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薬剤師のための薬物相互作用

4. 薬物トランスポーターの関わる相互作用(2019)

 2019年02月21日 13:27
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東京大学大学院薬学系研究科 分子薬物動態学教室 前田和哉
独立行政法人理化学研究所 イノベーション推進センター 
杉山特別研究室 杉山雄一

1. 経口投与された薬物の体内での動き

 まず、経口投与された後の薬の体内での動きを考えてみよう。口から投与された薬は、食道・胃を経由して消化管(小腸)に到達し、消化管内で溶解した後、蠕動運動と共に消化管上部から下部に移動する間に、その一部が消化管壁の上皮細胞の中を通過することにより、消化管腔内から門脈を流れる血液中へと移動する。

 その後、血流にのって肝臓へと運ばれ、一部の薬物は、肝臓の実質細胞の中へと取り込まれる。取り込まれた薬物は、細胞の中にある一連の代謝酵素によって化学構造の変換を受けることで薬効が不活性化され、あるいは、薬の形を変えないまま胆汁中へと排泄され、胆管を経て消化管に胆汁と共に吐き出されて、最終的には糞便と共に排出される。

 一方、肝臓に取り込まれなかった薬物は、全身をめぐる血管へと到達し、血流にのって全身の各臓器へと分布する。この過程の中で、薬物は主な排出臓器である肝臓と腎臓にも分布することにより少しずつ処理されて、糞便中もしくは尿中を介して体外へと排出されていく。

2. 薬物の膜透過の特性とトランスポーターの必要性

 上に書いたような薬物の挙動をより詳しく細胞レベルにクローズアップして見てみると、例えば、消化管の吸収過程では、消化管の上皮細胞の中を管腔側から血管側へ突き抜けるような薬物の移動が、また肝臓・腎臓においても、血管側から細胞の中を抜けて胆汁あるいは尿中への薬物の移動が伴っている。つまり、薬物が体内に吸収されたり、体外へ排出される過程では、薬物が細胞の反対側へ移動する(経細胞輸送)ために、必ず複数回の細胞膜を介した膜透過が必須となる。

 さて、細胞膜は、脂質の二重膜からなっていることから、脂溶性の高い(油に溶けやすい)薬物は膜に溶け込むようにして細胞膜を簡単に通過できる性質がある。このような輸送は受動輸送と呼ばれ、物質の移動は、原則として膜の内外で濃度が高い方から低い方への"下り坂"方向の輸送に限られる図1

 しかし一方で、水溶性の高い(油に溶けにくい)薬物は、水と油が混ざらないのと同様に、膜にも溶けにくいことから、細胞膜の障壁を簡単には乗り越えられない。もし仮に、これ以外に膜を乗り越えるシステムがなければ、脂溶性の高い物質だけが生体内に取り込まれ、かつどの臓器にも物質は均等にしか配分されないことになってしまう。

 しかし現実には、水溶性ビタミンやアミノ酸など水溶性の高い物質であっても、消化管より効率よく吸収され体内に分布するものもある。つまり生体は、単に物質の脂溶性だけで、物質の体内における挙動が決定されないように、必要なものを効率よく取り込み、毒になるものを積極的に汲み出す能動的な機構を獲得してきた。この能動的な物質の輸送機構を担う本体が、トランスポーターという一連の分子であるといえる。いわば、膜上にある物質移動の"検問所兼運び屋さん"といった表現が適切であろう。

 一般的に、トランスポーターは、生体中で利用可能なエネルギーを消費することにより、濃度勾配に逆らって濃度の低いところから高いところへ"登り坂"方向に濃縮的に物質を輸送できる図1。このような輸送を能動輸送と呼び、その担い手の中心がトランスポーターであるということもできる。

図1.受動輸送と能動輸送

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3. 薬物トランスポーターの一般的な特徴、発現分布1

 一般的に、トランスポーターの中で、薬物を認識して輸送するものを、特に「薬物トランスポーター」と呼んでいる。生体が進化の過程で、常に曝露されているわけではないような特定の薬物に対する輸送機構を獲得するとは考えにくい。生体の周囲には、生体にとって有益なものから毒になるものまで無数ともいえる化合物が常にとりまいている。それ故、生体はあらゆる物質から身を守り、取捨選択して外界と物質交換を行うために、生体防御システムを進化させてきたと考えられる。そのようなシステムの中では、薬物も生体にとっては"異物"であり、元来環境物質に対する防御のために作動してきたトランスポーターをうまく利用して、薬物の輸送にも機能していると考えるのが自然であろう。

 トランスポーターは、生体にとって必要・不必要な物質を取捨選択することを目的としていることから、単なる膜上に空いた「穴」として何でも通過させるわけではない。トランスポーターそれぞれについて、物質を認識する"鍵穴"(タンパクの基質結合部位)の構造が異なっているがために、運ぶことができる物質は限定されている図2。非常に多くの物質に対処するために、トランスポーターは、生体内に極めて多種類存在することが知られている。薬物トランスポーターに限定しても、少なくとも数十種類が知られている。さらに、とりわけ薬物トランスポーターについては、構造の異なる非常に多種類の物質を輸送できるという特徴がある。

 ポスターを見ていただけると、1つのトランスポーターが実に多岐にわたる薬効群の薬物を輸送していることが見て取れるだろう。あまりにも色々な構造の薬物が輸送されるがために、今の科学を以てしても、新しい薬物がどのトランスポーターによって輸送されるかを、実験なしに構造式からだけでは完璧には予測できないのが現状である。

図2.消化管におけるトランスポーターの役割

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 トランスポーターは、大別して、細胞外から細胞内へ物質を取り込むものと、細胞内から細胞外へ物質を排出するものに分けられる。ポスターの中だと、OATP類、OAT類が取り込みトランスポーター、MDR1(P-glycoprotein;P-gp)、BCRP、MATE類が排出トランスポーターに属する。

 トランスポーターが物質を輸送するメカニズムとしては、物質が"鍵穴"にくっついた後、何らかの生体内エネルギーを使ってトランスポーターのタンパク質の構造を大きく変化させることで、膜の反対側へ物質を送り出す機構が実現されていると考えられている。トランスポーターの中でも、特にトランスポーター分子の中にATPと結合・加水分解する箇所があり、自らATPを分解する時に発生するエネルギーを利用して物質を輸送するトランスポーター群をABC (ATP-binding cassette)ファミリートランスポーターと呼んでおり、ポスター中ではMDR1 (P-gp), BCRPが該当する。

 一方、直接ATPのエネルギーを使うのではなく、他のイオンチャネルなどにより作られた膜内外のイオンの濃度勾配などを利用して物質を輸送するトランスポーター群をSLC(solute carrier)ファミリートランスポーターと呼んでいる。

 薬物トランスポーターは、生体内のいろいろな臓器の細胞に発現しており、各部位における薬物の濃度を厳密にコントロールしている。各トランスポーター分子種の基質選択性は、代謝酵素に負けず劣らず極めて広範であり、薬効群を超えて多様な構造を有する薬物が輸送される。それ故、薬物相互作用の対象となる薬物ペアも多岐にわたる。

 薬物の挙動にとって大事な組織としては、薬物の消化管からの吸収に関わる小腸、薬物の体外への排出に関わる肝臓・腎臓、また、体内で重要な組織・部位(例えば、脳や胎児など)を、血液と分け隔てることにより防御するための関門組織(血液脳関門、血液胎盤関門など)が挙げられる〈図32)

