"1歳未満"の細菌曝露でアレルギーを予防?
2019年08月13日 11:30
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研究の背景:「衛生仮説」に基づくアレルギーリスク低下の条件とは
近年、「衛生仮説」はテレビドラマにも取り上げられるようになった。衛生仮説は、英国の疫学者ストラカンが、同国の小児1万7,414人を23年間観察し、年上の兄弟の数が多いほど花粉症や湿疹が少ないことを示した報告を端緒として生まれた。
すなわち、ストラカンは兄弟間などで発症する交差感染症のリスクが高まると、アレルギー疾患の発症リスクが減るのではないかと考えたのである(図1)。
図1. ストラカンが唱えた衛生仮説
(BMJ 1989; 299: 1259-1260を基に筆者作成)
衛生仮説は当初、感染症が減るとヘルパーT(Th)2細胞(アレルギーに関与する細胞群)の機能が活発化するという、「Th1/Th2バランス説」で説明されていた。
「Th1/Th2バランス説」とは、出生時にはTh2の機能が優位、つまりアレルギーを発症しやすい状態であり、生まれてから感染を繰り返しているうちにTh1細胞(感染症を繰り返すと機能が活発化すると考えられている細胞群)が刺激され、バランスが取れるという考え方である。
しかしその後、Th1に関連する疾患であるクローン病などもアレルギー疾患と同様に増加しているため、「Th1/Th2バランス説」だけでは衛生仮説を説明し切れなくなり、最近ではもっと複雑な系が考えられるようになっている(アレルギー 2019; 68: 29-34)。
そして、微生物群そのものだけでなく、微生物が放出するエンドトキシンへの曝露量によりアレルギー疾患が予防されるという機序も明らかになってきた(J Allergy Clin Immunol 2016; 137: 680-689)。
ただ、「Th1/Th2バランス説」は分かりやすい説明手法なので、本稿では「微生物への曝露がアレルギーの発症リスクを減らす可能性がある」という考え方で論を進めさせていただきたい。
この考えを検討するに際し、まずは1件の研究結果を紹介したい。同研究では、2000年代初頭、フィンランド領内にあるカレリア地方で学童期にシラカバ花粉に感作された患者が27%であったのに対し、ロシア領内の同地方ではわずか2%であったと報告されている(図2)。
図2. 調査対象地域(黄色の部分)
(Clin Exp Allergy 2015; 45: 891-901)
地理的に近い2つの地域において、なぜそのような結果になったのだろうか。
報告では、ロシア側でのハウスダストや飲料水中の微生物の量がアレルギーに対する防御因子になっているからではないかとしている。すなわち、衛生仮説の面からこうした感作の差が説明されているのだ。
では、汚染された飲料水に、どの時期にどのような状況で曝露されるとアレルギー疾患が予防できるのであろうか。このテーマに関し、最近興味深い結果(Pediatr Allergy Immunol 2019年6月6日オンライン版)が報告された。
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