【解説】薬剤師に不満を持つ患者への対応

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする
感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

シップヘルスケアファーマシー東日本株式会社
川村 和美

患者さんの望みに応えるか、医師の指示に従うべきか...。どのように判断したら適切なのだろうとモヤモヤしたことはありませんか?

とりわけ、"倫理的判断"に迷う場面においては、直感に基づく判断をせず、そのケースをさまざまな側面から幅広く検討し、より望ましい決定をするというプロセスが重要になります。

さて、今回は「治療とは関係のない長い話をする患者さん」のケースです。薬剤師として、どのように対応すればよいでしょうか。

このケースの詳しい状況説明や、薬剤師が倫理的に判断するために必要な5つの視点からの解説はこちらに掲載しています。

それぞれの対応は望ましい?

このケースを考える上で大切な、5つの視点から解説していきます。
※(関連記事)倫理的に判断するための5つの視点とは?

A_alpha.pngこれ以上引き止めてCさんを怒らせるのも嫌だし、OTC薬の購入はご本人の自由なので静観する。

 この方法には、5つの視点すべてが欠落しています。Cさんに処方薬との併用や過量投与による健康被害が生じた場合、そのことを知って見過ごしていた薬剤師に責任を問われることは必至です。Cさんの気持ちもQOLも、まったく改善されていません。事実を知らせていないゆえ、主治医の対策を講じる機会をも奪っており、医薬分業の意味がありません。

B_alpha.pngこれまでCさんに接した薬剤師の対応はわからないし、自分にはどうすることもできないので、「薬剤師に不満を持っているのだな」と理解する。

 この方法も薬剤師が解釈をしたに留まり、何も行動を起こしていないため、Aと同様、5つの視点すべてが欠落しています。今後もこの保険薬局に通い、引き続きOTC薬の購入を続けるCさんを、「薬剤師に不満を持っている方なんだ」と捉え、慎重に対応したとしても、「薬剤師は何もしてくれない」というCさんの印象を払拭することはできないでしょう。併用や過量のリスクは変わりませんし、主治医にも何も伝わりません。

C_alpha.pngたくさんの鎮痛薬を飲んでいるにもかかわらず、痛みが改善されないはずがない。処方薬の薬効について、再度、丁寧な説明を試みる。

 この方法の問題点は、特に患者の視点QOLの視点が不足しています。「本当は効いているはず」「薬効に対する理解不足なんじゃないか」と疑われたCさんは、どんなに丁寧な説明を受けたところで、薬剤師を "自分を理解しようとしてくれている医療者だ" と受け入れる気持ちにはなれないのではないでしょうか。

D-aplha.jpg処方薬と市販薬を重複服薬するリスクが心配なので、OTC薬の購入は止めるようCさんを説得する。

 この方法の問題点も、特に患者の視点QOLの視点が不足しています。Cさんは、処方薬だけでは辛い症状が改善されず、過去に薬剤師に相談したけれど解決の術がなく、思い悩んでOTC薬を使用しています。処方薬と市販薬を重複服薬するリスクを伝える必要はありますが、その前に、Cさんの痛みがどういう痛みなのか、どうしたいと考えているのか、聞かせていただく必要があります。

E-alpha.png「何もしてくれない」というのはCさんの勘違いであるため、「是非なんでも私にご相談ください」と伝える。

 この方法の問題点は、特に患者の視点状況の視点が欠如しています。Cさんが言う「薬剤師は何もしてくれない」という思いは、決して勘違いではなく、Cさんの経験に基づく事実です。Cさんの勘違いだと解釈している薬剤師に対して、Cさんが「この人に話してみよう」「この人なら頼れるかもしれない」と感じてくれるはずがありません。Cさんは、薬剤師という職種に対して、不満や猜疑心を抱いてしまっているわけですから、「なんでもご相談ください」という口先だけの一般的なアプローチをしても、Cさんは心を開いてくれないでしょう。

望まれる対応は?

 まずは、自分ではなかったとしても、「Cさんにそんな想いを抱かせてしまった薬剤師の対応に、お詫びをさせてください」と、これまでの薬剤師の対応について同じ薬剤師として詫びるところから始めます。

 続いて、「よろしければ、Cさんが感じられた対応の不適切な点について、どうか教えていただけませんか?」と、薬剤師という職種に不満を抱いている原因を探ります。不満は抱えている間、ずっとイライラするものです。「教えてください」と依頼をしたとき、「そんなもの教えらえるか」と突っぱねる方は少なく、多くの方は感じている不満をちゃんと教えてくれます。

 それから、困っているCさんに「この薬剤師に話してみてよかった」「相談すれば対応してくれる薬剤師もいるじゃないか」と感じてもらえる具体的な行動をとります。例えば、処方薬に対する誤解があれば丁寧にその説明をする、CさんのOTC薬も含む用法や用量を確認し、OTC薬との相互作用はないか、過量服薬になっていないかチェックする、Cさんの痛みを丁寧にアセスメントする、その上でCさんからの情報収集により他の治療法が適切だと思えば、その判断を医師に伝えて相談・提案する、など考えられます。

 「何もしてくれない」という不満を持つ方に、何もしないという選択肢はありません。

判断力②-2.jpg

対応策のアイデア

  • まずはこれまでの対応を真摯に詫び、不満の原因を聞く
  • 薬物療法に関する適切な指導を行う
  • 患者の悩みや相談に対して、自分にできることを考える
  • 患者に「薬剤師に頼ってよかった」と感じてもらえる具体的な行動をとる
  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする