「サンシャインください」

危険ドラッグを探し求める顧客にどう対応するか?

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

シップヘルスケアファーマシー東日本株式会社
川村 和美

患者さんの望みに応えるか、医師の指示に従うべきか...。"倫理的判断"に迷う場面においては、直感に頼らずそのケースをさまざまな側面から幅広く検討し、より望ましい決定をするというプロセスが重要になります。

次のケースに遭遇した場合、あなたならどう考えますか?

「サンシャインください」

私は、ドラッグストアに勤務している薬剤師(25歳)です。

ある日、近くのG高校の制服を着た女子高生から「すいませ〜ん、サンシャインが欲しいんですけど」と声をかけられました。

サンシャインという商品が思い当たらなかったため、どんなものかと尋ねると、「ピンクっぽいオレンジ色で、薬の上のとこにチョウチョとかハートの絵が書かれているヤツです」と言います。そんな薬は見たことはもちろん、聞いたこともありません。効果については「嫌なことが忘れられるらしいです」ということ。値段を聞くと、「友達が1錠5,000円くらいで買えるって言ってました」と答えました。

「嫌なことが忘れられる薬なんて、ない。それに、1錠5,000円って、危険ドラッグじゃないの!?」と思いました。

あなたならどうしますか?

あなたならどうしますか?

a_02.jpg「ここでは販売していない」と女子高生に説明して速やかに帰ってもらい、面倒なことに巻き込まれたくないため、このことは誰にも言わない。
b_02.jpg生徒に指導する必要があるため、G高校の先生に生徒が危険ドラッグらしいものを購入しに来たことを情報提供する。
c_02.jpgG高校の生徒が危険ドラッグを所持していることに間違いないため、直ちに警察に通報する。
d_02.jpg女子高生から購入しようとした経緯やその目的など詳しく聞き、友達も連れて来てもらって親身に話を聞く。
e_02.jpgインターネットで探せば購入できそうな気がするので、そちらで探す方がいいと教えてあげる。

あなたは、何番を選択しましたか?あるいは、別の方法を考えたでしょうか。このケースを考える上で大切な、5つの視点から解説していきます。
※(関連記事)倫理的に判断するための5つの視点とは?

5つの視点から考えてみよう!

 このケースを考える上で、大切なポイントを【薬学的な視点】【利用者の視点】【関係者の視点】【状況の視点】【QOLの視点】の5つから解説していきます。

◆薬学的な視点
乱用される代表的な薬物と作用

 乱用される代表的な薬物は、メタンフェタミンやアンフェタミンを始めとする覚せい剤、コカインやMDMA、ヘロインや大麻といった麻薬指定のもの、LSDやPCPのような幻覚剤があります。その他の薬剤も合わせて現在2,376物質が指定薬物となっています(平成31年3月1日時点)1)

 危険ドラッグの代表格であるMDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン、3,4-methylenedioxymethamphetamine)は、その化学構造からメタンフェタミンのような中枢神経興奮作用と、メスカリンの幻覚作用を併せ持っています。服薬後、3〜6時間にわたって脳の神経細胞から大量のセロトニンを放出させることにより、幸福感や共感力を向上させますが2)、薬物の効果がなくなったとき、レセプターに結合するセロトニンが圧倒的に不足するため気分が落ち込んだり、抑うつ感やひどい疲労感を感じます3)。快楽を求めると同時に、離脱症状を回避するために摂取を繰り返す結果、依存に陥る危険性が高いのです。

◆女子高生の視点
"サンシャイン"の購入は悪いと認識していない可能性

 女子高生は友達から聞いた情報を元に、「薬だったら近所のドラッグストアに売っているかも」と考えて来店したのでしょう。高校近くの店舗に訪れていること、薬剤師に声をかけていることから、彼女に「"サンシャイン"の購入は悪いこと」との認識は全くないと思われます。また、危険ドラッグを使用することのリスクも、わかっていない可能性が高そうです。友達から「嫌なことを忘れられる薬がある」と知り、5,000円で嫌なことが忘れられるなら試してみたいと思っただけなのかもしれません。。

◆関係者の視点
高校職員が知った場合の対応と影響は?

 高校の先生が近隣のドラッグストアから情報提供を受けた場合、おそらく校長を始め、全教員に連絡が行き渡るでしょう。その上で、全生徒に生活指導をするかもしれませんし、危険ドラッグを使おうとしている生徒を探そうとするかもしれません。情報提供を受けたのに何もしないというのも問題があると、高校側が考えることもあるでしょう。そのような高校の対応を受けたとき、生徒はそれぞれにどう感じるでしょうか。さらに父兄に情報が渡った場合、父兄はこうした情報をどのように受け取り、これらの情報をどう拡散するでしょうか。

◆状況の視点
危険ドラッグ所持が疑われた場合の通報の義務は?

 G高校の生徒が危険ドラッグを所持していたとすれば、薬事法の指定薬物の使用・所持禁止違反(76条の4、83条の9、84条)や薬物乱用防止条例等に該当する気がします。 

 警察のHPには「薬物を持っていたなど、見たり聞いたりしたときはすぐに連絡してください」と書かれていますが、法律上は、通報の義務を課されている職業は公務員に限られるそうです。違法薬物の使用の有無が分かる職業は医師以外に考えられないため、薬剤師が顧客と接する場面において、警察に通報するというケースはまず考えられないでしょう。仮に薬物を見たとしても、分析でもしない限り、その薬物に指定薬物が含まれているか分かりません。

 一方で、薬剤師の業務によって知り得た情報であることから、これらを口外した場合、守秘義務違反に問われる可能性がありす。

◆QOLの視点
通報した場合に周りが受ける衝撃は大きい

 警察に対してであっても学校に対してでも、もしあなたが通報をすれば、当該女子高生はもちろんのこと、他の生徒や先生、父兄、地域に至るまで、大きな衝撃を与えるでしょう。

それぞれの対応は望ましい?

下の図は、さきほど選んでいただいた対応の一覧です。

あなたが選んだ対応が医療者として望ましい対応かどうか、次の記事では5 つの視点から問題を整理し、総合的に判断して、検証をしてみましょう。

【解説】危険ドラッグを探し求める顧客にどう対応するか?

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