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iPS細胞への過剰な期待を煽るべきでない

東京脳神経センター 整形外科・脊椎外科部長 川口浩

 2020年02月17日 17:40
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研究の背景:iPS細胞による再生医療実現には高い障壁

 「国家戦略としての再生医療」にブレーキをかける動きが顕在化している(関連記事「"国家戦略としての再生医療"にブレーキを」)。再生医療推進の原動力として今までアンタッチャブルであった人工多能性幹(iPS)細胞も俎上に載り始め、昨年(2019年)には主力事業である備蓄事業への公的支援の打ち切りが議論された。

 当初は140種類のiPS細胞をそろえて日本人の9割をカバーするとの目標が設定されていたが、4種類しか供給可能な品質に達しなかったため、拒絶反応が起きにくいようにゲノム編集した6種類のiPS細胞でカバーする方針に転換した。臨床医としては理解に苦しむ医学的センスである。このような人為的な遺伝子導入・遺伝子操作を駆使した細胞を、現場で安心して患者さんに使えるだろうか。企業としても、iPS細胞からつくった移植用の細胞の腫瘍化や別の細胞の混入の可能性を型ごとに確認する試験には、莫大な費用と手間がかかるだろう。

 実際、今年になってから、出荷したiPS細胞の一部を目的の細胞に分化させた際、がん化に関連する遺伝子異常や染色体の異常が起きていたことを複数の関係者が明らかにし、山中伸弥教授が率いる京都大学iPS細胞研究所(CiRA)はこの事実関係を認めたと報道された(1月8日付毎日新聞)。

 問題は、同時につくられた細胞でも分配先のみならず容器によって異常の有無や内容が異なっていたという点で、iPS細胞の安全性の担保は極めて困難であることを示している。CiRAのiPS備蓄事業の製造統括責任者は「どんな細胞でも培養や分化の過程でエラーは起こりうる。丁寧に試験をして使っていくしかない」と説明している。研究者としては間違ったことを言っているとは思わないが、患者さんの安全性を最優先に考えるべきわれわれ臨床医にとってはかなりの違和感と温度差がある。施設外のオープンな場でのより厳密な評価は必須だが、現状でそんなことが可能とは思えない。政府がもくろんでいた「事業化」への道のりは果てしなく遠いという印象である。

 そもそも、山中教授が受けたノーベル生理学医学賞は、分化成熟した細胞が受精卵レベルに逆戻り可能であることを示した「初期化(リプログラミング)」に対してである。発生学の常識を覆す世紀の大発見であることは間違いないが、医学・生物学としてはド基礎の分野の業績である。iPS細胞を移植治療として臨床応用するために克服すべき、作成法の標準化や腫瘍化などの障壁は限りなく高い。ましてや、これを臨床レベルでの臓器の再生医療に直結させて、国家の成長戦略の基軸として集中的に支援するのは、短絡的で飛躍が過ぎる。事実、同じテーマの共同受賞者のジョン・ガードン先生の母国の英国では、一部の関連ベンチャーができてはいるが、再生医療が国策になったとは聞いていない。そもそも、再生医療等製品のハートシート(Nature 2015;528:163-164)やステミラック(Nature 2019;565:544-545535-536)の日本における早期承認を「premature and unfair(稚拙で不公正)」と痛烈に批判したNatureは英国のジャーナルである(関連記事「予見された日本の再生医療の"最悪の事態"」)。

 もちろん、政府が国家戦略として推進しているのは、この「iPS細胞の移植による再生医療」である。これを仮に「本業」と名付けると、iPS研究には「副業」(研究している先生方、表現が悪くてゴメンです)がある。疾患の患者体細胞から作製した「疾患特異的iPS細胞」を用いた創薬スクリーニングや病態メカニズム解明モデルとしての利用である。

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