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薬剤師のための薬物相互作用

2. 薬物代謝酵素による相互作用(2019)

 2019年02月21日 13:29
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千葉大学大学院薬学研究院 臨床薬理学研究室 樋坂章博
東京大学医学部附属病院 薬剤部 大野能之

1. 薬物代謝の意義

 経口投与された薬剤は、小腸内腔から小腸粘膜を経て血液中に吸収され、門脈を通じて肝臓へと運ばれ、肝静脈を経て全身循環に入ります〈図1〉。薬物代謝酵素とトランスポーターは小腸と肝臓に特に多く発現しており、そのために薬は全身循環に入る前にまずここで代謝・輸送を受け、これらによる薬物の除去を初回通過効果(first pass effect)と呼びます。

 薬などの異物にとって、初回通過効果は体内に入る前の重要な関所となっています。関所を越えて全身循環に入った後は、多くの薬物は肝臓および腎臓で代謝・排泄を受けることで徐々に消失します。

 これらにおける薬物代謝の程度の変化は、薬効に大きな影響を与えます。したがって、併用薬により薬物代謝酵素が阻害、あるいは誘導されると、薬物相互作用が起こります。薬物相互作用は、初回通過時でもその後の全身循環からの消失過程でも両方起こりますが、そのうち初回通過時の相互作用は経口薬の場合のみに認められることに注意が必要です。そのために経口投与時と静脈内投与時では薬物相互作用の大きさが異なり、その違いは数倍に及ぶこともあります。

 薬物の体内動態には、代謝酵素の他にトランスポーターが重要な働きを示す場合があります。肝臓、腎臓、小腸における薬物の輸送については、「薬物トランスポーターの関わる相互作用」を参照してください。

図1.小腸と肝臓における初回通過効果と相互作用

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2. 薬物代謝酵素の種類

 薬物の代謝は2 相に大別されます。第Ⅰ相は水酸基が付加するなどの酸化反応、第Ⅱ相は水酸基やアミノ基などに水溶性の高い低分子が結合する抱合反応です。第Ⅰ相反応の多くは、シトクロムP450(CYP)と呼ばれる酸化還元酵素群によって触媒されます。CYPには多くの分子種が知られており、それぞれ異なる基質選択性を有します。

 一般に第Ⅰ相代謝に引き続いて第Ⅱ相代謝を受け、尿中や胆汁中に排泄される薬物が数多く知られますが、薬物によっては、第Ⅰ相、第Ⅱ相の片方だけを受けるもの、全く代謝を受けないものがあり、さらに実際には1つの薬物でも複数の代謝排泄経路をたどるのがむしろ普通です。

 このように薬物代謝は複雑ですが、どのステップが薬効を制御する鍵となるかを考えると、実際に重要な要因は少数であることがほとんどです。例えば、肝臓で第Ⅰ相、第Ⅱ相代謝を受け、腎臓から排泄される薬は、見かけ上は尿中が主排泄経路ではあっても、腎機能の増悪時に血中濃度が上昇するのは不活性の抱合体だけで、未変化体(活性体)は変化しないことが普通です。

 これに対し、代謝活性が減弱すると場合によっては尿中への代謝物としての排泄は変化しなくても、血中の未変化体(活性体)濃度は上昇し薬効が増強します。このように、薬効成分(あるいは副作用の原因成分)を直接減少させるステップに注目する必要があります。

 第Ⅰ相反応の主力を担うCYP分子種の薬物代謝に関与する割合と肝臓中の存在比を図2 に示しますが1、2)、薬物代謝への寄与はCYP3A、CYP2D6、CYP2C9、CYP2C19、CYP1A、CYP2B6 の分子種で90%以上を占めています。ここでCYP3AはCYP3A4, CYP1AはCYP1A2 が活性の主体となっています。特にCYP3A4はヒト小腸および肝臓における最も主要なCYPであり、CYPにより代謝される薬物のうち約50%に関係します。そのため、CYP3A4 の阻害による相互作用は臨床上問題となることが多く、実際に重篤な相互作用のために過去に販売中止となった薬剤も少なくありません。

図2.CYP酵素の薬物代謝への寄与率と肝臓中の存在比(文献1、2を元に著者作成)

