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"とき"を飲む、至福の1杯と向き合う時間を〜シングルモルトウイスキーに魅せられて〜

〔特別企画〕2020 luxe秋号

 2020年10月16日 14:30
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大人時間の過ごし方"Whisky"

 2020年も残すところ数カ月。今年は新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴い、仕事仲間や友人らとの集いが制限された年になってしまった。そのような日常の中でも、充実した大人の時間を過ごすためのヒントを探った。現役の外科医にして、ウイスキーのテイスターを務める松木崇氏に、自宅でも楽しめる大人のウイスキーの嗜み方をテーマに語ってもらった。写真/小澤達也

バーでのアルバイト経験
臨床医にも通じる高いプロ意識

― ウイスキーに魅了されたきっかけは。

松木氏 医学生のころ、ある先輩に連れられて訪れたオーセンティックバーで、「バランタイン17 年」を飲んだのが始まりでした。当時は何が美味しいのかうまく表現はできなかったのですが、それまで飲んでいたウイスキーとは明確な違いがあり、何かが刺さったというか、ピンときたのを覚えています。バランタインがスコッチウイスキーであることを知り、個性的で旨味の濃いモルトウイスキーとクセのないグレーンウイスキーを混ぜたブレンデッドウイスキーというジャンルであることを学び、その味わいを決定付けるモルトウイスキーとはどんなものだろうという疑問が湧いてきました。違いの分かる男になるべく、単一蒸留所で生産され他のウイスキーと混ぜていないシングルモルトウイスキー(シングルモルト)を何本か買って関連書籍を読みながら飲むようになったころには、すっかりその個性と魅力の虜になっていました。その勢いでバーでアルバイトを始め、さらに加速度的に経験を積むことになったのです。そのときにプロ意識の高い接客業に携われたことで、コミュニケーションスキルの大切さを実感し、結果的に患者さんと接する今の臨床医としての仕事にも生きています。

―ウイスキーにまつわるエピソードは。

松木氏 20歳代のころは、当直明けでもまとまった時間ができると都内のモルトバーに足を運び、プライベートタイムのかなりの割合をモルト愛好家のおじさんたちと過ごしていましたね。極め付きは新婚旅行で、そのようなモルト愛好のおじさんたちとスコットランドにあるウイスキーの聖地アイラ島の蒸留所を巡るツアーに参加したことです。

 当時、私が所属していた医局ではヨーロッパに行けるほどの長期休暇は新婚旅行以外なかったのです。そのため、妻には結婚する前から「新婚旅行休暇は私にくれ」としつこく交渉していました。妻はお酒にほとんど興味がなく、どんなウイスキーを飲んでも感想は「からい」だけの人なので、完全に私に付いてくる形でした。荒涼とした何もない土地ですし、滞在中は一日中マイクロバスで蒸留所を巡るので世界中のウイスキー愛好家や羊くらいとしか交流のない日々でしたから、ロマンティックな時間は皆無でしたね。それでも妻が最後まで不機嫌にならず付き合ってくれたおかげで、私は夢だった聖地を堪能することができたのでした。数年前に、日本に輸入するウイスキーの樽を選定する業者さんの旅に同行する機会に恵まれ再訪を果たしたのですが、そのときはさすがに一緒に来てくれませんでしたけどね。

趣味からプロへ
資格取得とテイスター就任

― 趣味が高じて「プロ」になられたのですね。

松木氏 もともと凝り性だったこともあり、興味を持ち始めてからウイスキーに関する書籍を何冊も読みました。特にモルトウイスキーは知的好奇心を刺激してくれるお酒で、知識をベースに飲んで理解が深まると、さらに知りたいことが出てきます。知識を体系的に整理したかったのと、ウイスキーの成り立ちと深く関わるその生産地の歴史や文化に関しても興味が高まっていたこともあって、「ウイスキーコニサー資格認定試験」を受けることにしました。

