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OA治療薬の承認に見る厚労省の二重構造

東京脳神経センター 整形外科・脊椎外科部長 川口浩

 2019年07月02日 05:05
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研究の背景:複雑怪奇なWntシグナルがOA創薬の標的に

「ハキダメにツル」の話をする。前半の「ツル」の話は私自身の反省を込めたオタクネタで少々退屈かも知れないが、後半の「ハキダメ」の話はご期待(?)に添えるかもしれないので、我慢して最後までお付き合いいただきたい。

 変形性関節症(OA)は、膝などの四肢や脊椎全ての関節が罹患する疾患であり、国内の患者数は2,000万人を超える。運動器疾患の中で最も多く、その治療は骨粗鬆症(1,280万人)や関節リウマチ(70万人)を凌ぐ重大課題である。この2つの疾患とOAとの大きな違いは、前者が全身疾患であるのに対して後者は局所疾患という点である。したがって、OAの治療法においては、従来の内服薬や血管内・皮下注射薬などの全身治療から、関節内注射薬や外用薬などの局所治療へのパラダイムシフトが起こっている。しかしながら、それらは痛みに対する対症療法(symptom modification)の域を出ておらず、関節軟骨を保護・修復する原因療法(structure modification)が確立されていないのが現状である。

 今回紹介するのは、Wnt(ウィント)シグナルのOAの創薬への応用に関する論文である(Osteoarthritis Cartilage 2019年5月25日オンライン版)。ご存じの先生も多いと思うが、Wntシグナルは複雑怪奇である。個体発生に関与する分子群として発見されたが、成人においても全身のあらゆる組織を多様に制御・維持している。骨軟骨の領域では「Wntシグナルは骨形成や軟骨破壊を誘導し、軟骨形成や維持を抑制する」と考えられているが、実はそんな単純なものではない。ナンチャッテ分子生物学者かつ新しモノ好きの私は、Wntシグナルが発見された当初に軟骨細胞のWntシグナルの研究に着手したことがあり、気が狂いそうになった。

 さて、2008年と2009年に、軟骨特異的にWntシグナルを遺伝子操作したマウスの論文が相次いで報告された。前者はノックアウトマウスの論文(Arthritis Rheum 2008;58:2053-2064)、後者は過剰発現マウスの論文(J Bone Miner Res 2009;24:12-21)である。驚くことに、両マウスとも同様のOAの表現型を示した。関節軟骨においてはWntシグナルが多過ぎても少な過ぎても軟骨が破壊される。すなわち、Wntシグナルは微妙なバランスで関節軟骨の恒常性を維持している、ということである。

 私は当時、米国の骨関係のあるジャーナルの編集委員をしており、委員長からこの2つの論文についてcommentary(論評)を書くように命じられた。私は強いモノには滅法弱い。断れなくて一応書いてはみたが、今読んでみても論旨が支離滅裂である(J Bone Miner Res 2009;24:8-11)。2つの論文の著者には気を遣いつつも、「WntシグナルはOAの創薬ターゲットとしては懐疑的である」という本音がミエミエの結論となっている。

 名前も聞いたことのないベンチャー企業が、私のこの「暗黙の忠告」を無視してWntシグナルをターゲットとしたOA治療薬の開発を進めていると聞いたのは、それから5年後の2014年である。米・Samumed社のWntシグナルを阻害するSM04690(後のlorecivivint)という低分子化合物の関節内注射薬である。

 当時の私は、同じ関節内注射薬である生物製剤sprifermin(リコンビナント線維芽細胞18)についてドイツの企業と共同研究をしていた(J Biol Chem 2014;289:10192-200)こともあり、この低分子化合物に対して若干のイジワルをしたかも知れない(小っちゃいなー)。都合の悪いことはすぐに忘れることにしているので、覚えてないけど。 

 Samumed社はその後、基礎研究(Osteoarthritis Cartilage 2018;26:18-27)と臨床研究(第Ⅰ相試験: Osteoarthritis Cartilage 2017;25:1598-1606)の2つの論文を発表した。基礎研究ではまず、300万の低分子化合物ライブラリーから、SP5レポーターアッセイおよびヒト間葉系細胞培養系によって、強力にWntシグナルを抑制して軟骨細胞分を誘導するlorecivivintを特定した。また、lorecivivintが軟骨形成を誘導して軟骨破壊を抑制するstructure modificationと、滑膜の増殖・炎症および疼痛を抑制するsymptom modificationの両方の作用を持つことがin vitroとin vivo(ラットのOAモデル)の実験系で示されている。

 臨床研究では、単回関節内投与されたlorecivivintが関節内に長期に局在して全身曝露はほとんどないため有害事象がないこと、6カ月にわたってOAの痛みや機能障害などの臨床症状のみならず関節裂隙(mJSW)を維持・増加させることが示されている。

 私が最も興味を持ったのは、両研究ともに、その効果に用量依存性がないことである。すなわち、臨床的には、0.07mgでは有意な効果を示すが0.03mgと0.23mgでは効果が弱い。そこには、自分が実際に経験したWntシグナルの微妙なバランスや複雑な生物活性が包み隠されることなく再現されており、サイエンスとして強い説得力と、学術的信頼度の高さを感じた。

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