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この難病・希少疾患に注目! この難病・希少疾患に注目!

HTLV-1関連脊髄症の診療環境が前進

根本的治療の研究も進行中

 2021年03月26日 05:10
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 ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)関連脊髄症(HAM)は、HTLV-1感染細胞によって脊髄が傷害され、歩行困難などの症状が徐々に進行し深刻なQOLの低下を来す。希少疾患のため、疾患に関する情報の入手および治療の均霑化が困難という課題がある中、2012年に患者レジストリサイト「HAMねっと」が構築され、2019年には日本神経学会などの監修により『HTLV-1関連脊髄症(HAM)診療ガイドライン2019~HTLV-1陽性関節リウマチ&HTLV-1陽性臓器移植 診療の対応を含めて~』が刊行された。両者に携わった聖マリアンナ医科大学脳神経内科教授の山野嘉久氏に、HAM診療の現状と今後の展望を聞いた(関連記事「【寄稿】患者が国を動かす:HTLV-1対策特命チームの誕生に思う」「HTLV-1関連脊髄症に対するモガムリズマブ,治験で安全性確認」)。

患者は全国に3,000人程度

 日本にはHTLV-1感染者が108万人程度存在し、そのうちHAMを発症するのは0.3%ほどと考えられている。HTLV-1の主な感染経路は母乳、性交渉であり、新規感染者は毎年約4,000人に上ると推定されている。献血や妊婦健診時の抗HTLV-1抗体スクリーニングで発見されるケースも多い。

 HAM発症の危険因子の詳細は不明だが、①HTLV-1キャリアと比べて末梢血リンパ球のHTLV-1プロウイルス量が高い②感染ウイルスのサブグループがHTLV-1aAである③ヒト白血球抗原(HLA)-DRB1*0101アレルを有する―ことが報告されている。なお、HAMの発症平均年齢は43.8歳だが若年発症例もあり、男女比は1:2~3とされる。九州や沖縄で患者の集積が見られたが、近年は東京などの大都市で増加している。

HTLV-1感染細胞が慢性的な炎症に関与

 HAMの病態としては、HTLV-1感染細胞が増加・活性化し、脊髄に入り込んで過剰な免疫応答を引き起こすことにより、脊髄内で慢性的な炎症が生じると考えられている。まず、HTLV-1がケモカイン受容体であるCCR4陽性のCD4陽性ヘルパーT(Th)細胞に持続感染すると、Th分化異常を来して免疫系のバランスが破綻。さらに、HTLV-1感染Th細胞に発現しているCXCR3のリガンドであるCXCL10によって、感染細胞の脊髄への遊走および浸潤が促進される。

 脊髄の炎症は胸髄中部から下部を中心に見られ、症状としては脊髄が傷害されることによる歩行障害、寝返りが打てないなどの体幹の障害、排便・排尿障害などが現れる。症状は炎症の程度により個人差が大きいが、歩行障害は徐々に進行して車椅子使用に至る例も少なくない。また、排尿・排便障害はほぼ必発とされる。排尿障害は患者の9割以上に上り、うち3割程度が自己導尿を要する。排便障害では便秘の他、肛門括約筋の麻痺によって便失禁を呈する例がある。また、炎症が感覚神経に及ぶと、持続的な足の痺れや刺すような強い痛みを訴える患者もいる。

原因不明の歩行障害に注意

 HAMでは、炎症が広がり脊髄が重度に傷害される前の早期診断・早期治療が極めて重要だが、HTLV-1への感染に無自覚な例も少なくなく、HAMねっとのデータによると発症から確定診断までの平均期間は7年ほどを要している。発症初期は歩行障害や排尿障害、痺れなどの症状から整形外科、泌尿器科を受診する患者に加え、マッサージや鍼灸を受けるケースもあるが、山野氏は早期診断につなげるために「原因不明の歩行障害などがあれば、HAMを疑って神経内科を紹介してほしい」と呼びかける。①両下肢の痙性麻痺②血液および髄液検査で抗HTLV-1抗体陽性③他の脊髄疾患が除外できる―の全てを満たすとHAMと診断されるが、下肢の筋肉の突っ張りや腱反射の亢進も特徴的な所見であり、診断の一助となる。