 2007年に「ウイスキープロフェッショナル」という、当時日本全国でも10数人しかいなかった資格を取得することができました。ウイスキーとその背景にある歴史や文化に関する筆記試験に加えて、官能試験(テイスティング)もあり、合格者は私以外、ほぼ酒販に携わる方たちでした。しかし、資格を取っても、やはり真剣に飲んで経験値を積むことでしか本当の意味での見識は深められません。また、分厚い教本を含めてどの書籍にも書いてないような知識は、モルトバーといわれるモルトウイスキーに特化したバーでマスターや常連さんから教わることが多かったです。

 飲んだウイスキーの香味を記録する「テイスティングノート」を自分の理解を深めるためにつけていたのですが、その記録が2,000種類を超えたころ、愛好家の知り合いからテイスティングノートを共有するウェブサイトに投稿してほしいと依頼され、そこから人にウイスキーの魅力を"伝える"という活動が始まりました。

 想像以上の反響があり、2012年からは自分のブログ『ストイックなドリンカーの日々』でテイスティングノートやウイスキーの知見に関する記事を公開するようになりました。医師としての本業が忙しくなったことに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、以前のように気軽にバーに行けなくなってしまったため、最近は更新が難しくなってしまいましたが、そこで3,000種類以上のテイスティングノートを公開しています。恐らく今までシングルモルトだけでも6,000~7,000種類はテイスティングしていると思いますが、蒸留所や熟成年数による違いはもちろん、蒸留所が詰めているオフィシャルもの、樽の仕入れ業者がボトリングしているボトラーズものなどの種類もあり、さらにシングルカスクという1樽のウイスキーをボトリングする最小単位のものではリリースが世界で100本以下というものもあり、そういうものも含めると膨大な種類があるため一生かけても飲み切れるものではありません。

 気が付けばウイスキーやバー業界の知り合いが増え、ウイスキーについてコメントを求められる機会も増え、品評会の審査員の仕事などもいただくようになりました。2017年からは、国内唯一のウイスキー専門誌『Whisky Galore』でテイスターを拝命し、誌面に掲載するテイスティング情報の執筆に加えて座談会などにも参加しています。また、企業からのテイスティングの依頼も増えました。謝礼が発生するため、そこからは趣味がプロとしての活動になりました。

医師として心がける2つの意識

― 施設や医局内での反応は。

松木氏 私の場合、医師になる前からウイスキーを偏愛していますし、そのことは周囲の医療関係者にも知られていました。人に恵まれたこともあり、頭頸部外科医でありながらウイスキーテイスターとして活動していることに関して、病院や医局、患者さんから批判されたことは、今まで一度もありません。

 しかし、本業はあくまで人の命を預かる頭頸部外科医であり、①仕事で手は決して抜かない②同僚や患者様にサイドワークのことで迷惑をかけない―の2点は、本業と副業を両立させる上で、常に意識しています。特に、私のライフワークは頭頸部がんの拡大切除と遊離皮弁を用いた欠損部の再建で、根本治療に必要十分な切除を行いながらも再建によって嚥下や構音などの機能を温存するというものです。遊離皮弁と頸部の顕微鏡下血管吻合ができるのは医局内に私だけで、再建術の後はいつ呼び出しがあっても駆け付けられるようにしておかなければなりません。亡くなりそうな患者さんがいるときも同様です。そして、臨床に加えて論文執筆などの作業もあるため、平日はウイスキーを味わう時間的余裕はほとんどありません。

 また、当然ながら過度に酔えば精度の高いテイスティングはできなくなりますから、1日のテイスティングには数的な限界があります。本業の状況によってはテイスティングの原稿締め切りに間に合わない可能性があることは了承してもらった上でテイスターを引き受けています。幸い今のところ間に合わなかったことはありませんが、多いときには100種類ほどのテイスティング仕事が同時期に重なってしまい、休日を全て費やして間に合わせた月もありました。

 年々、アルコールにも弱くなってきており、体力的に無理ができなくなってきたという自覚があります。ですので、サイドワークの量はさらにシビアに調整しなくてはならないと感じています。

