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田中きゅーと先生論文解説 田中きゅーと先生論文解説

新型コロナパンデミック下でのがん診療(1)がん治療への影響と課題

川崎市立川崎病院呼吸器内科医長 田中 希宇人

 2020年06月02日 05:05
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 川崎市立川崎病院呼吸器内科医の田中希宇人と申します。肺がん、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺炎などの呼吸器疾患を外来/入院で数多く担当しており、今年(2020年)に入ってから当院は感染症指定病院そして三次救急病院として重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も積極的に受け入れている状況です。

 これまでは多くの肺がん患者さんの診断から治療、そして終末期の対応などに特に力を注いできましたが、この新型コロナウイルスパンデミック下では今まで通りの診療はできていません。そこで、肺がん診療の専門家として考えるところを「がん治療への影響と課題」「臨床での働き方の変化」「今後の第二波対策」に分けて考えていきます。

■がん治療への影響と課題

 肺がん診療を行う上でCOVID-19の影響と課題は数多く考えられますが、5つのポイントを挙げたいと思います。

 -がん患者さんの受診機会の減少

 -医療者の感染防護具の不足

 -積極的治療の忌避

 -医療機関での面会制限

 -臨床試験遂行の困難

◇がん患者さんの病院受診機会の減少

 新型コロナウイルス感染拡大下では、感染拡大防止のために「不要な外出の自粛」「人との接触を減らす」などの対策が声高に言われており、特に病気の人が集まる病院への不要な受診は差し控えられる傾向にあります。実際に多くの病院では患者さんの受診が激減し、経営にも相当な影響が出ています。

 問題なのは「本当に受診が必要な患者さんが病院受診の機会を控えてしまうこと」です。毎年の健康診断を行わなかったり定期的な受診が減ったりすることで、がんが存在する場合にはその間に病勢が進行してしまうことが懸念されます。肺がんでいえば早期肺がんの発見機会を逃し、より進行期になり症状が増悪して、いよいよつらくなってからの病院受診となる症例が増えてしまうのではと心配しています。実際にこの2~3カ月でも、本来はすぐに受診してほしいところ、コロナが不安で受診を差し控えていた初診患者さん数人にお会いしました。今までであれば根治手術が可能であった病期であったり、積極的な根治的化学放射線治療ができた病期であったりしたのが、その機会を失ってしまう可能性があります。

◇医療者の感染防護具の不足

 2つ目は「医療用感染防護具の不足」です。今後、医療物資の生産や物流が回復してくれば解決されることかもしれませんが、目下困っている問題のうちの1つです。特にわれわれが日々行っている気管支鏡は気道に内視鏡を挿入する検査で、患者さんからエアロゾルが発生する手技に該当します。現在、検査を行うときにはいつも使用していたX線透視用の鉛の防護具に加え、N95マスク、ゴーグル、手袋、ガウン、キャップといった感染防護具を装備しています。当院ではガウンが不足しているため雨がっぱを着て検査に臨んでいますが、とにかく中が蒸れてサウナに入っているイメージ。10~15分くらい検査を行っていると汗だくになるのは容易に想像できることでしょう(写真)。

写真.雨がっぱを着て検査に臨む田中氏

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(田中希宇人氏のTwitter投稿より)

 また、そのような防護具が不足している状況ですと、検査の経験がない研修医や若手の呼吸器科医は検査室の外で待っていてもらうこととなり、若手が育たない状況も考えられます。ただでさえ検査や手術件数は減ってきているので、教育不足は深刻な問題です。それは気管支鏡検査のみならず、手術を含め他の感染リスクを伴う検査や治療全てにいえることだと思います。

◇積極的治療の忌避

 3つ目は「治療」に関してです。新型コロナウイルスがどこにいるか分からない状況下では、PCR検査や抗体検査が適切にできたとしても、完璧な検査ではない以上、「患者さんの中にもウイルスがいるかもしれない」「今日どこかから感染してしまうかもしれない」と頭の片隅で考えてしまいます。進行肺がんの治療で殺細胞性抗がん薬を使用すると好中球減少が起こります。また化学療法の支持療法としてステロイドも使用します。そのような患者さんの免疫が低下するような治療に関して、今まで当然のように行ってきましたが今後は感染リスクのことを天秤にかけて治療選択することとなります。

 また病院への受診が差し控えられている現状では、頻回の通院が必要な化学療法のレジメンも検討が必要でしょう。場合によっては外来化学療法から、通院回避のために逆に入院での化学療法へ移行を検討する症例もいるかもしれません。

 そしてリスク症例に対する治療です。例えば、併存症として間質性肺炎や高度の肺気腫がある場合に、今までならリスクを背負って手術や積極的な化学療法を行う場面を想像しますが、肺炎や間質性肺炎の増悪リスクを考えると積極的な治療を差し控える症例もいるかと思います。 

◇医療機関での面会制限

 4つ目は「家族の面会」のことです。現在、多くの医療機関では面会を制限しています。当院でも、病院の入り口で患者さんやその家族全員の体温チェックと簡単な問診を受けないと病院内に入ることすらできません。入院病棟への面会は完全にシャットアウトです。われわれ医療従事者も毎日体温チェックが課されていますし、不要なカンファレンスや会議などの制限や食事の際の会話に至るまで注意するよう院内で厳しく言われています。

