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熱論!タバコ問題 熱論!タバコ問題

 タバコ問題は決して過去の話ではない。現在でも病因の多くを喫煙が占め、タバコを吸い続ける患者ほど病状の悪化を招き、次の疾患にかかり、死期を早める。既知の確率通りにこれらの事象は起きている。単に、「タバコは健康に悪いからやめればいい」では解決しない問題なのだが、世にあふれる喫煙をめぐる議論はいつも表層的だ。議論が足りていない。私が言うことがいつも正しいとも思っていないし、正しさだけが重要なわけでもない。この連載が、議論を深めるきっかけになればと思う。

*編集部注:一般に「タバコ」は植物を指し、製品は「たばこ」と記されるが、本連載では製品を「タバコ」と記す。

第2回 :脳卒中や心筋梗塞のリスクを減らせる喫煙量は?

エビデンスの解釈と主張についての論考

 2019年09月17日 05:00
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~診察室でのある会話~

医師「(問診票を確認しながら)タバコを吸っていますか?」

患者「は、はい。やめられなくて」

医師「本数を減らせるといいですね

患者「そうですね...」

1日20本から1本に喫煙本数を減らしても、低下する疾患リスクは半分程度

 1日当たりの喫煙本数を減らせば、疾病罹患リスクを低下させらせるのだろうか?

 低下させられるか、低下させられないか、の二択とするなら「低下させられる」が答えとなるだろう。しかし、もっと重要なのは、その「リスクを下げられる程度」や「喫煙本数やリスクを減らした状態を続けられるか」といったより現実的な事象である。

 1日当たりの喫煙本数と循環器疾患罹患リスクの関連を示す(図1)。喫煙による疾患罹患リスクは喫煙本数によって異なるが、タバコを吸わない人と比べると、1日1本の喫煙でも、心筋梗塞や脳卒中などの重篤な循環器疾患に罹患しやすくなる。

 たいていの喫煙者は1日当たり20本のタバコを吸っている。1日20本吸う人の虚血性心疾患罹患リスクは約1.8倍(80%のリスク増)である。喫煙本数がその4分の1の1日5本の場合、リスクは約1.5倍(50%のリスク増)であった。すなわち、1日5本吸う人の虚血性心疾患罹患リスクは、1日20本吸う人のリスクの約63%(50÷80×100=62.5%)であり、喫煙本数を1日5本(4分の1)に減らしても、虚血性心疾患罹患リスクは1日20本吸う人のリスクの半分にもならない。

図1. 紙巻タバコのリスク:1日当たりの喫煙本数と虚血性心疾患罹患リスク

figure1BMJ 2004; 328: 980-983)

 別のデータも紹介しよう。

 141件のコホート研究を統合したメタ解析による、1日1本および1日5本の喫煙本数と冠動脈疾患および脳卒中罹患リスクとの関連についての報告がある。1日20本の喫煙により増加する冠動脈疾患および脳卒中罹患リスクを100%とした場合、1日1本の喫煙により増加する同リスクの割合(過剰相対リスク)は、それぞれ男性で46%、41%、女性で31%、34%、男女合わせると各53%、58%であった(図2)。1日5本の喫煙の場合には、1日1本の喫煙と比べて罹患リスクはやや高かったがほとんど変わらなかった。結論として、1日の喫煙本数を20本から1本に減らしても、冠動脈疾患および脳卒中罹患リスクは半分程度にしか低下しないことが示された。

図2. 1日1本および1日5本の紙巻タバコのリスク:冠動脈疾患および脳卒中のリスク

24137_fig2.png


BMJ 2018; 360: j5855

 脳卒中や心筋梗塞だけでなく、発がんリスクの研究からも、1日数本の喫煙でも肺がんや喉頭がんなどの発がんリスクは有意に高いことが報告されている1、2)。喫煙本数を減らしたとしても、長期にわたり喫煙していると発がんリスクは大きいといえる3)

現実社会を踏まえた私の回答:WHOの主張を支持する

 受動喫煙による虚血性心疾患罹患リスクについても見てみよう(図1)。受動喫煙は1日0.2本の能動喫煙に相当するとし、虚血性心疾患罹患リスクは1.3倍(30%のリスク増)であるという。1日当たりの喫煙本数が少ないほど虚血性心疾患罹患リスクは低い傾向にあるが、言い換えれば1日0.2本の喫煙でも、虚血性心疾患罹患リスクは高いのだ。

