研究の背景:リファンピシンによる治療短縮の恩恵は絶大 以前、「結核菌感染があるのに臨床症状がない状態、すなわち潜在性結核感染症(LTBI)はリファンピシン(リファンピン、RFP)で治療すべき」と述べ、その根拠となるランダム化比較試験を紹介した(関連記事「潜在性結核にはリファンピシンを」2018年11月1日)。 このようなデータを踏まえ、僕は原則、LTBIをRFPで治療することにしている。RFPで副作用が発生してしまった、あるいは他の薬との相互作用などで使えない、といった場合は従来通りイソニアジド(INH)で治療するが、基本はRFPだ。 治療が4カ月に短縮され、患者はとても楽になった。僕も楽になった。フォローする保健所の職員も楽になったことだろう。昔は、LTBIは治療完遂後2年間フォローアップしていたが、そのような長期フォローを正当化する根拠は乏しく、近年はLTBIの治療終了をもってフォローは終わらせるのが原則だ。いまだに「2年間フォローしろ」と要求してくる保健所があったとしたら、ちと勉強不足なのである。ついでに言えば、LTBI患者は診断時に肺結核がないことを確認する必要がある。だから胸部の画像を撮るのだが、「フォローアップ」のため追加に画像検査をする必要はないし、行政もそれは(現在は)要求していない。これも「CT撮ってください」と保健所が言ってきたら、やや勉強不足(もしくは診査会の勉強不足)である。 日本結核病学会予防委員会.「潜在性結核感染症治療終了後の管理方法等について」 (平成28年5月) 厚生労働省健康局結核感染症課長.「結核登録票に登録されている者の病状把握の適正な実施について」の一部改正について(平成28年11月25日) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の時代は、「生産性」や「作業効率」の時代である。泥臭く、地道に、無駄に思えることもコツコツやり続けることが美徳、な時代は終わったのである。無駄なことは無駄なのだ。患者フォロー期間が短ければ、患者は喜び、僕ら医療者も喜び、保健所の職員だって嬉しい。ただでさえCOVID-19対策(あるいは人間対策)で疲弊している保健所職員の業務・疲弊を緩和するのは、関係諸氏全員の大事な責務である。というわけで、「LTBI治療にRFP」、とても大事なコンセプトなのだが、それでもこう言う人はいるだろう。 「日本人の患者データがないじゃないか」。それは、むろん、まっとうな見解である。 よって、日本人のデータをつくってみよう。そう考えて行ったのが、今回紹介する研究だ。またも手前味噌で申し訳ない。 Iwata K, Morishita N, Nishiwaki M, Miyakoshi C. Use of Rifampin Compared with Isoniazid for the Treatment of Latent Tuberculosis Infection in Japan: A Bayesian Inference with Markov Chain Monte Carlo Method. Intern Med. 2020 Jul 14.