 今までは入院患者さんでは、診察のために病棟回診した際にご家族がいらっしゃる場合には治療経過の報告が逐次できており、患者さんや家族との信頼関係がその場で築けていました。現在、病状説明はもっぱら電話連絡になっており、頻回にテレワークで行っていますが、なかなか患者さんの病状のこととなると言葉では伝わらなかったり、言葉は悪いですが耳が遠くて通じなかったりと、いつもの2倍くらい時間がかかっている印象があります。私はインフォームド・コンセント不足は今のところ感じていないのですが、説明が足りていないと思われているご家族もいらっしゃることでしょう。

 面会制限は院内感染対策として絶対必要ではありますが、患者さん側からしてみれば「ひとりぼっち」に他ならないのです。つらさや寂しさのあまり、骨髄抑制中に自宅への帰宅を強く希望された方もいらっしゃいました。特に終末期の症例で身体の自由が利かず、ベッド上で過ごされている方が家族と会えないことは大きな問題です。私はこの2~3カ月の間、積極的に在宅での緩和医療を勧めさせてもらっていましたが、全例で叶うわけではありません。最近では緩和医療の先生を中心に『コロナ禍で家族と会えない終末期医療の現場にテレビ電話面会を』というクラウドファンディングの企画もあるくらいで、全国で問題になっていると考えられます。実際に在宅医療に移行できればよいですが、その移行までの期間だけでもタブレットなどでテレビ面会できたら患者さんの心も落ち着くかもしれません。緩和医療に対する遠隔診療の有効活用に関してはJAMA Oncol2020年5月7日オンライン版)でもいわれています。

◇臨床試験遂行の困難

 最後に、実際に問題となっている「臨床試験」についてです。これは米国臨床腫瘍学会(ASCO)からも米食品医薬品局(FDA)からも提言が出ておりますが、このCOVID-19パンデミック状況に陥ってからわずか数週間で研究プログラムの約60%が特定の臨床試験のスクリーニングや登録を中止したとの報告があります。臨床試験での来院(visit)について遠隔診療を利用しているとの回答もあったようですが、やはり画像検査や採血が行えないことには正確な臨床試験の遂行が困難となってしまいます。ASCOの提言ではパンデミック期間中の臨床試験のプロトコル変更の影響を的確に評価し、パンデミック終息後に試験を安全に継続できるのかと判断するよう求めています。

 臨床試験の遂行自体も問題ですが、COVID-19蔓延下では社会状勢が変わってきてしまい、このコロナ禍以前に登録された症例と以降に登録された症例で単純に治療効果や予後を比較してよいものか、とも考えてしまいます。

◇当面の対策と対応

 COVID-19パンデミック下でのがん診療についてJAMA2020年4月13日オンライン版)に「Oncology Prctice During the COVID-19 Pandemic」として提言が掲載されています。

「臨床医はがん診療の不急な処置を延期/中止すべき」との原則の下、

①がんサバイバーや治療完遂後の定期観察で無症状や無再発の者に関しては、遠隔医療へ切り替え

②遠隔医療が困難でも治療延期/中止による影響が少ない患者では、リスク回避と医療資源の保護を考慮

③治療の延期がQOLや生存に悪影響を及ぼす可能性のある患者では、高リスクな治療は控え有効性が下がってもより安全性が高い治療選択肢を検討

④治癒が可能で延期が望ましくない患者では、積極的に検査や治療を行うべき

とされています。わが国でも臨床医は患者さんの状況を病状や社会的背景を充分に考えた上で判断することが望まれます。そのため、治療のリスク評価、骨髄抑制や有害事象対策はいつも以上に慎重に行って診療に当たる姿勢が大事であると考えます。

 国や地方自治体、社会にお願いしたいのは、感染防護具が不足することのないような対策を充分に練ってほしいということです。これは時間がたてば解決する問題ではありますが、猶予がないがん治療のことを考えると早急に対応いただきたいと考えています。

◇最後に

 COVID-19パンデミック下で多くの医療機関は大変な思いで診療されていることと思います。まずは医療従事者の安全を充分に確保した上で、ご無理のないような診療体制の構築をお願いいたします。次にがん患者さんのことを1人1人十分に考えて下さい。『日本癌治療学会、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会(3学会合同作成)がん診療と新型コロナウイルス感染症:医療従事者向けQ&A』でも触れられていますが、がん治療選択の遂行や延期に関しては各専門家でしっかり検討しカルテ記載をしておくことが重要とされています。コロナ禍においても医療従事者の安全を守りつつ、がん患者さんに不利益のないように今後も考えながら診療に当たりたいものです。

田中 希宇人(たなか きゅうと)

2005年、慶應義塾大学医学部卒業後、同大学病院での研修およびけいゆう病院での内科出向を経て2009年に同大学病院呼吸器内科医局に入局。2013年から川崎市立川崎病院で勤務。2017年4月より現職。認定内科医/総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本呼吸器内視鏡学会専門医、臨床研修指導医、がん治療認定医。3児のパパ。ブログ「肺癌勉強会」で肺がんに関する最新情報を発信中。

 
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Twitter:@cutetanaka

Oncology Tribuneからの転載:●【新型コロナパンデミック下でのがん診療】(1)がん治療への影響と課題

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