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新型コロナワクチンをめぐる「オトナの事情」

 2020年11月30日 14:30
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〔編集部から〕Doctor's Eyeにおける川口浩氏の担当は整形外科領域ですが、この領域に同氏の琴線に触れる論文が見当たらなかったため、担当領域外ですが、同氏が読者にいま最も訴えたい話題を取り上げています。

研究の背景1:製薬企業の事情―ルール違反の「中間報告」競争

 最近、米国からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの第Ⅲ相臨床試験に関する2つの朗報が相次いで世界を駆けめぐった。1つは、米・ファイザー社とドイツ・ビオンテック社が共同開発するBNT162b2(11月9日発表)、もう1つは米・モデルナ社のmRNA-1237(11月16日発表)で、ともに極めて良好な有効性が示された。

 今回の試験は、2製品ともに3万~4万人規模の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染したことのない参加者をワクチン群とプラセボ群にランダムに割り付けて、2回の接種を行った。問題は、双方ともに「最終報告」ではなく「中間報告」であることだ。ファイザー社は、2回目接種から1週以降(1回目接種からは4週以降)、モデルナ社は2週後の成績で、前者では94例(最終目標164例)、後者では95例(最終目標151例)の感染が確認された段階での暫定結果を世界中に公表した、ということである。

 臨床試験の中間評価は、「強い副反応が出た」または「薬効が著明なのでプラセボ投与の継続が倫理的に問題である」際に、第三者委員会が試験の継続の是非を判断するためのもので、継続するのであれば暫定結果を「中間報告」すべきではない。検者、被験者が印象操作されることによって、その後の治験の盲検性が失われる可能性があるからである。

 まず、「中間報告」の先陣を切ったのはファイザー社である。「両群合わせて94例の感染が確認され、ワクチン接種の有効率は90%以上であった」という内容である(ファイザー社11月9日付プレスリリース)。

 インフルエンザワクチンの有効率が年によっては30%程度であることを考えると、極めて高い数字であることには間違いないが、その医学的根拠については全く触れておらず、世界中に多くの混乱を招いた。多くの人が、「ワクチンを接種した90%以上の人がCOVID-19を発症しなかった、または中和抗体ができた」と誤解しているかもしれないが、これは誤りである。ワクチンの有効率は「プラセボ対照群と比べてどれくらい発症を減らしたかを見た数字」である。すなわち、ワクチン接種群とプラセボ接種群を比較して、それぞれの群における発症数(発症率)を比較して出すのがルールである。

 そこで、ファイザー社の「発症94例、有効率90%以上」だけの情報から考察すると、ワクチン群での発症は8例以下、プラセボ群は86例以上ということになる。本来86例発症するところを8例に抑えたとすると、86-8=78例を発症させなかったので、有効率は、78/86=90.7%となる。もし、ワクチン群9例、プラセボ群85例の発症だとすると、(85-9)/85=89.4%と90%を割ってしまうので、おそらく「有効率90%以上」とは、ワクチン群8例、プラセボ群86例だったのだろう。

 一応、これを確認するためにファイザー社に問い合わせたのだが、「お問い合わせいただきました、『94例のワクチン群とプラセボ群の内訳』および『90%以上のワクチン有効性の具体的な算出方法』につきまして、現時点でご提供可能な情報はございません。この度は先生のご要望にお応えできず、誠に申し訳ございません」というご丁寧なお返事を文書でいただいた。ルールを無視してまで世界中に誤解を招くような曖昧なメディア発表をしておいて、根拠の説明を拒否する理由はなんなのか。

 と思っていると、9日後(11月18日)にファイザー社は「170例の感染者に達した最終分析」として、「ワクチン群8例、プラセボ群162例、(162-8)/162=95.1%の有効率が示された。年齢層や人種を問わず有効で、重大な安全性の問題も生じていない。11月20日に米食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可(EUA)を申請する」と発表した(ファイザー社11月18日付プレスリリース)。

 「なんだ、俺の計算でよかったんじゃないか」と思ったが、そうすると、たった9日前に曖昧な「中間報告」をしたことへの疑念がますます深まる。モデルナ社よりも先に発表することで、「世界に先駆けて」のインパクトが必要だったのか。どうしても、政治的、経済的など、なんらかの「オトナの事情」を勘繰ってしまう。ちなみに、ファイザー社のブーラ最高経営責任者(CEO)は、「中間報告」発表当日に暴騰した株価で、持ち株の60%を売却して約560万ドル(約5億8,000万円)の利益を得ている。

 後塵を拝してしまったモデルナ社は、ファイザー社から1週間遅れた11月16日に、「臨床試験に参加した約3万例のうち、これまでに95例の感染が確認された。その内訳はワクチン群5例、プラセボ群90例だった。したがって、有効率は(90-5)/90=94.4%」と、腹をくくったような明瞭すぎる「中間報告」をしている(モデルナ社11月16日付プレスリリース)。

 勢い(?)で、「感染例のうち、重症11例の全てがプラセボ群で、ワクチン群ではゼロであった。今後数週間以内に、FDAにEUA申請することを目指す予定」とも述べている。

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