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培養液・培養器の進化が妊娠率向上に直結!

タイムラプス培養器の保険適用が望まれる

 2021年07月02日 05:15
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 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株の感染拡大にSARS-CoV-2ワクチンの集団接種、東京オリンピック・パラリンピック開催に関連した議論の紛糾―。ワクチンの普及が遅れている日本では、こうした事案への対応に追われる状況が続く中、置き去りにされていないか懸念されるのが不妊治療に対する公的医療保険適用の問題だ。来年(2022年)4月の適用開始だけが決まり、徐々に期限が差し迫っている。全ての医薬品や医療機器、手技などが保険適用となるかは不明であり、結果として妊娠率低下につながりかねないという指摘もある。とりわけ、妊娠率の向上に深く関わる培養液および培養器に対する保険適用の行方は気になるところだ。桜十字渋谷バースクリニック(東京都)院長の井上治氏に、不妊治療成功の鍵を握る培養液および培養器を中心に、不妊治療の最前線について聞いた(関連記事「withコロナ時代の不妊治療」)。

分割期胚では卵管内、それ以降では子宮内に近い環境での培養を

 自然妊娠において、卵巣から排卵された卵子は卵管の先端にある卵管采に取り込まれ、卵管膨大部に到達した精子と受精する。受精卵は卵管を移動して子宮に入り、子宮内膜で着床に至る。

 受精卵は卵管を移動する際に成長(細胞分裂)し、2細胞期→3細胞期→4細胞期と分裂を繰り返す。受精後3日ごろの胚を分割期胚、子宮内に入る受精後5日ごろの胚を胚盤胞と呼び、胚盤胞に至ると胎盤や胎児となる部分が確認できようになる。

 不妊治療の中心となる体外受精や顕微授精では、初期胚または胚盤胞を子宮腔に移植する。胚培養は、排卵直前の卵巣から卵子を採卵後、人工的に受精させた胚を培養液・培養器を用いて培養するが、最近では培養液・培養器の品質向上により胚盤胞に至る割合が増加したため、胚盤胞での胚移植が増えているという。

 井上氏は、胚培養における最も重要なポイントとして「胚のストレスを最小限に抑えること」を挙げた。

「母胎内が胚にとって最も理想的な環境だとすれば、母胎内と同様の環境を整えることが望ましい。分割期胚では卵管内と、それ以降では子宮内と同様の湿度や温度、ガス濃度(低酸素環境の維持)、pHを保ち、太陽光や蛍光灯といった光に曝露させないことが重要である」

Single mediumで胚盤胞まで発育させることが可能に

 分割期胚までとそれ以降では、培養環境だけでなく必要となる栄養も異なってくる。受精後3日までは分割期胚用に低グルコース、非必須アミノ酸などを添加した培養液を、受精後4日以降は胚盤胞用に高グルコース、低ピルビン酸、必須/非必須アミノ酸、ビタミン類などを添加した培養液が望ましいとされている。このように胚培養の前半と後半で組成を変更する培養液をsequential mediumという。

 一方、胚盤胞が発育するまでに必要な全ての栄養を添加した培養液をsingle mediumという。これは、胚が発育時期によって必要な栄養を選択的に吸収するという考えに基づくもので、培養液を交換しなくて済むため、胚へのストレスを抑えられるというメリットがある。一方で、胚に悪影響を及ぼすとされるアンモニアが発生するデメリットがあったが、最近ではアンモニアの発生を抑制できる培養液が開発され、single mediumにより胚盤胞まで発育させることが可能になったという。

タイムラプス培養器の登場で一度も胚を取り出すことなく培養可能に

 また、従来の培養器は胚の発育状況を確認するために胚を培養液から取り出す必要があり、光の曝露など胚がストレスを受ける状況が生じていたが、胚を観察するカメラが内蔵されたタイムラプス培養器が登場し、培養器から取り出さずに胚の発育状況を確認できるようになった。

「当院では、タイムラプス培養器〔Embryo Scope Plus(Vitrolife製)〕とsingle medium〔ONESTEP Medium(ナカメディカル製)、SAGE 1-Step(オリジオ製)〕を採用。培養液の交換をせず、胚へのストレスを可能な限り回避している」と井上氏。受精から保存用に胚を凍結させるまで一度も胚を取り出すことなく、卵管内や子宮内と同様の環境下で胚培養を行っているという。

