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相次ぐ医学界の不祥事に喝!

NPO法人臨床研究適正評価教育機構・理事長 桑島 巖

 2021年02月10日 18:56
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 このところ、三重大学病院麻酔科の贈収賄事件、国立循環器病センター/大阪大学の論文不正事件、旭川医科大学学長問題など世間を騒がせる医学界の事件が相次ぎ、メディアから臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)理事長としてコメントを求められる機会が多くなった。そこで本稿では、これらに対する筆者の見解をまとめてみた。

1. 三重大学病院麻酔科教授が贈収賄疑いで逮捕

 本事件は、同大学の麻酔科・境倫宏元准教授によるカルテ改竄が発覚したことに端を発した。境元准教授は2018年4月から2020年3月にかけて、実際には使っていない点滴静注用β遮断薬ランジオロール塩酸塩(商品名オノアクト)を患者に投与したかのように見せかけ、2,200件のカルテを改竄して診療報酬約2,800万円を不正に請求した疑いで逮捕された(日経新聞)。報道によると、同薬を積極的に使うよう上司の亀井政孝元教授から指示されたという証言を受け、身辺も調査される中でさらに不正が明るみに出た。

  捜査の中で亀井元教授に2つの疑いが生じた。1つ目は医療機器納入の見返りとして、日本光電に自身が代表理事を務める団体の金融機関口座に200万円を振り込ませ、第三者供賄の疑いで今年(2021年)1月6日に逮捕された事件(朝日新聞)。2つ目は、オノアクトを使用する見返りに小野薬品から奨学寄付金として200万円を大学の口座に振り込ませた容疑で、1月27日に再逮捕された事件である。

 報道によると、同氏は医療機器の更新計画があると日本光電に伝え、200万円の寄付を要求し、麻酔科で使用する装置を同社製品に入れ替える便宜を図ったという。同氏は他社の入札が難しくなる仕様書を作成して大学に提出し結局、同社製品を扱うディーラーが落札したという。同氏が代表理事を務める団体の口座には企業から計400万円の振り込みがあり、そのうち約250万円が飲酒を伴う会合に使われたというものである。

■2つの事件に関する見解

1)処方の水増しとカルテの改竄〜医師の"裁量権"が争点~

 寄付金の見返りとして不必要なオノアクトが使用されたのであれば、診療報酬の不正請求は重大な問題であり、カルテの改竄は明らかに違法行為である。しかし処方については医師の裁量権があり、その部分について不適切性や違法性を証明するのは難しい。手術中の突発的な頻脈は血行動態が不安定になるため、対策として同薬を適切に使用するようにという亀井氏の指導であれば医師の裁量権の範疇である。

 またオノアクトは手術中の頻脈発作などに対する緊急使用のため、あらかじめ注射器に詰めておくこともあるかもしれない。しかし実際に使用しなかった場合は、その診療報酬請求をどのように処理したかが問題となろう。

 この件に関して同氏は逮捕されたが、処方の適切性は司法にはなじまないところがあり。企業から大学への奨学寄付金の提供も違法ではないため本件に関しての有罪の立証は難しいと思われる。処方の適切性については裁判における担当医の供述がポイントになると思われる。

2)財団に企業から200万円の入金があった点について〜透明性が不可欠~

 問題は、財団をつくり代表に就任することを大学が承認していたか否かである。2004年の国立大学の法人化以来、大学医学部予算は減少の一途をたどっている現状に鑑み、産学連携は国是として推奨されている。だがその場合、大学側の承認と透明性の担保が不可欠である。使途に関しても、研究者間の意見交換は熱心な研究者たちにとって不可欠なものであり、会合の会場費、講師謝礼、懇親会費は透明性が維持されている限り、常識的な範囲内で許容されるべきであろう。

 この場合、医療機器の入札にあたって日本光電に有利になるような申請であれば贈収賄が成立する可能性は高い。

 本来、研究会などで必要な費用は企業から大学へ納入された寄附金のなかで支出できるようにすべきだが、使途が研究に要した薬品、人件費、パソコン機器、実験器具などに限定されていることから、研究会関連の使用は厳しく限定されている場合が多い。そのために元教授は自身が代表を務める団体に納入させたのであろう。

