【解説】効果がない薬の処方をどうするか?
シップヘルスケアファーマシー東日本株式会社
川村 和美
患者さんの望みに応えるか、医師の指示に従うべきか...。どのように判断したら適切なのだろうとモヤモヤしたことはありませんか?
とりわけ、"倫理的判断"に迷う場面においては、直感に基づく判断をせず、そのケースをさまざまな側面から幅広く検討し、より望ましい決定をするというプロセスが重要になります。
今回は、渡したはずの薬を「足りなかった」と患者さんが言うケースです。薬剤師として、どのように対応すればよいでしょうか。

このケースの詳しい状況説明や、薬剤師が倫理的に判断するために必要な5つの視点からの解説はこちらに掲載しています。
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それぞれの対応は望ましい?
このケースを考える上で大切な、5つの視点から解説していきます。
※(関連記事)倫理的に判断するための5つの視点とは?
効果がない薬を継続しても、Fさんには副作用の負担ばかりを課すことになるため、主治医に抗がん薬の中止を提案する。
この方法には、患者の視点、QOLの視点の不足がありそうです。治療効果がないとわかっている薬を使い続けることは、薬の不適切使用と考えられますので、中止を提案するという判断は間違ってはいません。しかし、Fさんがこの抗がん薬に強い希望を持っていることが、これまでの面談からわかっていますので、配慮の欠いた説明をした場合、患者さんの望みを断つ可能性が危惧されるでしょう。
薬に関することは薬剤師の責任なので、使用中の抗がん薬に効果が見られないことを、私から丁寧にFさんに伝える。
この方法は、特に患者の視点と関係者の視点が不足する場合がありそうです。もし主治医の決定の前に抗がん薬の中止を薬剤師がFさんに伝えたら、チームの方針にそぐわない対応となってしまうかもしれませんし、Fさんには主治医に対する不信感を抱かせることになるかもしれません。
薬剤師から伝えるとしても、主治医に相談の上、適切なタイミングで、チームの他のメンバーの対応も考慮した上で、伝えることが望ましいでしょう。
いつか主治医が検討するときが来ると思うので、それまでは私から抗がん薬の中止を提案することはせず、Fさんを励まし続ける。
この方法は、特に患者の視点、関係者の視点が欠落し、QOLの視点の捉え方が間違っています。この対応からは、事なかれ主義的な考えが伝わってきますし、主治医任せで無責任にも感じられるため、「薬剤師は何もしてくれない(参考記事)」と強い嫌悪感を抱く患者や家族を発生させてしまうかもしれません。
さらに、遠くない将来に抗がん薬が中止されることを分かっていながら、そのときまであたかも薬の効果を信じているかのように励まし続けるという相反性のある行為も、結果的に患者さんに「裏切られた」といったような印象を与え、医療者に対する信頼を損なうことにつながりそうです。
この薬がFさんの精神的な支えになっていることを主治医に伝え、効果がみられなくても、抗がん薬を中止しないようお願いする。
この方法は、特に薬学的な視点と状況の視点が不足しています。Fさんの精神的な支えになっているから使い続けられるかと言えば、抗がん薬のベネフィットとリスクから考えても、かかる薬剤費から考えても難しいでしょう。
医療費は一般的に7割以上が健康保険料や税金から賄われており、低所得者や高額療養費制度の対象者の場合、さらに多大な財政支援が行われています。医療者には国民共有の財産である医療費を有効活用することが求められており、特に薬剤師には薬剤の適正使用(医療費の抑制)が求められています。
目の前の患者さんのみならず、多くの人の利益、社会全体の利益という公共心の観点から物事を考えるという見方も必要です。
Fさんの抗がん薬に対する想いをカンファレンスで共有し、生きる望みとして用いる抗がん薬の意義を、皆が理解してFさんに接するよう取り計らう。
この方法は、特に、状況の視点とQOLの視点が不足しています。抗がん薬には「がんの縮小効果だけではなく、全人的ケアの視点からFさんの望みを繋ぐという意義もあるのではないだろうか」と考えた方がおられたかもしれません。しかし、抗がん薬は腫瘍の縮小や延命といった効果を目的に使用するものであり、生きる望みのために使い続けることはできません。
この対応を採った場合、チームで一丸となってFさんを騙すという見方もできてしまいそうです。患者さんの知る権利が奪われるという点でも、適切ではないでしょう。
望まれる対応は?
今回のケースでまず行いたいのは、この抗がん薬がFさんに効果が見られないとわかった時点で、迅速に主治医に伝えることです。その上で、カンファレンスで今後の対策を話し合うとともに、抗がん剤の効果がないという事実をどのような方法とタイミングでFさんに伝えることが望ましいか、チームで検討するとよいでしょう。この抗がん薬を中止した場合でも、Fさんが望みを持ち続けられるような対策や支援をきちんと提案する必要があります。但し、Fさんに自殺企図の可能性が強く想定される場合には、説明に際し、特に十分な配慮が必要ですし、効果がない事実を安易に伝えないという判断が求められることもあります。
関係者1人1人が観察したことを随時結集し、サポートの方向性をチームで共有して、Fさんを支えていくように努めれば、Fさんは安心してその後の生活に臨めると思います。
Fさんが「この抗がん薬を続けているより、中止した方がいいんだ」とご自身で納得し、「その判断は間違っていなかった」と実感できるサポートを実現できることがポイントです。

対応策のアイデア
- ・まずは主治医に事実を伝える
- ・Fさんに伝える方法とタイミングをチームで検討する
- ・Fさんご自身が納得できる説明を行う
- ・自分の判断が正しかったとFさんが実感できるサポートを実現する
- ・サポートの方向性をチームのメンバーで共有して随時修正し、対応する
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