「もらった薬が足りなかった」

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

シップヘルスケアファーマシー東日本株式会社
川村 和美

患者さんの望みに応えるか、医師の指示に従うべきか...。"倫理的判断"に迷う場面においては、直感に頼らずそのケースをさまざまな側面から幅広く検討し、より望ましい決定をするというプロセスが重要になります。

次のケースに遭遇した場合、あなたならどう考えますか?

「薬が足りなかった」

私は、保険薬局に勤務して2年目の薬剤師(26歳)です。

先ほど、投薬を済ませたEさん(79歳・男性)から電話がかかってきて、「薬の数が足りなかった」と言います。

Eさんの投薬を担当した私は、投薬の前に処方数を確認してお渡しした記憶と自信があります。そもそも私以外に、調剤者と鑑査者がいて処方数を確認しているわけですから、不足しているなんてことはないはずです。

そこで、Eさんに処方された数の薬をきちんとお渡ししたはずであること、複数の薬剤師が確認しているため、そのようなことはないことを説明しました。ところがEさんは、「ないものはない」の一点張りで、聞く耳を持ってくれません。

あなたならどうしますか?

お渡しした処方薬を持ってきてもらい、数が足りていることをEさんとともに確認する。a.JPG
b.JPG調剤者、鑑査者にも加わってもらい、きちんと処方数の薬をお渡ししたことを立証する。
c.JPG不足数があるとすれば、どこかに落とした可能性も考えられるため、保険薬局からご自宅までの足取りをEさんと歩いて探す。
d.JPG年齢から考えてEさんは認知症かもしれないので、ご家族にお越しいただき、事情を説明する。
e.JPGややこしくなるのは嫌なので、Eさんが不足しているという薬の不足分を速やかにお渡しする。

あなたは、何番を選択しましたか?あるいは、別の方法を考えたでしょうか。このケースを考える上で大切な、5つの視点から解説していきます。
※(関連記事)倫理的に判断するための5つの視点とは?

5つの視点から考えてみよう!

◆薬学的な視点
患者が十分理解できるよう、説明と確認をすべき

 本ケースでは、投薬の際にEさんが十分にわかる方法で、処方数を確認していなかった点が致命的です。薬の情報提供をする上で、どの薬がどれだけ処方されているのか、追加になっている薬はあるのかないのか、ご本人に十分理解してお帰りいただかなければなりません。もちろん、Eさんの訴えの通りに処方薬が不足し、不足期間中の治療効果がなくなったとすれば、治療上に大きな問題があります。

◆患者さんの視点
患者が認識していることを一方的に批判しない

 仮に、処方薬をきちんとお渡ししていたとしても、Eさんの「不足している」という"認識は事実"です。不足していると思えたから、わざわざ保険薬局に電話をかけて来ているのです。それなのに、一方的に否定されたとしたら、Eさんは嫌な思いしかしません。そんな保険薬局に引き続き、来ようとは思いませんし、周囲にオススメしてくれないどころか、「行かない方がいい」と他者の来局を阻むかもしれません。

◆関係者の視点
患者を否定することは関係者の信頼関係も傷つける

 Eさんを認知症だと決めつけ、呼び出されて自分達の正当性を聞かされる家族は、どう感じるでしょうか。家族を呼び出して自分の訴えを否定する薬剤師を、Eさんはどう思うでしょうか。自分達の非を認めず、患者を返したと知ったとき、処方元の医師あるいはこの医療機関のスタッフは、どう考えるでしょうか。患者/家族、医療機関との信頼関係は大きく揺らぐことでしょう。

◆状況の視点
自らの主張を通すだけでは、患者の健康被害をもたらす可能性も

 もしも処方薬が不足していたにも拘らず、自分達はきちんと渡したという主張をしてEさんを返した場合、薬剤師の過失が問われる可能性があります。つまり処方薬が不足した結果、例えば、血圧が上昇して梗塞を招くといったように、期待される薬剤の効果が得られず、Eさんの健康に被害をもたらすようなことがあれば、慰謝料を請求されることが十分考えられるでしょう。反対に、安易に不足分を渡した場合、安全上の問題があります。

◆QOLの視点
現時点では、患者は薬局に不信感を抱いている

「薬が不足している」と電話をかけてきたEさんは、この保険薬局に対して不信感を有していると思われます。さらに、電話口で「不足しているはずはない」と説得されても、納得できるはずがありません。この保険薬局に対する不信感は募るばかりでしょう。もし持参した処方薬に不足がなかった場合に、薬剤師がEさんの勘違いを咎めるような態度であれば、もう二度と電話もかけたくない気持ちになるでしょう。

それぞれの対応は望ましい?

下の図は、さきほど選んでいただいた対応の一覧です。

あなたが選んだ対応が医療者として望ましい対応かどうか、次の記事では5 つの視点から問題を整理し、総合的に判断して、検証をしてみましょう。

【解説】渡したはずの薬剤を「不足している」と患者が訴えたとき、どうするか?

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