HBVを排除できない薬で肝がんは減る?
研究の背景:ウイルスの排除とがんの発症、またはHPVワクチンが「エビデンス」不要なわけ
肝臓がん、厳密には肝細胞がん(hepatocellular carcinoma;HCC)の原因はさまざまだ。しかし、最も重要な原因は、肝炎ウイルス(HBV、HCV)感染と飲酒である。
・国立がん研究センターがん情報サービス「肝細胞がん 基礎知識」
そのうち、予防が可能なものはB型肝炎ウイルスによるHCCだ。なぜなら、HBVには有効なワクチンが存在するからだ。慢性肝炎、肝硬変、そしてHCC予防のために、世界では1980年代...つまり何十年も前からHBVワクチンを積極的に接種してきた〔世界保健機関(WHO)がユニバーサル接種を推奨したのは1991年〕。有効なワクチンのおかげで、HBV感染を原因とするHCCは激減すると当初から予測されてきた。
Zanetti A. Hepatitis B vaccination: an important method of preventing HBV-related hepatocellular carcinoma. Ital J Gastroenterol. 1992 Feb; 24(2): 100-102.
Meireles LC, Marinho RT, Van Damme P. Three decades of hepatitis B control with vaccination. World J Hepatol. 2015 Aug 28; 7(18): 2127-2132.
残念ながら、日本ではHBVワクチンの定期接種化は非常に遅れた(2016年)。ワクチンの効果を吟味する専門性が乏しいためである。いわゆるワクチン・ギャップだ。
・国立感染研究所「B型肝炎ワクチンの定期接種について」(ASR 2016; 37: 156-157)
ときに、現在も日本で接種率が非常に低いワクチンにいわゆる「子宮頸がんワクチン」〔ヒトパピロマーウイルス(HPVワクチン)〕がある。このワクチン接種に消極的な意見が日本国内では多いが、その根拠の1つに「子宮頸がんを減らすというエビデンスがない」というものがある。
これは、実に間違った見解である。エビデンスの誤用である。
EBM(evidence based medicine)とはランダム化比較試験(RCT)と同義ではない。EBMのパイオニアであるデビッド・サケットは、「Best available evidenceを活用せよ」と言ったが、「RCTでなければエビデンスではない」などという狭量なことは言わなかった。こういうのを、evidence BIASED medicineというのだ。
HBV感染が多くのHCCの「原因」である。原因が存在しなければ結果は生じない。当然のことだ。自動車がなければ、自動車事故は起こりえないし、ビルがなければビルからの転落は起きえない。同様に、「HBV感染がなければ、HBV感染を原因とするHCCは起こりようがない」のである。その証明にはRCTは必要ない。だから、WHOや世界中の国で、HCC予防のためにHBVワクチンをユニバーサルに活用したのである。
実は、成人に対するHBVワクチンのHCC予防効果を実証したRCTは、2019年1月の本稿執筆時点でも存在しないのだ!そんなRCTは自明すぎて必要ないからである。
よく、「糖尿病患者の血糖値を下げても心筋梗塞は減らない」的なRCTを引き合いに出して、「HPVワクチンにはエビデンスがない」という主張を耳にするが、これは血糖値「そのもの」は真の心筋梗塞の原因でないか、あるいはその寄与率が非常に小さい、というだけの話なのだ。
他方、HCCの原因は多様で、HBVだけではない。だから、HBVワクチンがどんなに普及してもHCCそのものの根絶はありえない。
が、子宮頸がんは違う。これはほとんどがHPV感染を原因としている。HPV感染がなければ、ほとんどの子宮頸がんは発生しない。だから、WHOは子宮頸がんを「根絶するために」HPVワクチンを推奨している。
・WHO leads the way towards the elimination of cervical cancer as a public health concern
もちろん、ワクチン普及率は100%にはならないから、子宮頸がん根絶にはスクリーニングなど他の方法の併用も必要だが、とにかくそういうことなのだ。
ここでも医学的な議論、科学的な議論がまっとうではない日本の「周回遅れ」の悲惨があるわけだ。一般の方が理解できないのは、まあ、仕方がないとは思うが、プロの間できちんとした議論ができないのは全くもって情けない。
さて、HBVに話を戻すと、HCC予防にワクチンはとても有効である。が、多くの人は今もワクチン接種を受けていないし、抗体が上がらず、ワクチンの効果が出ない人もいる。HBV感染が成立してしまえばワクチンの効果は期待できない。よって、他の方法でのHCC予防が期待される。
HBVにはいろいろな抗ウイルス薬が存在する。しかし、HBVに対する抗ウイルス薬はウイルスの活性を抑えることができるが、ウイルスを体内から排除するのは困難だといわれている(ここは、HCVにおけるDAAとの違いだ)。では、こうした薬はHCCを減らしてくれるのか?
それに取り組んだのが、今回紹介する研究である。
Nguyen MH, Yang HI, Le A, Henry L, Nguyen N, Lee MH, et al. Reduced Incidence of Hepatocellular Carcinoma in Cirrhotic and Noncirrhotic Patients With Chronic Hepatitis B Treated With Tenofovir-A Propensity Score-Matched Study. J Infect Dis. 2019 Jan 1; 219(1): 10-18.
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岩田 健太郎(いわた けんたろう)

1971年、島根県生まれ。島根医科大学卒業後、沖縄県立中部病院、コロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院、アルバートアインシュタイン医科大学ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学大学院医学研究科教授(微生物感染症学講座感染治療学分野)・神戸大学医学部付属病院感染症内科診療科長。 著書に『悪魔の味方 — 米国医療の現場から』『感染症は実在しない — 構造構成的感染症学』など、編著に『診断のゲシュタルトとデギュスタシオン』『医療につける薬 — 内田樹・鷲田清一に聞く』など多数。
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