グラスの中の変化を楽しむ

― 楽しむためのポイントは。

松木氏 実はウイスキー、特にシングルモルトの愛好家には私と同じ医師が結構いらっしゃいます。前述したように、美味しいだけでなく飲むほどに知的好奇心を刺激してくれるお酒ですので、それが医師に愛好家が多い理由の1つではないかと考えています。また、ウイスキーを嗜むことで同様の嗜好を持つ異業種の仲間と語らう機会ができます。ともすると同業者ばかりの狭い人間関係に閉じこもってしまいがちな医療界にいる私たち医師にとって、人生を深めることにつながると感じています。

 ウイスキーは"とき"を飲むお酒です。蒸留したばかりの透明な液体が樽に詰められて熟成という長い眠りにつき、数十年の眠りから覚めた液体が目の前のグラスに注がれる。1日の終わりにその琥珀色の液体を、そこに溶け込んだ時間に思いを馳せながら楽しむことは、日々の仕事で重い責任を負う大人に相応しい時間の過ごし方ではないでしょうか。グラスの中でもウイスキーはゆっくりと変化します。それを悠々と楽しんでほしいと思います。

― 自宅でバー気分を味わうには。

松木氏 まず必要なアイテムは、グラスですね。グラスによって驚くほどウイスキーの香味が変わります。私のお勧めするストレートに加水する飲み方であれば、香り立ちの良いチューリップ型のグラスが最適です。フォルムの美しいグラスで飲むとさらに贅沢な時間になります。そういう意味では、リーデル社のコニャックグラスが私のお気に入りです。

 ウイスキーに関しては、飲みやすいという意味では、私がはまるきっかけにもなったスコッチのブレンデッドウイスキーは良いと思います。少し高額でも12年、18年など熟成期間が記載されたものが完成度も高く美味しさも分かりやすいです。一方で、シングルモルトは、個性を楽しむお酒です。初心者はまずクセの強すぎないものから、と昔は思っていたのですが、分かりやすい個性のあるものの方がピンとくる人が多いことに気付きました。ですので、蒸留所の違い、樽の違い、熟成期間の違いなど、香味に明らかな違いのある複数の種類を、できれば同時に飲み比べるのが理解を深め嗜好を広げるのに最適です。でもそれは自宅ではなかなか難しいので、ある程度飲み慣れたらシングルモルトをたくさん扱っているバーで試してみるのが良いでしょう。

― 読者の先生方にメッセージを。

松木氏 ウイスキーの香味はアクワイアードテイスト(AcquiredTaste)といわれ、コーヒーなどと同じで飲んでいるうちに美味しさが分かってくるものです。まずはウイスキーをひと口、飲んでみてください。そしてできれば違う種類を飲み比べてみてください。適量を守って飲むことで、だらしなく酔うことなく不思議と頭が冴えてくると感じることもあるでしょう。

 特にシングルモルトは他の蒸留酒と比べても香味の幅が非常に広く、原料である麦芽をストレートに感じさせるものから、それを全く感じない果実酒のようなものまで多種多様です。どうしてこんな香りや味わいがするのだろうと考えをめぐらせながら目の前の1杯と向き合う時間は、他に代えがたいものになると思います。皆さんも、ウイスキーを人生の友にしてみませんか。

北里大学病院耳鼻咽喉科・ 頭頸部外科診療講師
松木 崇

2006年、北里大学医学部卒業。大和市 立病院、国際医療福祉大学三田病院頭 頸部腫瘍センターなどを経て、2017年 4月より現職。日本耳鼻咽喉科学会認定 耳鼻咽喉科専門医、日本耳鼻咽喉科学 会専門研修指導医、日本頭頸部外科学 会認定頭頸部がん専門医、日本がん治 療認定医機構がん治療認定医。趣味が 高じて2007年にウイスキープロフェ ッショナルの資格を取得し、2017年3 月にはウイスキー専門誌『Whisky Galore』のテイスターに就任。

ウイスキーの基礎知識

 世界には5大ウイスキーと呼ばれるものがあります。それはスコッチ、アメリカン(バーボンなど)、カナディアン、アイリッシュ、そしてジャパニーズです。ジャパニーズウイスキーは近年では世界的に高く評価されていますが、もともとはNHKの連続テレビ小説でも取り上げられたマッサンこと竹鶴正孝氏がスコットランドに単身留学して技術を日本に持ち帰ったところから始まっており、スコッチタイプのつくりがベースです。