 このような喫煙による疾患リスク評価研究のエビデンスに基づいて、世界保健機関(WHO)は「タバコ煙に許容できる安全な量はなく、ゼロとすべきである。受動喫煙問題において分煙は許容できず、屋内全面禁煙としなければならない」との結論に達している。

 しかし、厳密に言うなら、タバコ煙に許容できる安全な量はありうる。例えば、1年に1本のタバコを吸うだけなら、有意な疾患リスクは検出されないかもしれない。しかし、それを理由にWHOの主張はでたらめとは言えない、と考えている。現実社会には1年に1本のタバコを吸うといった行動をとる喫煙者はほとんどいない。ほとんど起こらないような状況を過剰に取り上げる必要はない。全く欠点のない完璧なエビデンスはなく、全ての研究には限界がある。しかし、限界についても認識した上で、現実社会での人々の行動を踏まえ、WHOの立場や世界状況、そして実現可能性などさまざまな要因が加味されて、エビデンスは解釈され、主張へとつながる。

 科学的根拠に基づく医療や政策(evidence-based medicine/policy)の推進が求められているが、科学的根拠とは何か、厳密に判断を下すことは簡単ではない。エビデンスを実臨床や実生活に当てはめていくに当たり、どこまでが科学的事実であって、どれが可能な解釈なのか、どこからが憶測(speculation)であり、どこからが議論の飛躍なのか、さらには、どこから誤謬、絵空事や机上の空論となるのか、全てはケースバイケースであって、画一的な正解は存在しない。

 多くの疫学研究では、一時的な喫煙状況に応じた疾患罹患リスクが調べられているが、喫煙状況は日々変化する可能性のあるtime-dependent variableである。1日1本吸っていた人の多くは1日20本吸うようになったかもしれないし、やめたかもしれない。そういった変化も含めた現実社会の人々の行動を総合したものが研究結果に反映されている。

 したがって、今回の課題「1日当たりの喫煙本数を減らせば、疾患罹患リスクを減らせるのだろうか?」に対する現実社会のもろもろ全ての状況を踏まえた私の回答は、「喫煙本数を減らしても、人々が思っているほどにはリスクを減らせない。だから、減らすのでなく、完全に禁煙してほしい」となるだろうか。

医師の言葉は重い、愛情を持った禁煙指導を

 冒頭の「診察室での会話」に話を戻そう。かつての私自身がそうだったが、患者さんになかなか禁煙指導できないという医師がいる一方、喫煙本数をゼロにするようには指導しづらいと感じて、本数を減らすようにしか言えないという医師もいる。タバコをやめるように指導して患者さんに嫌な顔をされたり、険悪なムードになったりした過去の経験が影響しているのかもしれない。

 しかし、医師の言葉は重い。喫煙本数を減らすように患者さんに勧めることは、私は推奨しない。喫煙本数を少しずつ減らしていって最終的にゼロにするのは難しく、むしろ本数を減らしたが故に1本1本がより大切に感じられるようになったり、ストレスを感じるなんらかの出来事がきっかけで喫煙本数が元に戻ったりして、禁煙につながらないことが多いからだ。喫煙本数を減らしても意味はないことを患者さんに丁寧に伝え、喫煙本数を減らすのではなく、完全に禁煙することを勧めてほしい。患者さんの行動が本当に変わるかどうか、それはエビデンスではなく、皆さんの愛情にかかっている。

とはいえ、これも単純な話ではない。1日当たりの喫煙本数が少ないという状態は禁煙を達成しやすい上、疾患リスクも一定程度低く、財布にもやさしい。患者さんの意思で喫煙本数を減らすこと自体は肯定的に受け止めるべきものだとも考えている。ただ、医師があえてそれを勧めるべきでないという立場である

1) Inoue-Choi M, et al. JAMA Intern Med 2017; 177: 87-95.

2)平山雄, 他. 各科領域における喫煙障害 喫煙と疾病大規模コホート研究の総括. Pharma Medica 1994; 12: 19-31.

3)Leffondré K, et al. Am J Epidemiol 2002; 156: 813-823.

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田淵 貴大(たぶち たかひろ)

大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部副部長。2001年、岡山大学医学部卒業。血液内科医として岡山大学病院、岡山市立市民病院、名古屋医療センター等に勤務後、2011年に大阪大学大学院にて医学博士取得(公衆衛生学)。同年4月から大阪国際がんセンターがん対策センター勤務。近著に『新型タバコの本当のリスク アイコス、グロー、プルーム・テックの科学』(内外出版社)がある。

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