 薬物トランスポーターの発現部位については、個々のトランスポーターによって異なり、例えば、ポスター中だと、MDR1(P-gp)やBCRPのように肝臓、腎臓、小腸など複数の臓器に発現するトランスポーターもあれば、OATP1B1、 OATP1B3のようにもっぱら肝臓にだけ発現するトランスポーターもある。また、トランスポーターの発現部位をよりミクロに細胞レベルで見ると、血管に面した側とその反対側(肝臓なら胆管側、腎臓なら尿管腔側、小腸なら消化管管腔側)のそれぞれに異なるトランスポーターが配置されている。

 例えば、肝臓においては、肝細胞の血管側にOATP1B1、OATP1B3 をはじめとする取り込みトランスポーターが発現しており、一方、胆管側にはMDR1、 BCRP、 MRP2など種々の排出トランスポーターが発現している。そうすることによって、薬物が肝臓の血管側から肝臓中にトランスポーターによって取り込まれた後に、反対側に配置されている排出トランスポーターによって胆汁側へ吐き出されることにより、一方向性の薬物輸送を介して、極めて効率のよい胆汁排泄が担われている。

 したがって、トランスポーターの適切な配置もまた、薬物の解毒に対して重要であり、トランスポーターを介した薬物輸送の役割を理解するためには、そのトランスポーターがどこに発現しているかを知っておくこともまた重要である。

図3.全身に発現する薬物トランスポーター群(文献2をもとに著者作図)

数多くの薬物トランスポーターが全身に発現していることが知られており、小腸における薬物の吸収過程、肝臓や腎臓からの薬物の消失過程、血液脳関門における薬物の脳への移行の制限などに寄与している。図中の太丸はABCファミリートランスポーター、細丸はSLCファミリートランスポーターに属している。全て大文字で記載されているものはヒトのトランスポーターを、先頭のみ大文字で記載されているものは、げっ歯類のトランスポーターを意味している。

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4. 薬物トランスポーターを介した相互作用

 薬物トランスポーターに関する知の集積に伴い、薬物トランスポーターを介した薬物相互作用が疑われる事例報告は年々増加している。それに伴い、日米欧の規制当局は、こうした薬物相互作用をいかに創薬の初期段階で察知し、有害事象を最小化するかといった意思決定を明確化する方針を打ち出し始めている3-5)。ポスターの中で取り上げられているトランスポーターは、消化管におけるOATPsが標的と想定される相互作用を除き、いずれも日米欧3 極の(ドラフト)ガイダンス/ガイドライン中で創薬過程において評価すべきトランスポーターとして位置付けられたものであり、薬物動態を理解する上で欠かすことのできないものである。

 以下、ポスターに取り上げた個々のトランスポーターに焦点を当て、薬物相互作用に関する考え方を中心に取り上げる。

(1) MDR1(小腸、腎臓、肝臓)

 MDR1〔P糖蛋白(P-glycoprotein;P-gp)とも呼ばれる〕は、特に脂溶性の比較的高い、中性ならびに塩基性薬物を幅広く基質として輸送する。小腸の消化管腔側、腎臓の尿管腔側、肝臓の胆管側膜上に発現し、薬物を細胞内から排出することで、小腸からの吸収を制限したり、肝臓・腎臓からの排出を促進し、薬物の循環血中濃度を下げる方向に働く。

 したがって、MDR1 の機能が阻害された場合、消化管の吸収抑制の低減とともに、肝臓・腎臓からの消失の減少が起こり、薬物の循環血中濃度が上昇、ひいては薬効・副作用の増強につながることが予想される。 MDR1の良好な基質である強心配糖体ジゴキシンは、治療域が狭く血中濃度の小さな変動が問題になりやすいことから、抗不整脈薬であるキニジンやベラパミル・抗HIV薬のリトナビルなどとの併用事例など相互作用の報告が多くなされている6-8)

 ポスター中に示されたMDR1 の阻害薬とCYP3A の阻害薬はかなりオーバーラップしているが、これは、MDR1 とCYP3Aの基質選択性が比較的共通していることに起因する。したがって、小腸における薬物相互作用に占めるMDR1 の寄与については、同じく消化管に発現する代謝酵素CYP3Aも薬物吸収を制限する役割を果たしているため明確に分離できない場合が多い。