 私の愛するスコッチウイスキーだと、一般的な酒屋などで目にするのは「バランタイン」や「ジョニーウォーカー」といったブレンデッドウイスキーと、「マッカラン」や「グレンリベット」といったシングルモルトです。ブレンデッドウイスキーは個性的で味の濃いモルトウイスキー(原料は麦芽100%)と、それを飲みやすく調整しつつ価格を抑えられるクセのないグレーンウイスキー(原料は小麦など安価な穀物)をブレンドしてつくられます。モルトウイスキーのうち、単一蒸留所でつくられた原酒のみを使用したものをシングルモルトと呼び、近年はその個性や蒸留所ごとの違いを楽しむ人が増えていることから、ブレンデッドと比べると高価ですが消費は伸びています。ウイスキーの個性は、原酒由来のものと熟成由来のものがあります。同じスコッチでも蒸留所のある地域によって個性が異なります。例えば、アイラ島の多くの蒸留所では麦芽の成長を止めるためにピートという燃料で燻すという昔ながらの工程を採用しており、そのため原酒はかなりスモーキーなものになります。

 熟成に使われる樽は、主に別のお酒を入れた後のものが使用され、多くの場合バーボン(アメリカ)を熟成させた後の空き樽とシェリー(スペイン)の空き樽のどちらかが使われます。その樽により色も香味の個性も異なります。それらの違いは、バーでぜひ飲み比べていただきたいと思います。違いについては、多くの人が分かると思います。なお、愛好家にはストレートで飲むべきという人もいますが、飲み方に決まりはなく、蒸留所の人からは「とにかくたくさん飲んでくれればどう飲んでも良いよ」とよく言われます。私も同意見ですが、あまり水で薄めすぎたり冷やしすぎたりすると、香りや味は分かりにくくなります。個性を楽しむことを目的とするのなら、ストレートで少しずつ常温の水(軟水)を加えながら丁度良いと感じるところで飲まれるのがお勧めです。

〔知っておきたい〕ウイスキーの「認定資格」を取得するなら

 ウイスキー文化研究所が認定している資格試験には、「ウイスキー検定」と「ウイスキーコニサー資格認定試験」があります。「検定」は級ごとに難易度が異なる筆記試験で、内容も一般向けです。専門性の高い「コニサー資格」に関しては、"ウイスキーエキスパート"、私も取得した"ウイスキープロフェッショナル"、その上にある"マスターオブウイスキー"の3種類があります。プロフェッショナルには官能試験(テイスティング)が含まれ、マスターにはさらに論文の提出が必要です。製造法から歴史までを網羅した分厚い教本があり、知識を体系的に整理するにはとても良い機会でしたが、資格=テイスターとしての能力の証明ではないことや、論文は本業のほうでお腹一杯ということもあり、マスターを受ける予定はありません。

〔知っておきたい〕バーでのマナー

 グラスの中身は客のものですが、ボトルはバーの「財産」です。ラベルの記載を見たりスマホで撮影したりするためにボトルを無造作に手に取る人が結構いますが、本来これはマナー違反です。必ずお店の人に断ってからにしましょう。撮影やフラッシュがNGのバーもありますので、初めて入るバーではそれもバーテンダーさんに確認したほうが良いと思います。なお、バーテンダーさんを親しみを込めて「バーテン」と呼ぶ人がいますが、それを嫌がる方もいますので、あえて名前で呼ぶほうが良い関係性を築けると思います。また、間違った知識を得意顔で語っている人をしばしば見かけます。卑屈になる必要は全くありませんが、せっかくプロの見識を分けてもらえるチャンスですから、知ったかぶりをせずバーテンダーさんに質問して話に耳を傾けるのがお勧めです。それから、最近は禁煙のバーも増えています。喫煙して良いかどうかは必ず確認しましょう。

ウイスキーの基礎知識

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