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孤立・孤独は医療の課題だ 孤立・孤独は医療の課題だ

孤立・孤独は深刻な健康リスクである 

東京都健康長寿医療センター研究所・村山洋史氏に聞く

 2020年07月29日 15:43
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 コロナ禍の外出自粛は、現代社会の「孤独・孤立」問題をあらためて浮き彫りにした。特に、独居の高齢者の多くは社会的孤立を強いられ、身体面・精神面への深刻な悪影響について危惧されている。健康課題としての孤独・孤立は今、どのように考えられているのか。それに対して医療には何ができるのか。シリーズ「孤立・孤独は医療の課題だ」では、ひきこもり、セルフネグレクト、社会的処方といったキーワードを手がかりに、先駆的取り組みを実践する諸氏にインタビューを行う。第1回では、『つながりと健康格差』(ポプラ新書、2018)の著者である東京都健康長寿医療センター研究所の村山洋史氏に、健康リスクとしての孤独・孤立の位置付けを整理してもらった。

認知症、心血管疾患、がん死が増加

ーー孤立・孤独が健康に及ぼす影響についてどんなエビデンスがありますか。

 孤立・孤独の影響に関しては1970年代から疫学研究が蓄積され、今ではメタ解析の成績がそろっています。心血管疾患では、"つながりの少なさ(社会的孤立+孤独感)"が冠動脈疾患で29%、脳卒中で32%発症を増やすとの分析があります1)。また、認知症をアウトカムにした場合、Kuiperらは"社会参加の乏しさ"が41%、"対人接触の少なさ"が57%、"孤独感"が58%発症を増やすと報告しました2)。さらに、Pinquartらはがんによる死亡を取り上げ、"ソーシャルネットワークが大きい"と20%、"ソーシャルサポートが豊富"だと25%リスクが下がるとしました3)

 孤立・孤独は、疾患の発症のみならず死亡にも影響します。Holt-Lunstadらのメタ解析では、"独居"で32%、"社会的孤立"で29%、"孤独感"で26%死亡率が上昇しました(図14)。孤立や孤独が種々の疾患の発症や死亡を増やす点については、確固たるエビデンスがあるといえるでしょう。

図1.つながりの少なさが死亡に及ぼす影響(メタ解析)

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(Holt-Lunstad J,et al.Perspect Psychol Sci 2015;10: 227-237)

孤立は客観、孤独は主観

ーー孤立や孤独、ソーシャルサポートなどの言葉の意味を解説してください。

 孤立(social isolation)は"家族やコミュニティーとほとんど接触がない状態"を指し、同居者の数、人との接触頻度などで客観的に把握できます。孤独(loneliness)は"人付き合いの欠如で好ましくない感情を抱くこと"と定義されます。孤独は主観なので、UCLA孤独感尺度などの心理尺度で評価します。

 また、ソーシャルネットワークは計量可能なつながり、ソーシャルサポートはつながりから得られる物質的、心理的援助を表しています。"集団に属することで得られる資源"を意味するソーシャルキャピタルという語もあります。

 組織的なつながりは、コミュニティーアソシエーションに分類されます。前者は町内会や自治会など、地縁に基づく自然発生的な結合。後者は趣味の会など、特定の関心や目的を追求するため人為的に結成される組織です。

ーー孤立と孤独、真の悪役はどちらでしょうか。

 両者はかなりの部分が重なっています。孤立は孤独を生みますし、孤独を感じている人は人付き合いを遮断しがちといった逆の関係もあります。疫学調査の多くは両方を調査して多様な成績を報告、そのメタ解析が先の結果となったわけで、ともに深刻な健康リスクと捉えるべきでしょう。

脳にとって孤独は痛み

ーー両者が健康を損なうメカニズムは?

 孤立・孤独を感じたとき体内で何が起こるか、詳細な医学的検討は多くありませんが、心理学で行われたさまざまな検討については米国の研究者J.T.Cacioppoが『孤独の科学』で紹介しています5)

ーー「ヒトは群れをつくる生き物で、孤立は危険を意味する。だから孤独を恐れるのは本能だ」との指摘が印象的です。

 例えば機能的MRIを用いた検討では、ヒトが社会的に拒絶されると身体的痛みを感じたときと同じ領域(背側前帯状皮質)が活性化されました6)。つまり、日常的な孤独は慢性痛と同じで、両者は類似のメカニズムで心身に悪影響を及ぼすと考えられるのです。

 孤独を感じたストレスで炎症が生じ、冠動脈疾患や脳卒中を発症しやすくなります。また、免疫力が低下して易感染性になり、肺炎などのリスクを高めるとの報告もあります。

 逆に、つながりが豊富なら周囲のサポートを受けられる、社会参加が促される、健康に役立つ資源にアクセスできる等の利点が生じます。また、サポートが十分だとオキシトシンが分泌され、ストレス反応も緩和すると考えられます。

それは個人の問題ではない!