 ただ、CYP3A、 MDR1 どちらの阻害にせよ、吸収の上昇に伴う血中濃度の上昇が見られることから、注意が必要なことには変わりない。また、MDR1は、血液脳関門の血液側にも発現し、脳への薬物移行を制限する役割を果たしている。したがって、MDR1機能の阻害は、医薬品の中枢移行を上昇させ、中枢性の副作用の増強につながることも考えうる。

 一方、MDR1は、特定の薬物やサプリメントにより、PXR( pregnane X receptor)と呼ばれる転写因子を介して転写誘導(MDR1 遺伝子の転写を活性化してMDR1 のmRNA 合成を促進させる)が起こり、MDR1 の発現量が上昇することが知られている9)。特に小腸においては、薬物の接触濃度が高いことからMDR1 の転写誘導による発現量上昇が引き起こされやすいと考えられる。 

(2) BCRP(小腸、腎臓、肝臓)

 BCRPは、MDR1 と同様に小腸の消化管腔側、腎臓の尿管腔側、肝臓の胆管側膜上に発現しており、小腸吸収の制限や肝臓・腎臓からの排泄促進に働くとともに、血液脳関門にも発現し、脳への薬物の移行を制限している。BCRPも、MDR1同様、非常に広範な化合物を基質として認識する。

 In vitro 実験においては、BCRPの阻害薬は多数見いだされているが、現時点で、BCRPを臨床上阻害することが明確に実証されている物質としては、ウコンの成分でサプリメントなどにも含まれているクルクミン10)や、ロスバスタチンの血漿中濃度上昇の報告がなされたトロンボポエチン受容体作動薬エルトロンボパグ11)等、極めて数少ない。しかし最近では、OATPsの代表的な阻害薬であるシクロスポリンが、消化管のBCRP阻害にも同時に関わっている可能性が示唆されている。

 一方、特に日本人において頻度が高く(約35%)、アミノ酸の変化を伴う遺伝子多型であるc.421C>A 変異が注目を集めている。ポスター中に示した薬物の多くについてc.421C>A 変異保有者の血中濃度が有意に高いことが示されており、おそらく小腸に発現するBCRPの機能低下に伴う吸収の上昇が原因であろうと推察されている12)

(3) OATPs(小腸)

 当初、経口投与されたフェキソフェナジンの血中濃度が、グレープフルーツジュースやオレンジジュース、アップルジュースなどにより大幅に低下することがヒト臨床試験において報告され、フェキソフェナジンが、OATPsの基質であったことから、消化管におけるOATPsを介した吸収方向の取り込み過程の阻害である可能性が示唆されてきた13)

 その後、ポスターに示す通り、β遮断薬をはじめ複数の薬物について、果汁飲料との併用により、有意な血漿中濃度の減少が見られることが示されている14)。さらに、OATP2B1の遺伝子多型のうち、過去にin vitro 実験の結果、機能減弱が示唆されているc.1457C>T変異保有者において、セリプロロールやフェキソフェナジンの血漿中濃度の低下が示されている15、 16)。しかしながら、別の変異では血漿中濃度が変動するが、c.1457C>Tでは変動しない薬物17)や、逆にc.1457C>T変異により血漿中濃度が増加する事例も報告されており18)、統一した見解に至っていないのが現状である。

(4) OATP1B1, OATP1B3(肝臓)

 OATP1B1、 OATP1B3は、ともに肝臓の血管側膜上に発現する取り込みトランスポーターであり、非常に多様なアニオン性物質を基質として受け入れることが知られている。薬物相互作用による輸送機能の阻害が起こった場合、肝臓内への取り込みの減少により、肝クリアランスの減少・血中濃度の上昇が観察されると考えられる。