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3. 薬物代謝酵素が関与する相互作用のメカニズム

 CYPなどの重要な代謝酵素の阻害薬の併用により、一般に基質薬の代謝が抑制されて血中濃度が上昇し、副作用発現のリスクが高まります。一方、代謝酵素を誘導する薬物の併用では、基質薬の血中濃度の低下により薬理効果が減弱します。

 ただし、代謝物に薬効がある場合はその限りではないので注意が必要です。図3 には、それぞれCYP3A4 のアゾール系抗真菌薬による阻害3)とリファンピシンの誘導4)により非常に顕著にAUCが変化した例を示しますが、CYPの活性変動に伴う薬物相互作用の場合には、このように10 倍を超える極端な変化の事例が文献上に散見されます。

 CYPの阻害の機構は3つに大別できます。すなわち、競合阻害、非競合阻害、そしてtime dependent inhibition(TDI)です。競合阻害は代謝される薬物(基質)が酵素に結合するのを邪魔する阻害薬が、基質と酵素上の同じ部位に結合し、基質が代謝されにくくなります。

 非競合阻害は、阻害薬が酵素の別の部位に結合することによって酵素(蛋白質)の立体構造が変わって基質薬が代謝されにくくなります。競合阻害および非競合阻害はどちらも可逆的であり、阻害薬が消失すると代謝酵素の活性は速やかに回復します。

 TDIは不可逆的阻害と呼ばれることもあり、一般に阻害薬が酵素と共存する時間が長いほど、阻害の程度が上昇するものを指します。その機構としてはmechanism-based inhibition(MBI)が代表的です。MBIでは、阻害薬が酵素によって代謝され、その代謝物が酵素に共有結合することによって、酵素が活性を失ったり不安定になって分解されてしまいます。その結果、基質薬が代謝されなくなります。

 一般にMBIに見られるようなTDIでの阻害は強力であることが多く、また阻害が最大効果に達するまで、あるいは消失するまでに、それぞれ数日を要します。阻害が消失するまでの時間は、一般に代謝酵素が新たに生合成される速度に依存します。ポスターではこのようなTDI の性質を考慮して、阻害が不可逆的であるものには※印を付けて可逆的なものと区別しています。

 CYP3A4 の阻害薬の中では、リトナビル、マクロライド系抗生物質、およびベラパミル等はMBIです。グレープフルーツジュースの阻害は不可逆ですが少し特殊であり、小腸のCYP3A4 が阻害され、肝臓での阻害は比較的弱いことが知られています。例えば、カルシウム拮抗薬であるフェロジピンをグレープフルーツジュースと併用すると、経口投与時には血中濃度は上昇しますが、静脈内投与時では影響がありません5)

 これに対してCYPの誘導を介する相互作用は、薬物が核内レセプターに結合することで、最終的には酵素の発現量が増加することにより生じます。代表的な薬物としては、リファンピシン、リファブチンといった抗酸菌症治療薬、フェノバルビタール、カルバマゼピン、フェニトインなどの抗てんかん薬、ハーブのセントジョーンズワートなどが知られています。代表的な核内レセプターであるPXR/RXR(pregnane X receptor/retinoid X receptor)はCYP3A4 だけでなく、CYP2CやCYP2B、さらにはグルクロン酸抱合酵素やMDR1 を含むトランスポーターをも誘導します。この例のように誘導は多くの酵素群が同時に変化する点にも特徴があります。

3.CYP3A4を介する薬物相互作用の例

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4. 薬物相互作用の程度の予測とマネジメント

 医薬品添付文書などの薬物相互作用の注意喚起の記載でしばしば薬剤師が困惑させられるのは、危険性が記載されていてもその程度が分からないので、どのように対処すべきかが判断できない点ではないでしょうか。この点を改善するために、ポスターでは全ての薬剤について3段階あるいは4段階に色分けすることで、相互作用の程度を概略で予測できるようにしています。この分類の根拠について解説します。

 経口薬Aの代謝が併用薬Bによって阻害される場合を考えます。説明を単純にするために、薬物Aは必ず第Ⅰ相代謝を受けてから排泄されるものとします。もし、阻害薬BがCYP3A4 による代謝を完全に阻害するのであれば、阻害薬B併用時の薬物AのAUCの上昇の程度は、投与された薬物Aの分子の何%がCYP3A4 で代謝されるのか、すなわちクリアランスにおけるCYP3A4の寄与率(CR:contribution ratio)によって決定されます。

