【解説】危険ドラッグを探し求める顧客にどう対応するか?

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

シップヘルスケアファーマシー東日本株式会社
川村 和美

患者さんの望みに応えるか、医師の指示に従うべきか...。どのように判断したら適切なのだろうとモヤモヤしたことはありませんか?

とりわけ、"倫理的判断"に迷う場面においては、直感に基づく判断をせず、そのケースをさまざまな側面から幅広く検討し、より望ましい決定をするというプロセスが重要になります。

今回は、ドラッグストアでの顧客対応中に危険ドラッグを求められたケースです。薬剤師として、どのように対応すればよいでしょうか。

このケースの詳しい状況説明や、薬剤師が倫理的に判断するために必要な5つの視点からの解説はこちらに掲載しています。
※(関連記事)「サンシャインください」

それぞれの対応は望ましい?

このケースを考える上で大切な、5つの視点から解説していきます。
※(関連記事)倫理的に判断するための5つの視点とは?

a.JPG 「ここでは販売していない」と女子高生に説明して速やかに帰ってもらい、面倒なことに巻き込まれたくないため、このことは誰にも言わない。

この方法は、5つの視点のすべてが欠落しています。接客した薬剤師は自己保身しか考えていません。また、彼女に帰ってもらっても、今後、別の高校生が来店する可能性があります。このような場合にどのスタッフでも同様の対応ができるよう、どういう対策をとるとよいか、店舗で話し合っておく必要があるでしょう(具体的には【望まれる対策】をご参照ください)。

b.JPG 生徒に指導する必要があるため、G高校の先生に生徒が危険ドラッグらしいものを購入しに来たことを情報提供する。

 女子高生の視点関係者の視点状況の視点QOLの視点が不足した対応です。近隣のドラッグストアから情報提供を受け、この女子高生が高校の先生から怒られたとします。そのことを聞いた親は、どのように受け取るでしょうか。「よく教えてくれた」「未然に防ぐことができてよかった」と喜んでもらえるとは限りません。女子高生が危険ドラッグを購入も所持もしていなかったとすれば、名誉毀損で訴えられるということもあるかもしれません。高校の先生が生徒全員に生活指導をした場合、あらゆる生徒とその関係者から恨まれたり、責められるという可能性もあるでしょう。

c.JPG G高校の生徒が危険ドラッグを所持していることに間違いないため、直ちに警察に通報する。

 この方法も、5つのすべての視点が欠落しています。女子高生は単にドラッグストアに買い物に行ったつもりなのに、その後、学校や自宅に警察がやってきたとすれば、本人はもちろん家族までもひどく傷つけることになります。この方法の最大の問題は「危険ドラッグを所持しているかどうかわからない」のに通報してしまっているという点です。女子高生の友達も、単に見聞きした情報を話しただけなのかもしれません。仮に何かしらの錠剤を所持していたとしても、それが指定薬物だという確証はありません。また、安易に通報する行為によって、その店舗に対する地域住民の信頼感が揺らぐということも十分に考えられるでしょう。

d.JPG女子高生から購入しようとした経緯やその目的など詳しく聞き、友達も連れて来てもらって親身に話を聞く。

 この方法では、特に関係者の視点状況の視点が不足しています。女子高生から購入しようとした経緯やその目的などを詳しく聞くのは、望ましい対応だと思います。仮に女子高生が連れて来た友達が、薬物依存に陥っていたとします。もちろん話を聞くことはできます。しかし、その先、どうしたらよいかという知識を薬剤師は十分に有していません。思春期で精神的に不安定な若年者に対し、あるいは薬物依存者に対し、適切なアドバイスをしてくれる専門家へのアクセスを促すことが望ましいでしょう。

e.JPG インターネットで探せば購入できそうな気がするので、そちらで探す方がいいと提案する。

 この方法の問題点は、特に薬学的な視点状況の視点の欠如です。確かに、インターネットで探せば、女子高生が求めている薬は見つけられそうな気がします。しかし、もしも女子高生が危険ドラッグを購入して服薬した場合、意識がなくなったり、吐いたり、痙攣を起こしたり、錯乱状態になったり、最悪、死に至ったとき、購入を勧めた薬剤師はどう責任を取れるでしょうか。この購入がきっかけで女子高生が薬物依存に陥る可能性もあります。

 顧客のニーズに応じることがサービス業のスタンスではありますが、それ以上に、薬剤師として地域住民の健康を守るということが重要でしょう。健康に被害を及ぼす行為を、薬剤師が勧めるなんてありえません。

望まれる対応は?

 今回のケースでは、女子高生にきちんとした情報提供(教育)することが必要です。買おうとしている薬はおそらく危険ドラッグで、それがさまざまな健康被害を起こす危険な薬物であることを女子高生に説明しましょう。そういう危険な薬物を使って、悲しい想いをすることになってはなりません。そのことは友達にも教えてあげてほしいし、もしも友達が使っているならやめるように伝えてほしいと言いましょう。「薬物乱用のリスクからあなたをなんとしても守りたい!」という気持ちで臨めば、きっと伝わるはずです。

 仮に、友達が自力で止めることができない状況になっていると聞いたときは、相談できる場所4)があること、そこには一緒に考えてくれる人がいることを伝え、連絡先を渡しましょう。

 危険ドラッグはその種類の多さもさることながら5)、売買の際にわからないよう通称(俗称)がたくさんあるため、それらをすべて把握することはできません。とはいえ、薬物乱用は私たちの気づかないところで予想以上に蔓延しており、このようなケースに薬剤師がいつ出会うかも分かりませんので、薬の専門家として流通の多い危険ドラッグや主な通称は知っておく必要があるでしょう。

 ドラッグストアに勤務する薬剤師は、患者さんのみならず、幅広く地域住民と接することができる数少ない医療職です。その貴重な立ち位置を大いに活かして、地域住民の健康をあらゆる面から支援していきたいと思います。

対応策のアイデア

  • 薬物乱用のリスクからあなたを守りたい!という気持ちで臨む
  • 危険ドラッグは健康被害を起こす違法薬物であると情報提供(教育)する
  • 適切な対応をしてくれる専門機関の存在を伝える
  • 流通の多い危険ドラッグに関する知識を意識的にアップデートする
  • 地域住民の健康をあらゆる面から支援しよう!

1) https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000479379.pdf
2) Danforth, Alicia L.; Struble, Christopher M.; Yazar-Klosinski, Berra; Grob, Charles S. (2016). "MDMA-assisted therapy: A new treatment model for social anxiety in autistic adults". Progress in Neuro-Psychopharmacology and Biological Psychiatry 64: 237-249. doi:10.1016/j.pnpbp.2015.03.011. PMID 25818246.
3) Your Brain On MDMA https://www.youtube.com/watch?v=jEAr7ThsYew&hd=1
4) 全国の精神保健福祉センター一覧 https://www.mhlw.go.jp/kokoro/support/mhcenter.html
5) みんなで知ろう 危険ドラッグ http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/no_drugs/drug_db/index.html

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