 セリバスタチンの血中濃度がシクロスポリンAとの併用により上昇することが知られている19)が、セリバスタチンは主にCYP2C8、一部CYP3A4 により代謝されることから、当初代謝酵素の阻害が疑われていた。しかしながら、詳細な検討の結果、セリバスタチンがOATP1B1の基質となること、シクロスポリンA が代謝酵素よりもOATP1B1 を強力に阻害することが示され、現在では、この相互作用の原因は、セリバスタチンのOATP1B1 を介した肝取り込みをシクロスポリンAが阻害することによる、肝クリアランスの減少であることが明らかにされている〈図420)。その後、OATP1B1基質薬物が数多く見つかっており、肝取り込み過程における薬物相互作用の重要性が高まりつつある21)

図4.セリバスタチンとシクロスポリンAの薬物相互作用19、20)
(グラフは文献19を基に、図は文献20を基に著者作図)

 セリバスタチンは、シクロスポリンAと併用時に血漿中濃度が上昇することが知られている。その原因として、代謝酵素の阻害能より肝取り込みトランスポーターOATP1B1に対する阻害能が強いことから、セリバスタチンのOATP1B1を介した肝取り込みをシクロスポリンAが阻害したためであることが示されている。図中のM-1、M-23、M-24はいずれもセリバスタチン由来の代謝物名を示しており、これらは主にCYP2C8、一部CYP3A4が寄与することで生成することが知られている。

 ポスター中に示した薬物の一部は、代謝が主な消失経路であるが、肝取り込みにOATP1B1、OATP1B3のようなトランスポーターが同時に関与する場合、代謝過程と比較して、肝取り込み過程が肝クリアランス全体の決定要因になることが多いことが理論的にも示されており、代謝で消失することが既知の薬物についても、肝取り込み過程の相互作用について留意しておく必要があると考えられる。

 最近の特徴として、複数のHIV治療薬やC型肝炎治療薬などでOATPs阻害能が確認されており、併用によりOATPs基質薬物の血中濃度が2倍程度に軽度に上昇する薬物が増加傾向にある点が上げられる。また、C型肝炎治療薬のうち、アニオン性のNS3/4Aプロテアーゼ阻害薬(シメプレビル、アスナプレビル、バニプレビル、パリタプレビル、グラゾプレビル、グレカプレビル)は、OATP1B1、 OATP1B3の良好な基質となり、典型的なOATPs阻害薬との併用によって血中濃度が大きく上昇するといった報告があることに留意が必要である。これらの薬剤は、しばしば合剤として使用されることがあり、それぞれの薬物が複数の代謝酵素・トランスポーターを同時に阻害するケースも見られる。その場合、多岐にわたる基質薬物の血中濃度に対して影響を及ぼす事象も見られていることから、相互作用には細心の注意を払う必要があると考えられる。

 また最近承認された脂質異常症治療薬(選択的PPARαモジュレーター)ペマフィブラートは、肝臓のOATPsの良好な基質となることから肝選択性の薬効を備えている。その反面、OATPs阻害薬であるシクロスポリンA、リファンピシンにより血中AUCがそれぞれ14倍、11倍に上昇することが知られており、両者とは併用禁忌となっている。従って、他のOATPs阻害薬との併用についても血中濃度上昇のリスクは考慮しておく必要があると考えられる。

 一方、リファンピシンやエファビレンツなど転写誘導剤の反復投与がプラバスタチンの血漿中濃度を低下させるという報告があることから、OATP1B1の発現誘導によるものであると推察されている22, 23)

 また、OATP1B1については、ポスター中に示したように比較的頻度の高い遺伝子多型が2カ所報告されている。c.521T>C変異を持つヒトにおいては、複数のOATP1B1基質薬物について、全ての報告で血中濃度が上昇する傾向が観察されており、in vitro実験の結果もOATP1B1の機能低下を支持していることから注意が必要である24)