 例えば、薬物Aの95%がCYP3A4 で代謝され、残り5%が他のCYP分子種により代謝される(薬物AのCR= 0.95)のであれば、阻害薬Bによって、経口投与時の薬物AのAUCは1/(1 - 0.95) = 20 倍に上昇します。

 薬物Aは完全にCYP3A4により代謝され、阻害薬Bによる阻害で活性が90%減になる場合はどうでしょうか。この場合は経口投与時の薬物AのAUCは1/(1 - 0.90) =10 倍に上昇します。この場合の阻害の程度を阻害率(IR:inhibition ratio)と呼んでいます(薬物B のIR=0.90)。この両方を組み合わせ、薬物AのCRは0.95、阻害薬BのIRは0.90 の場合について考えてみましょう。このときのAUC上昇比は、

基質薬物のAUC上昇比 = 1 / (1 - CR・IR)

 により表され、これは具体的には6.9倍と計算されます。このように薬剤の代謝酵素ごとのCRあるいはIRを求めておけば、どのような組み合わせでも相互作用の程度を予測することが可能となります。このときには、阻害の機構の違いを考慮する必要はありません。

 ポスターの薬物代謝酵素の基質薬、阻害薬は、一部の例外を除いて、以上のCRあるいはIRの値により分類して色分けされています。また、誘導薬の色分けは類似のパラメータIC(increase in clearance)に基づいています。具体的には赤、橙、青の順番に値が高いことから、赤の基質薬と赤の阻害薬を組み合わせた場合に最もAUCの上昇が大きく効果が著しく増強され、赤の基質薬と赤の誘導薬を組み合わせた場合にはAUCの減少が著しく効果も減弱すると予測されます。

 これらの値をどのように求めたか、あるいは予測の精度をどのように考えるかなどの詳細については、参考文献をご参照ください6、7)。また文献8 では、ポスターの色分けの基本となったPISCS (Pharmacokinetic Interaction Significance Classification System)という考え方について述べられています。

 薬物相互作用の注意喚起を図る場合に、薬物動態の変化の大きさは重要ですが、それは考慮すべき多数の要因の1つにしかすぎません。薬物動態が変化しても薬効および安全性の変化が明確ではない場合は、無理に用量などを調節しても混乱を招くこととなります。

 また、用量調節と代替薬のどちらを考えるか、そのときに基質薬と阻害薬のどちらを変更するかなどの判断は、個々の薬剤の薬効と安全性のプロファイル、患者の治療のニーズ、代替薬の有無などを十分に考慮する必要があります。そのような判断を助ける1つのヒントとして、ポスターでは血中濃度の変化が臨床上のリスクにつながりやすい薬効群に★を付けて示しました。したがって、同じ赤‒赤の組み合わせであっても、基質薬に★がある場合とない場合では、注意喚起の在り方を変える必要があります。

 なおポスターでは、CYP による相互作用に加えて、抱合酵素およびトランスポーターが関係する相互作用についても、同様の色分けを行いました。これは全体的に相互作用の程度を判断しやすくするためですが、CYPに比べると抱合酵素およびトランスポーターの場合には、相互作用に関係する分子種が特定できていないことが多く、相互作用の程度の予測精度は高くない可能性がありますのでご注意ください。

ポスターダウンロード
日本語版ポスター 英語版ポスター

参考文献

  1. Wienkers LC, et al. Nat Rev Drug Discov 2005; 4(10): 825-833.
  2. Shimada T, et al. J Pharmacol Exp Ther 1994; 270(1): 414-423.
  3. Neuvonen PJ, et al. Clin Pharmacol Ther 1998; 63(3): 332-341.
  4. Villikka K, et al. Clin Pharmacol Ther 1997; 61(1): 8-14.
  5. Lundahl J, et al. Eur J Clin Pharmacol 1997; 52(2): 139-145.
  6. Hisaka A, et al. Pharmacol Ther 2010; 125(2): 230-248.
  7. 大野能之 他編.これからの薬物相互作用マネジメント~臨床を変えるPISCSの基本と実践.東京,じほう,2014年.
  8. Hisaka A, et al. Clin Pharmacokinet 2009; 48(10): 653-666.

[PharmaTribune 2016年11月号掲載]

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