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「無駄な手術」が看過される時代の終焉

“金メダル”の脊椎固定術を噛んでみる

 2021年09月03日 18:01
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研究の背景:もはや医療費の浪費は許されない

 首都高に乗るたびに有無を言わさず1,000円パクられた。気が付けばオリンピックが終わっていた。覚えているのは、某市長が金メダルを噛んで大バッシングを浴びたことくらいである。

 今回のコロナ禍で、図らずも日本が医療後進国であることが露見した。それなのに、コロナ禍の前(2018年)から国民医療費は既に43兆円を超えており、国家予算(106兆円)の半分に届こうかという勢いであった。言うまでもなく、その後のコロナの襲来による経済危機は深刻で、もはや今までのような放漫な医療費の浪費が許されるはずがない。医療費削減のためにまずメスを入れるべきは、この後進国の「産・官・学」によって看過されてきた「効かない薬」と「無駄な手術」である。正確に言うと、「効能が実証されていない、または否定されている治療法」である。

 整形外科領域で、金メダル級に「効かない薬」は、言うまでもなく適応外処方で乱発処方されているα2δリガンドであるプレガバリンとミロガバリンである(関連記事「再び「神経障害性疼痛」を問う」)。

 これらは「鎮痛薬」というメジャー種目での金メダルなので、その経済損失は莫大である。また、「軟骨再生医療」というマイナー種目としては、多血小板血漿(PRP)という科学的エビデンスの希薄な「民間療法」が一部の「学」まで巻き込んで浸透してしまったが、さすがに「官」はこれを薬事承認するほど不見識ではない。過去にバトンミスで薬事承認してしまったこの種目の金メダルは「自家培養軟骨ジャック」であろう(関連記事「OA治療薬の承認に見る厚労省の二重構造」)。

 今まで私は、これらの金メダルを随分と噛んでゴン攻めしてきたつもりだが、件の市長のようなバッシングを浴びない。というか、それ以前に注目もされない。したがってなんの影響力もなく、今でも多くの整形外科医がプレガバリンとミロガバリンを処方して保険審査もフリーパスのまま。サスガ、医療後進国の整形外科である。

 さて、整形外科に限らずどの分野の外科手術も、国内外の先生方が紆余曲折の経験を繰り返しつつ創意工夫を重ねてこられた結果、開発され発展してきたことは間違いない事実である。先輩方のご苦労・ご尽力に対する心からの感謝と敬意を忘れてはならないことは言を俟たない。

 しかしながら、ごく一部の手術には、田舎の高速道路やダム建設の公共工事との共通点が否定できない。1つには、技法を開発した医師の業績や名声・栄達のためになされる手術がある。これは公共工事になぞらえると「地方選出議員の業績・集票のための工事」と同じである。もう1つは、外科医の地位保全や病院や学会の収益への貢献のための手術で、こちらは「土建会社の保護や地域経済の活性化のための工事」と重なる。

 また手術治療には、薬物治療における厚生労働省・医薬品医療機器総合機構(PMDA)のような公式の承認審査システムが存在しない。承認の可否決定の根拠として必須であるエビデンスレベルの高い臨床試験を手術治療において行うのが難しいからである。したがって、現状では外科医は自身の裁量で手術の是非、術式を決定することができ、「傷病の治療目的」であれば費用は公的保険の支給対象となる。もちろん、患者や家族に手術の利点・有効性と欠点・危険性を十分に説明して、インフォームド・コンセントを交わすのが前提であるが、医療の素人である患者や家族が医師の意向に反して手術を拒否することはまれである。

 それでも最近は、医療統計学の進歩によって、ランダム化比較試験(RCT)のような高いエビデンスレベルを持った評価が手術治療でも可能になってきた。その結果、今まで金科玉条のように信じられてきた必要性・有効性が否定された手術も散見される。同じ傷病に対してでも、手術に算定される医療費は、保存療法に比べると桁違いに高額である。そこに無駄がないかをきちんと検証するためにも、外科手術の有効性を学術的に再評価しようとする最近の傾向は歓迎すべきことである。

 というわけで、どうせ注目もされないのなら、今回は「無駄な手術」の金メダルをチョコっと噛んでみる。

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