 最近、シンバスタチンの筋毒性発現を決定する遺伝子についてヒトゲノム全体の遺伝子変異をくまなく調べたところ、最終的にOATP1B1のc.521T>C変異のみが有意なリスク因子として探索されたとする報告がなされた25)。その後の大規模臨床試験の結果も、この結果を支持している26)。これは、スタチン類がOATP1B1の基質であり、この機能低下が血中濃度上昇を招き、筋肉への薬物曝露を上昇させたと考えれば説明可能であり、今後、臨床的な意義も含め注目されている。

 c.388A>G変異については、報告事例は少ないものの、傾向としては、機能亢進により基質薬物の消失が促進されているような臨床所見が観察されている24)

(5) OAT1, OAT3(腎臓)

 OAT1、 OAT3 は、主に腎臓の血管側膜上に発現している取り込みトランスポーターであり、さまざまなアニオン系物質の能動的な分泌を担っている。OAT3 は、OATP 類と似た基質選択性を示し、比較的脂溶性が高く分子量の大きな基質を認識するのに対して、OAT1 は、OAT3 の基質よりは水溶性が高めの分子量の小さな基質(核酸アナログなど)を認識することが知られている。

 In vitro 実験では数多くの物質がOAT 類を阻害することが知られているが、蛋白非結合形の血中薬物濃度が阻害定数(Ki)よりはるかに小さい薬物が大部分であり、臨床でOAT類を阻害しうる薬物は、プロベネシドやゲムフィブロジル、一部の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)に限られる〈図5〉。抗悪性腫瘍薬/抗リウマチ薬のメトトレキサートは特に治療域が狭いことから、血中濃度の小さな上昇でも毒性発現につながる可能性がある。特にプロベネシドとの併用によって、血中濃度が2~4 倍に上昇した臨床報告が複数あり27、 28)、さらに併用が毒性発現を誘起した報告29)もあることから、十分に注意が必要であるといえる。

(6) MATEs(腎臓、肝臓)

 MATEファミリートランスポーターは、主に腎臓の尿管腔側膜上に発現することが知られており、腎臓に取り込まれた薬物を効率よく尿中へ排出するトランスポーターであると考えられている。h3受容体拮抗薬シメチジンは、フェキソフェナジンやカチオン性薬物(メトホルミンなど)と相互作用することにより、腎クリアランスを低下させることが知られており30、 31)、当初は、カチオン性化合物の腎取り込みに関与するOCT(organic cation transporter)2 の阻害であると考えられていた。

 しかし最近、シメチジンのOCT2 に対する阻害定数は、臨床での蛋白非結合形薬物濃度よりも大きく、一方、MATEsに対してシメチジンは強力に阻害をかけることが明らかとなり32)、MATEsによる腎排出過程の阻害が相互作用の原因であることが示唆されている33、 34)図5

 MATEsの薬物動態における役割については、今後さらなる検討が必要であるが、MATEsの基質となる薬物はin vitro 試験では数多く同定されている。さらにMATEs は、肝臓の胆管側にも発現が見られており、動物実験レベルでは、MATEsの機能低下は、メトホルミンの肝集積を増加させ、副作用である血中乳酸値の上昇が増強されることが実証されており35、 36)、今後、MATEsの肝消失や肝臓への分布の制御因子としての役割についても、さらなる報告が期待される。

図5. 腎トランスポーターを介した薬物相互作用

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(A)プロベネシド1gを約12時間前および30~60分前に経口投与した後、フロセミド40 mgを静脈内投与したときのフロセミド血漿中濃度の推移
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(B)シメチジン400 mgを6日間、1日2回前投与した後、メトホルミン500mgを経口投与したときのメトホルミン血漿中濃度の推移
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(C)(A)(B)の相互作用メカニズム

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日本語版ポスター 英語版ポスター

参考文献

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[PharmaTribune 2016年11月号掲載]

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