 なお、HAM患者ではブドウ膜炎、シェーグレン症候群などを合併しやすいことが知られている。中でも生命予後に影響するものとして、成人T細胞白血病(ATL)がある。同氏は「ATLは血液内科系の疾患だが、HAM患者を診療する神経内科医は発症リスクを念頭に置く必要がある」とし、定期的な血液検査実施の重要性を強調する。

疾患活動性に応じた治療を

 HAM治療のポイントとしては、疾患活動性に応じた治療を行うことが挙げられる。疾患活動性が高い患者では、まずステロイドパルス療法を行った後、ステロイド内服治療を継続する。中等度の患者ではステロイド内服治療が中心で、緑内障や糖尿病などを併発しステロイド投与が困難な例ではインターフェロンα投与を考慮、軽度の患者では運動療法や対症療法が中心となる。疾患活動性を把握するには、発症様式や臨床経過、MRIによる炎症所見、バイオマーカー値が目安となる。

 一例を挙げると、通常は発症から20年ほどかけて杖歩行、車椅子へと緩徐に歩行障害が進行するが、発症後1年程度で車椅子を使用するような場合は疾患活動性が高い。なお、このような急速進行例が全体の2割弱を占める一方で、20年程度経過してもほとんど進行しない例も約5%存在する。

 HAM進行と直接関連する因子は脊髄の炎症の程度である。また、髄液中のCXCL10およびサイトカインの一種であるネオプテリンは炎症の程度と強く相関するため、これらの測定は極めて重要だが、HAMでの保険適用はない。そこで、HAMねっとでは全国の医療機関から検体を集約。各医療機関の責任者の了承を得た上で申し込めば、一括して中央倫理委員会を通し、研究目的での測定が可能となる。また、CXCL10については、山野氏らの研究グループが保険適用を目指した検査キットの開発を進めている。

維持期でも炎症抑制が必要だが、ATL発症リスクの高い患者は要注意

 HAMの維持療法では、ステロイド治療によって低下した髄液中のCXCL10およびネオプテリン値を正常に保つことを目指す。しかし、以前はこうした炎症マーカーが正常値まで回復する前に、副作用の懸念から治療を中断するケースがあった。山野氏は「副作用を管理しながら、炎症マーカーの値を適宜確認して治療を継続することが重要だ」と指摘する。

 ただし、HTLV-1プロウイルス量が極めて多いなど、ATL発症リスクが懸念される患者では、免疫系に影響を及ぼすステロイド治療に注意すべきだと同氏は考える。免疫応答の低下はがん化のリスクを高めるためだ。HTLV-1感染者は、HAMだけでなく免疫抑制治療が必要なHTLV-1陽性関節リウマチなどを発症するケースもあり、「数年以内にATL高リスク患者に対する治療方針を検討したい」と同氏は語る。

根本治療薬の長期的有効性と安全性の検討も進む

 こうした中、山野氏らの研究グループはHTLV-1感染細胞に発現するCCR4に着目し、HAMの根本治療薬の開発研究を進めている。これまでに研究グループは、ATLなどに適応のある抗CCR4モガムリズマブをHAM患者に投与する第Ⅰ/Ⅱ相試験を行い、プロウイルス量を46.4%(95%CI 28.7~64.1%)、髄液中のネオプテリンを45.1%(同30.0~60.3%)低下させたことを報告している(図1、2)。さらに、同試験ではCXCL10も28.9%(同14.9~42.9%)低下し、患者の79%は痙性スコアが、32%はHAMの運動障害を13段階で評価する納の運動障害重症度(OMDS)が、それぞれグレード1以上改善した。現在は、長期投与の有効性と安全性が検討されている。

図1. HAM患者におけるモガムリズマブ投与前後の変化

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日本医療研究開発機構 2018年2月8日公開のプレスリリース

図2. モガムリズマブ投与による末梢血単核細胞中のプロウイルス量と脳髄液中のネオプテリン量の変化

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N Engl J Med 2018; 378: 529-538

 同氏は希少疾患における根本治療薬開発について、多くの登録症例数を必要とし試験が長期に及ぶため①コストがかかり製薬企業が参画しにくい②倫理的にプラセボ対照試験などの試験デザインが構築しにくい―とう課題を挙げる。そこで今後は、「新薬の効果をCXCL10やネオプテリンのなどの代替バイオマーカーで評価し、HAMねっとのような患者レジストリデータに蓄積された既存治療の効果と比較する、といった戦略が必要になるだろう」と展望した。

(須藤陽子)

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