ーー今、世界中で孤立・孤独が重大な社会問題になっています。

 高齢化や家族観、結婚観の変化により、多くの先進国で独居者、非婚者が増えました。職場では仕事の専門分化で、1つの仕事に皆で取り組む機会が減りました。また、社会格差や差別のため隔離や分断を感じる人が増加しています。多くの人が、人間関係が難しくなったと感じているのです。

ーー英国で孤独問題担当大臣が任命されて話題になりましたね。

 英国では国民の7人に1人、65歳以上の10人に3人が孤独を感じており、それによる経済的損失は年間4.9兆円といわれています。これらの点から英国は、孤独はもはや個人の問題ではなく、国を挙げて取り組むべき課題だと決断したようです。エビデンスの構築、分野横断的な孤独対策、国民への啓発などが計画され、「社会的処方」の全国展開移動サービスの改善といった具体的対策が始まっています。

日本の孤立・孤独は世界一

ーー日本の状況はどうでしょうか。

 日本の状況も深刻です。独居世帯は全体の3分の1を超え、未婚率(50歳時未婚割合)は男性27%、女性18%と急増しています7)。少し古いデータですが、経済協力開発機構(OECD)の調査では"友人や同僚との交流が全く/ほとんどない"人の割合が20カ国中最も多く(図2)8)、内閣府の4カ国調査では"同居の家族以外頼れる人はいない"人の割合は日本で16%と最多でした9)

図2."友人や同僚などとの交流が全く、あるいはほとんどない人"の国別割合

25889_fig2.jpg

(OECD. Society at Glance. 2005 edition)

 日本はこれまで地縁・血縁・社縁が強く、意識してアソシエーションをつくらなくても、つながりが保てていました。コミュニティーをはじめとする"縁"に依存していたといってよいでしょう。そのため、"縁"が弱まると一気に孤立に陥ります。今、日本人には、つながりを戦略的に生み出すことが求められているのかもしれません。

 とはいえ、つながりがアソシエーションに偏るのは問題です。SNSを使えば世界中に仲間をつくれますが、地震や豪雨などの災害時に頼れるのは隣人です。人が暮らす限りコミュニティーは必須で、両者のバランスが大切です。

弱いつながり、多様なつながりを

ーー従来型コミュニティーは衰え、アソシエーションだけでは不十分となると、どんな方向を目指せばよいのでしょう。

 米国の社会学者M.Granovetterは"弱いつながり"の意義を指摘します。異なる価値観を持ち、たまに会うような人が、実は役立つものをもたらしてくれます。強いつながりは大事ですが、弱いつながりでも健康やQOLは改善します。ボランティア活動や町内会への参加は、週5回以上の運動と同程度の健康への好影響があるという成績も報告されています。

ーー先生も、地域でのつながり作りを研究されていますね。

 都内で高齢者の"通い場"を調査しており、体操、お茶飲み、若者との交流など、どんな交流が有効かを検討しています。

ーー介入のエビデンスは出そうですか。

 こうした介入の効果は、地域ベースで大規模に検証する必要があり、時間がかかります。ただ、今は行政が積極的で、各地で多様な興味深い取り組みが行われています。エビデンスにも期待したいですね。

 今年(2020年)のコロナ禍においては自粛で多くの人が孤独を強いられ、人と人とのつながりも変化しました。こんなときこそ、自分にとって必要なつながりとは何かを考えるチャンスですし、医療者には患者、特に高齢者の孤立・孤独に目配りしてほしいと願っています。

文献

1)Valtora NK, et al. Heart 2016; 102: 1009-1016.

2)Kuiper JS, et al. Ageing Res Rev 2015; 22: 39-57.

3)Pinquart M, et al. Crit Rev Oncol Hematol 2010; 75: 122-137.

4)Holt-LunstadJ,et al. Perspect Psychol Sci 2015; 10: 227-237.

5)J.T.カシオポ、W.パトリック著、柴田裕之訳『孤独の科学-人はなぜ寂しくなるのか』(河出書房新社、2010)

6)Eisenberger NI, et al. Science 2003; 302: 290-292.

7)「日本の世帯数の将来推計」を基にした内閣府の推計

8)OECD.Society at Glance.2005 edition

9)内閣府「2015年度第8回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果」

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