 筆者は研究を推進する立場からは、大学に納入された奨学寄附金の使途について透明性を担保した上で許容範囲を拡大すべきと考える。

2. 国立循環器病研究センター/大阪大学論文不正事件

 昨年8月、先進医療として実施された臨床研究に関わる論文に不正の疑いがかけられるという事件が勃発した。

 問題となったのは、大阪大学病院が申請した「非小細胞肺がん手術適応症例に対する周術期hANP投与の多施設共同ランダム化第Ⅱ相比較試験」(通称JANP試験)で、心不全治療薬の心房性ナトリウム利尿ペプチド製剤カルペリチド(商品名ハンプ)が、肺がん術後患者の再発を抑制するか否かを検討する臨床研究である。

 当時、大阪大学に所属していた野尻崇氏が、臨床の中で肺がん患者にハンプを投与した症例では手術後の予後が良いと気付いたことから研究が始まったのである。同氏は、この臨床経験を科学的に証明しようと同センターなどで基礎研究を積み上げたという。

 このような経過の中でJANP試験が企画され、2015年には先進医療としての実施が認められ、同大学の他、東京大学、国立がん研究センターなど10施設が参加した。通常の臨床試験は全額自己負担になるが、先進医療であれば保険診療を併用しながら適用外薬の使用が可能となる。

 ハンプが抗がん薬となる可能性を前に、発売元である第一三共はJANP試験への資金の支援を断り、代わりに同製剤とは無関係の塩野義製薬が支援を名乗り出た。2015年に同試験が開始され、10施設で160人の肺がん患者が手術時に同製剤の注射を受け、試験は順調に進んでいた。

 しかし昨年8月、大阪大学と国立循環器病研究センターは、同氏が発表した論文5本に捏造、改竄があったと発表した。うち1本がこのJANP試験で、安全性の根拠となっていた論文に含まれており、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表されていた。同論文の図表に元データと異なる箇所が見つかり、「故意による不正」と判断された。JANP試験は、PNAS論文1本を根拠として、先進医療に申請されていたのだ(医薬経済、朝日新聞)。

 これらの調査結果を踏まえ同大学は今年1月、データに疑惑が生じたことから臨床研究の中止を決定した。因果関係が完全には否定できない有害事象が10件報告され、同大学病院はJANP試験に参加した患者に謝罪した(朝日新聞)。

■本事件に関する見解

不正が発生した背景にあるもの~功名心にはやったか~

 本件は、ハンプの発売元である製薬会社が資金協力を断っていることから、処方を促進する目的で製薬企業が関与した可能性は低い。野尻氏は故意による論文の改竄を否定しているが、もし改竄が事実であるとすれば、なぜ行ったのか。

 臨床経験の中から薬剤の新しい効果を直感的に見いだし、その予測が正しかったことが大規模臨床試験で実証されるケースはしばしばある。例えば、代表的な発見としてACE阻害薬による糖尿病患者の微量アルブミン尿抑制効果が挙げられる。大学から関連病院に赴任した医師が、前任の医師から引き継いだ糖尿病患者のアルブミン尿が突然消失しているのに気付いた。調べてみると、前任医師が当時糖尿病腎症には禁忌とされていたACE阻害薬を処方し、その直後からアルブミン尿が消失していることを突き止めたのである。これを論文にまとめて米国の有名医学雑誌に投稿したところ、アクセプトされ論文が掲載された。

 現在、降圧薬として処方されているカルシウム拮抗薬ニフェジピン(商品名アダラート)も、狭心症治療薬の治験段階で降圧効果が発見されたものである。

 このように臨床から得た医師の直感は極めて重要である。それだけに論文不正が事実とすれば、非常に残念である。  自身の仮説を信じるあまり、臨床試験を遂行したいという強引な動機がよほど強過ぎたのかも知れない。JANP試験が中止されたため、ハンプ投与による術後肺がん患者の再発抑制効果については不明のままで終わった。

 しかし、最も重大なのは試験に参加した患者に不要な薬剤を投与した点であり、医療への信頼を損ねたことの意味は大きい。さらに診療報酬の中で臨床研究が行われた点も問題であろう。

 結局、本事件は医師の功名心から生じた不正といえようが、学究心と功名心は表裏一体である。真実を追究したいと願うのであればごまかしや嘘があってはならない。

3. 旭川医科大学学長が関連病院から多額の報酬支払い

 前述の2件は、産学協同における透明性の担保と、保険診療の枠組みの中での臨床研究の在り方や研究資金の透明性についての課題を残した事件である。

 さらに最近では、旭川医科大学学長の吉田晃敏氏が同大学関連病院の滝川市立病院から多額の報酬を受け取っていた問題が明らかになった。医師不足に悩む道内過疎地域の住民の信頼を裏切る行為である。医師のモラルについて、あらためて考えさせる事件であった。

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