結論ありきのひん曲げ論文にご用心
HPVワクチンは危険なのか
神戸大学微生物感染症学講座感染治療学分野教授 岩田健太郎
2019年06月01日 06:10
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© Getty Images ※画像はイメージです
研究の背景:HPVワクチンの安全性の議論は決着したのではなかったか
前回は、福島第一原発事故と先天性心疾患の関連を示唆した論文を批判的に吟味した。
このような研究はゼロベースでやるのが重要である。最初から派閥的に「原発推進派」「反原発派」みたいな「立場」をつくり、自らの主張をサポートするような形でデータをこねくり回して論文を書くのはご法度である。
科学、サイエンスという言葉はラテン語の「scire(知る)」から派生した。知りたい、真実が知りたいからこそ研究するのである。真実なんてどうでもいいから、俺の主張を認めろ、は科学者の態度ではない。デマゴーグの態度である。
しかし、そのような残念なデマゴーグは少なくない。結論ありき、真実なんてどうでもいいから、私の主張を支持させたい、な連中である。
今回紹介する論文は、僕がそういうデマゴーグである、と推察する研究者による研究である。
Yaju Y, Tsubaki H. Safety concerns with human papilloma virus immunization in Japan: Analysis and evaluation of Nagoya City's surveillance data for adverse events. Jpn J Nurs Sci 2019 Jan 28.[Epub ahead of print]Available from: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jjns.12252
本連載では以前、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンが子宮頸がんワクチンなどの発症予防に効果があることを結論づける論文を紹介した(関連記事「子宮頸がんは撲滅可能、不作為は罪」)。
では安全性はどうかというと、海外では安全性を吟味した複数の研究があり、ワクチン接種群と非接種群では、重篤な有害事象の発生率に差がないとの結果が示されている。
●Medina DM, et al. Safety and immunogenicity of the HPV-16/18 AS04-adjuvanted vaccine: a randomized, controlled trial in adolescent girls. J Adolesc Health. 2010 May; 46(5): 414-421
●Scheller NM, et al. Quadrivalent HPV vaccination and risk of multiple sclerosis and other demyelinating diseases of the central nervous system. JAMA. 2015 Jan 6; 313(1): 54-61など。
日本でも名古屋市の女性を対象とした比較研究(名古屋スタディ)において、HPVワクチン接種群と非接種群で20以上の症状の発生について大きな差がなかったことが示された。
●Suzuki S, Hosono A. No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study. Papillomavirus Res. 2018 Jun; 5: 96-103
しかし、この研究で用いたのと同じデータを再吟味して、「やはりHPVワクチンは認知機能や運動に異常を生じるのではないか」と懸念を表明する論文が発表された。それが今回紹介する研究である。
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