マイナカード普及に利用された医療と国民の健康 河野太郎デジタル担当大臣は10月13日、政府の方針として「現行の健康保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードと一体化したマイナ保険証に切り替える」と表明した(関連記事「現行保険証、24年秋廃止」)。マイナカードの普及が遅々として進まない現状の打開を狙った苦肉の策である。 2013年5月に成立したマイナンバー法には「住民基本台帳に記録されている者の申請に基づき、その者に係るカードを発行するものとする」(16条2項)と明記されており、カードを取得するか否かは個人の任意の判断に委ねるとしている。しかしながら、国民皆保険であるわが国において、健康保険証とセットでの切り替えを迫る仕組みは、法的に任意であると定められている制度を事実上の義務化に転換することに他ならない。これに対して、国民から「任意といいながら義務化する政府のやり方は強引で理不尽」という反発が起こるのは当然である。そもそも、法律で担保されている原則が、政府の一存で蔑ろにされるのは法治国家として許されることではない。 この河野大臣の表明は、政府がマイナカードの普及のために、マイナポイント付与などといった「アメ」から、事実上の義務化という「ムチ」の政策へと大きく舵を切ったことを意味する。何よりもわれわれ医療人が看過できない問題は、そのために「医療が利用された」、換言すると「国民の健康が人質に取られた」ということである。さらなる問題は、その根底に現政権の「政治による医療支配」という極めて危険な基本姿勢が存在することである。