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熱論!タバコ問題 熱論!タバコ問題

 タバコ問題は決して過去の話ではない。現在でも病因の多くを喫煙が占め、タバコを吸い続ける患者ほど病状の悪化を招き、次の疾患にかかり、死期を早める。既知の確率通りにこれらの事象は起きている。単に、「タバコは健康に悪いからやめればいい」では解決しない問題なのだが、世にあふれる喫煙をめぐる議論はいつも表層的だ。議論が足りていない。私が言うことがいつも正しいとも思っていないし、正しさだけが重要なわけでもない。この連載が、議論を深めるきっかけになればと思う。

*編集部注:一般に「タバコ」は植物を指し、製品は「たばこ」と記されるが、本連載では製品を「タバコ」と記す。

第1回 :全ての診療科に関連する!? タバコ問題を再考する

 2019年08月23日 05:05
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 タバコ問題は誰の問題だろうか。

 この連載を開始するに当たり、初めに考えたことはタバコ問題と関連のない診療科があるのだろうか、ということだった。私は以前、血液内科医として働いていた。今振り返ってみると、当時の私はタバコ問題に無関心過ぎた。喫煙により急性骨髄性白血病の罹患率が増えるばかりでなく、白血病患者が喫煙していると肺炎や感染症のリスクが高まり、死亡につながることは分かっていた。にもかかわらず、当時の私は禁煙サポートのノウハウを知らず、骨髄移植を控えてなお喫煙を続けていた白血病患者に対して「死ぬから禁煙してくださいね」と言うだけだった。結局、その患者は禁煙できなかった。

 当時の私は、血液内科医は診断や治療といった医療行為を行うことだけが仕事だと思っていた。治療には、化学療法は含まれるが、禁煙サポートまで含まれるとは考えていなかった。医療者として、タバコ問題を自分事だとは捉えられていなかったのである。

タバコとの十分な因果関係を示す「レベル1」の疾患

 皆さんは「タバコ問題なんて既に知っているよ」と言うかもしれない。しかし、最近でもタバコ問題に関連した新しい研究結果が続々と発表されている。最新データを含めた知見に基づいた、喫煙により増加すると分かっている疾患のリスト、皆さんは全てご存じだろうか。

 喫煙によって引き起こされる疾患として、16部位のがん、19種の慢性疾患が挙げられる()。

図. 喫煙に起因するがん・慢性疾患(レベル1)

23955_fig3.png

(U.S. Department of Health and Human Services, Centers for Disease Control, Office on Smoking and Health. The health consequences of smoking - 50 years of progress. A Report of the Surgeon General. Rockville, USA 2014より作図)

 これらの疾患は、喫煙によって罹患リスクが増えることがエビデンスから明確に分かっている。すなわち、単に1つの学術論文で報告されただけというものではなく、複数の学術研究により確かに喫煙によってリスクが増えるとの因果関係が確認された疾患に限定されたリストなのである(後述のレベル1)。

 この図の出典である『A Report of the Surgeon General』(米国公衆衛生総監報告書)では、世界中のエビデンスに基づきタバコ問題が評価されている。ちなみに、日本では「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」(厚生労働省)という、いわゆるタバコ白書があり、日本におけるエビデンスに焦点が当てられてタバコ問題がまとめられている。

 これらの報告書では、疫学研究などの科学的知見を系統的にレビューし、一致性、強固性、時間的前後関係、生物学的な機序、量反応関係、禁煙後のリスク減少の有無などを総合的に吟味した上で、喫煙と疾患などとの因果関係(その要因を変化させることで当該疾患の発生を減らすか、遅らせることができること)を以下の4段階で判定している。

レベル1:科学的証拠は、因果関係を推定するのに十分である

レベル2:科学的証拠は、因果関係を示唆しているが十分ではない

レベル3:科学的証拠は、因果関係の有無を推定するのに不十分である

レベル4:科学的証拠は、因果関係がないことを示唆している

 レベル1※1と判定された疾患を見て、意外に感じた方もいるのではないだろうか。肺がんや食道がんは有名だが、肝がん、膵がん、腎がん、子宮頸がん、尿路・膀胱がん、大腸がんも喫煙によって増える。糖尿病や関節リウマチ、子宮外妊娠や勃起障害も増える※2

