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「高齢」はスタチン中止の理由にならない

 2021年08月20日 05:00
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研究の背景:高齢者のコレステロール低下療法の意義には疑問が残されていた

 10年ほど前、わが国ではコレステロール低下療法に疑義を唱える主張がなされ、臨床の現場に混乱が生じたことがあった(関連記事「検証・日本脂質栄養学会コレステロールガイドライン」「"醜い泥仕合を仕かけただけ" 日本脂質栄養学会の再反論を考察する」)。

 その後、エゼチミブやPCSK9阻害薬を用いた種々の臨床研究の結果から、コレステロール低下療法の意義はあらためて確立された(N Engl J Med 2015; 372: 2387-2397、関連記事「やはりコレステロールは下げるべき」)。ただ、このときにも、「コレステロールを下げることは良い。だが、いかに、そして誰に、が大切だ」(Lowering LDL Cholesterol is good,but how and in whom)とされていた(N Engl J Med 2015; 372: 1562-1564)。

 特に、後期高齢者においてはコレステロール低下療法の一次(初発)予防効果は明らかでないとされ、日本動脈硬化学会の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版』では、後期高齢者に対しては"主治医の判断で個々の症例に対応する方針"とされている。

 こうした状況下、臨床の現場で問題となってきたのは、「後期高齢者になったら、初発予防目的のスタチンは中止すべきかどうか」である。前期高齢者までは自信をもって投与していたスタチンが、75歳を超えたらその患者に対して有益なのかどうか分からないというのだ。患者や家族から「薬を減らしてほしい」と言われたときにどう対応すべきなのか、私自身、答がなかった。

 そんな中、観察研究ではあるが、プロペンシティスコアでマッチングングさせたデザイン〔ランダム化比較試験(RCT)と同様の解析をする目的で、注目する項目以外の臨床特性をそろえる観察研究における統計解析手法:Stat Med 2007; 26: 20-36〕で、65歳以上を対象にスタチンを中止した人と継続した人の心血管アウトカムを比較検討した研究結果がJAMA Netw Open2021; 4: e2113186)に掲載された。

 それによると、スタチンの中止は致死性および非致死性の心血管アウトカムの増加と関連していたという。2020年のLancetに掲載された、高齢者におけるコレステロール低下療法の意義を支持する2つの研究結果も併せてご紹介したい。

研究のポイント1:イタリアの健康データベースの解析研究

 本研究はイタリア・ロンバルディア州(州都ミラノ)の健康データベースを解析したものである。このデータベースは1997年に設立されたもので、入院情報(病名、合併症、治療内容)や外来処方内容などが含まれているという。

 研究者らはデータベースから、2013年10月1日~15年1月31日に65歳以上で、スタチン、降圧薬、糖尿病治療薬、抗血小板薬のいずれも処方されている人を抽出した。さらに、この期間内で1種類以上の薬剤が中止されている人を除外した。

 その上で、2015年2月1日以降をフォローアップ期間と定義し、2017年6月30日までにスタチンを中止した人を抽出した。さらに、スタチン中止例のうち、スタチン以外にも3種類の薬剤のいずれかを中止した人を除外し、スタチンだけを中断した人を特定した。

 一方、スタチンを継続している人の中から、スタチンだけを中止した人と臨床特性の似ている人を抽出した。具体的には、性別、年齢、合併症(がん、脳血管疾患、虚血性心疾患、心不全、呼吸器疾患、腎疾患、肝疾患)、(中止前または継続中の)服薬遵守度、マルチソース合併症スコアによってプロペンシティスコアを計算してマッチングを行った。

 評価項目は、2018年6月30日までの(または2015年2月1日以降でスタチン以外の3種類の薬剤のいずれかが中止されるまでの)①脳血管疾患による入院②心不全による入院③虚血性心疾患による入院④全ての原因による緊急入院⑤脳神経内科疾患による緊急入院⑥全死亡―6つのアウトカムの発生である。

 検討の結果、65歳以上でスタチン、降圧薬、糖尿病治療薬、抗血小板薬のいずれも処方されていた9万5,040人から、2015年1月31日時点でどの薬剤も中止されていない2万9,047人が抽出され、さらにその後2017年6月30日までにスタチンのみが中止された4,010人が抽出され、1:1でプロペンシティスコアマッチングできる4種類の継続者が探索されて最終的に8,020人(原著の図には8,010人と記載されているが誤記であると判断する)が解析対象とされた(表1)。

表1. スタチン中止群と継続群の臨床特性

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研究のポイント2: スタチン中止群で心血管アウトカムが悪かった

 スタチン中止群で平均20.6カ月、継続群で平均20.4カ月のフォローアップ期間における心血管アウトカムを比較すると、全てのアウトカムにおいて中止群のハザード比(HR)が1を超えており、一部のアウトカムについては有意差があった(P<0.05、表2)。〔山田註:原著においてはHR(ハザード比)とRR(相対リスク)の混同が複数個所あるが、表2については原著の記載のままとした〕

表2. スタチン中止群と継続群における心血管アウトカム

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 また、スタチン以外の3種類の薬剤の中止理由が心血管アウトカムの発生によるものであることによるバイアスを避けるため、inverse probability of censoring weights (IPCW)法でも解析してみたが、結果に大きな相違はなかった(図1)。

図1. スタチン中止と心血管アウトカムとの相関

28977_fig01.jpg

(表1~2、図1ともJAMA Netw Open 2021; 4: e2113186)

 さらに、年齢、性別、マルチソース合併症スコアなどで分けて解析しても、結果は同様であった。

私の考察:後期高齢者限定の別研究でも同様の結果―"Never too old"

 実は2020年11月21日号のLancetに高齢者に対するコレステロール低下療法の意義を支持する2本の研究論文が掲載されていた。1つはデンマーク・コペンハーゲンの一般集団を対象としたコホート研究のデータであり(Lancet 2020; 396: 1644-1652)、80歳以上の集団においても、高LDL-C血症が心筋梗塞や心血管疾患の発症と有意に関連していたのである(図2)。

図2. LDL-Cが38.7mg/dL(=1mmol/L)上昇するごとのイベント発生率(1,000人・年当たり)

28977_fig02.jpg

Lancet 2020; 396: 1644-1652)

 もう1つの論文は、75歳以上に限定したコレステロール低下療法のRCTのメタ解析であり(Lancet 2020; 396: 1637-1643)、スタチンであれ、スタチン以外の薬剤であれ、心血管疾患の発症を有意に予防することを示した(図3)。

図3. 75歳以上に限定したコレステロール低下療法の心血管疾患アウトカムについてのRCTのメタ解析(フォレスト・プロット)

28977_fig03.jpg

Lancet 2020; 396: 1637-1643)

 確かに、スタチンをはじめとするコレステロール低下療法は、誰に対して、どんな方法で介入するかは今も重要である。しかし、こうしたデータからは、スタチンについて(コレステロール低下療法について)高齢過ぎるからやめた方がよいということはなさそうである。"Never too old to benefit from lipid-lowering treatment"は、2020年11月21日号のLancet2020;396: 1608-1609)に寄せられたコメントのタイトルである。今後はこうした気持ちを持って、高齢患者のスタチン中止の希望に向き合っていこうと思う。

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山田 悟(やまだ さとる)

1994年、慶應義塾大学医学部を卒業し、同大学内科学教室に入局。東京都済生会中央病院などの勤務を経て、2002年から北里研究所病院で勤務。 現在、同院糖尿病センター長。診療に従事する傍ら、2型糖尿病についての臨床研究や1型糖尿病の動物実験を進める。日本糖尿病学会の糖尿病専門医および指導医

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