タバコ問題は決して過去の話ではない。現在でも病因の多くを喫煙が占め、タバコを吸い続ける患者ほど病状の悪化を招き、次の疾患にかかり、死期を早める。既知の確率通りにこれらの事象は起きている。単に、「タバコは健康に悪いからやめればいい」では解決しない問題なのだが、世にあふれる喫煙をめぐる議論はいつも表層的だ。議論が足りていない。私が言うことがいつも正しいとも思っていないし、正しさだけが重要なわけでもない。この連載が、議論を深めるきっかけになればと思う。
*編集部注:一般に「タバコ」は植物を指し、製品は「たばこ」と記されるが、本連載では製品を「タバコ」と記す。
第9回:ホスピス患者に禁煙指導は不要か
2020年08月20日 17:44
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日々、タバコ問題に取り組んでいる私からすると、さまざまな場面でタバコ問題が重要視されていないと感じる。その背景には、タバコを吸っている人に対して十分に敬意が払われていないことも影響しているのではないだろうか。従来、私は「タバコを吸っている人はあほだ」などと公言する専門医や著名人らによる喫煙者バッシングに対し異を唱えてきた。非喫煙者と喫煙者が対立することは避けねばならない。喫煙者はタバコ会社のマーケティング戦略や社会経済的状況、周囲の影響によりタバコを吸うように仕向けられてきたことが分かっている。彼らはニコチン依存症に陥り、喫煙に対して正しい認識が持てないようにさせられている、いわばタバコの一番の被害者である(拙著『新型タバコの本当のリスク』参照)。タバコ問題に取り組む医療者として、われわれは喫煙者と対立するのではなく、協働して全員の認識を高めタバコの被害をなくしていくべきだと考え願っている。
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