、地域住民に選ばれなくなる保険薬局、薬剤師になっていくでしょう。 望まれる対応は? 世間話に一切、付き合ってはいけないと言っているのではありません。世間話の中に、患者さんの健康を左右するような情報が含まれていることは珍しくありません。 ただ一方的に話を聴くことに専念し、効率的に必要な情報を取れないようでは、専門職として適切な対応とは言えません。世間話に付き合うあまり、他の患者さんに迷惑をかけたり、自身の業務に支障が出るほど時間的に圧迫されるようなことがあるならば、直ちに改善の必要があるでしょう。 例えば、このように言ってみてはどうでしょうか。「できるだけ皆さんをお待たせしないように努めたいと思っています。他の患者さんのお薬を渡し終わるまでお待ちいただけるようでしたら、その後にお話を伺いますね」――そこまで待ってでも世間話を聴いてほしいという方は、多くはありません。 こうした対応を毎回繰り返していれば、「薬剤師は仕事をするために患者と話をしているんだな」「薬局はどんな話にも付き合ってくれる場所ではないのかも」と、Aさんの保険薬局に対する認識を改めてもらえるかもしれません。 なんらかの行為をする際には、一貫性があるかないか、ない場合には、誰もが納得できる理由を示せるかどうか、考えてみるとよいでしょう。 対応策のアイデア 患者さんの健康に関する情報を効率的に聞き出す全ての患者さんに同様の対応ができるか考える特定の患者さんを特別扱いするならば、誰もが納得できる理由を示す