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30歳代で5割超、40歳以上で3割超が妊娠

 また、これまでに①細胞分裂の速度が遅い②1細胞期から3細胞期に直接移行している③細胞(割球)の融合がある―胚を用いた移植は妊娠率が低いことが報告されている(Hum Reprod 2011; 26: 2658-2671Fertil Steril 2012; 98: 1458-1463)。同氏は「こうした報告を踏まえ、当院では10分ごとに胚を観察して分裂過程を細かく記録し、①~③に該当する胚は移植順位を下げるなどして妊娠率の向上を図っている」と、タイムラプス培養器活用の利点を語る。

 さらに、胚移植時にヒアルロン酸を高濃度に含む培養液〔Embryo Glue(Vitrolife製)〕を用いることで体外受精/顕微授精での出生数を増加させ、流産の割合をわずかに減少させる可能性があることが報告されており(Cochrane Library 2020年9月2日オンライン版)、同院でも採用しているという。その他、顕微授精時のマニュピレーション操作などで用いる培養液にm-HTF mediumを、精子の洗浄に用いる培養液にHTF mediumを採用しているという(いずれも北里コーポレーション製)。

 こうした一連の培養液、培養器を用いることで、同院の成熟卵を用いた顕微授精での正常受精率は85.6%、正常受精卵の胚盤胞発生率は74.8%と高い。良好胚を選択することで、1回の胚移植当たりの年齢別妊娠率は29歳以下が75.8%、30~34歳が52.6%、35~39歳が52.4%、40歳以上が32.3%と、良好な成績をもたらしている。

 なお、妊娠例のうち1回の採卵での妊娠率は29歳以下が95.5%、30~34歳が90.4%、35~39歳が83.8%、40歳以上が85.7%に上るという。

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培養液にサイトカイン添加で、胚盤胞形成率向上を目指す研究も

 最近では、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)やヘパリン結合性上皮成長因子(HB-EGF)、白血病抑制因子(LIF)などのサイトカインを添加した培養液の研究が進められ、胚盤胞形成率が上昇する可能性が示されている(Fertil Steril 2019; 112: 849-857.e1)。

 井上氏は「GM-CSF存在下で胚移植を行うと着床時のサイトカインが確保され、妊娠率が向上することが示唆されているが、エビデンスレベルが十分でないため、今後どのような研究結果が報告されるか気になるところだ」と関心を示す。

 また、胚のグルコース消費に伴う培養液中の乳酸濃度増加が胚の代謝に悪影響を及ぼす可能性が指摘されており、低乳酸濃度の培養液の使用により染色体数が正常な正倍数性胚盤胞の形成率が向上する可能性があるという。

 その他、ケモカインの一種であるCXCL5のシグナル伝達を阻害するCXCL5阻害薬を培養液に添加することで、母体の加齢などによる胚の質低下を改善させる可能性があり(Aging Cell 2020; 19: e13240)、研究開発が進められている。

妊娠前または妊娠中期のワクチン接種を推奨

 現在の体外受精および顕微授精による不妊治療は、患者の経済的・身体的負担が大きい。井上氏は「不妊治療が保険適用になることで、経済的負担が低減できるのは重要なこと」と指摘する。一方で、タイムラプス培養器や妊娠率向上に寄与するとされる各種培養液などが対象となるかは不明であり、今後注視していく必要があると懸念を示す。

「エビデンスレベルが高くない薬剤や手技でも出産に至っている患者もいるため、保険適用の可否を適切に判断するのは容易ではない。いずれにしても患者のデメリットにならないシステムとなることを期待している」

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関しては、妊娠後期および高血圧や糖尿病などの基礎疾患、肥満などがある妊婦で重症化リスクが高いとされている(関連記事「コロナに感染した妊婦、後期に重症化の傾向」)。

 SARS-CoV-2ワクチンについては、妊婦への短期的な安全性を示すデータは少しずつ報告されているものの、中・長期的な副反応や胎児および出生児への安全性に関しては今後の報告を待つ必要がある。

 同氏は「現時点では」と前置きした上で「世界的にもワクチン接種のメリットがデメリットを上回ると考えられている」とし、妊娠を希望する場合はなるべく妊娠前のワクチン接種を勧めている(生ワクチンではないため接種後長期の避妊は不要)。

 また、いつワクチンを接種できるかが分からない場合は「感染予防策を行いつつ、妊娠中期ごろの接種が勧められる」と同氏。妊娠を望める期間が限られてきているケースもあることから、「これまで通り感染予防を行いながら、不妊治療にトライしてほしい」と、不妊に悩む患者にエールを送った。

(渕本 稔)

■桜十字渋谷バースクリニック

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