 肺がんの約69%、食道がんの約61%は喫煙が原因であり、同様に肝がんの約37%、膵がんの約26%、腎がんの約30%、膀胱がんなど泌尿器がんの約72%は喫煙が原因とされる1

わずか1分の禁煙アドバイスで成功率3〜5

 このタバコに関連した疾患名リストを見れば、全ての診療科がタバコ問題に関係しているとご理解いただけるのではないだろうか。

 ほとんど全ての部位のがん、脳卒中、心筋梗塞などの虚血性心疾患、すなわち三大死因すべて(肺炎も入れると四大死因全て)がリストに含まれる。

 どの疾患の患者も喫煙していると、次の疾患にかかりやすくなる。特に喫煙関連疾患の患者には既に1つの喫煙関連疾患が発症するだけの喫煙量および喫煙期間があるわけであり、他の喫煙関連疾患が発症するリスクは高い。喫煙により炎症が惹起され、免疫力の低下を招く。がん患者が喫煙していると、次のがんにかかりやすくなり、死亡リスクが上昇する(レベル1)。さらには、がんの再発が増え、薬の効きが悪くなり、副作用が増えると示唆されている(レベル2)。外科の場合には、手術創部の治りが遅くなり、感染などの術後合併症が増える。

 禁煙すれば、これらのリスクを下げることができると分かっている。日本は診療現場において禁煙のアドバイスが最も行われていない国の1つなのだが、いずれの診療科においても禁煙支援が推進されることを願う。簡単な啓発資料を配布したり、ポスターを掲示したりすることに加え、1分間の禁煙アドバイスでも効果的だと分かっているのだ。例えば、大阪府S市で行われた研究では、健診(がん検診を含む)の場で、診察医師による禁煙に関わるほんの一言の助言の後、保健指導実施者による1分間程度の禁煙支援を行うと※3、通常と比べて禁煙成功率が3~5倍増えた2

 予防の中で禁煙だけが重要だと言うつもりはないが、禁煙は最も優先すべき予防策の1つだとデータからも分かっているのである。

 この連載を通して、医療者も知らない喫煙に関するエビデンスを紹介していきたい。よく知っている人もいるかと思うが、議論にお付き合いいただきたい。

※1 喫煙ほど研究が多くあるリスクファクターはない。そのため、喫煙についてはレベル1やレベル2の情報がたくさんある。本稿ではより確実なレベル1に特に注目したが、レベル2まで含めてもいいかもしれない。世の中でメディアをにぎわせている情報にはレベル3の情報があふれている。例えば、野菜の中のある成分ががん予防に効いた、などの報道だ

※2 2014年の報告書で初めて、肝がん、大腸がん、糖尿病や関節リウマチなどが追加された

※3 喫煙者に対し、診察医師から診察の最後に一言「タバコを吸っているのはよくないですね。禁煙に関する詳しい説明を聞いてください」と声かけした後、禁煙情報コーナーで、禁煙指導e-learning指導者トレーニングプログラム研修を修了した保健師が1分程度の禁煙指導を実施した

1) Katanoda K, et al. Population attributable fraction of mortality associated with tobacco smoking in Japan: a pooled analysis of three large-scale cohort studies. J Epidemiol 2008; 18: 251-264.

2)中山富雄、他. "健診・検診や保健指導の場における禁煙支援の事例報告(1)地域の事例報告". 大井田隆、他編. 特定健康診査・特定保健指導における禁煙支援から始めるたばこ対策. 大井田隆、他編集. 日本公衆衛生協会、2013、p.125-133.

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田淵 貴大(たぶち たかひろ)

大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部副部長。2001年、岡山大学医学部卒業。血液内科医として岡山大学病院、岡山市立市民病院、名古屋医療センター等に勤務後、2011年に大阪大学大学院にて医学博士取得(公衆衛生学)。同年4月から大阪国際がんセンターがん対策センター勤務。近著に『新型タバコの本当のリスク アイコス、グロー、プルーム・テックの科学』(内外出版社)がある。

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