【解説】門前医の処方に違和感を感じたときどうするか?

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

ウィズサポ/株式会社ジョヴィ
川村 和美

 患者さんの望みに応えるか、医師の指示に従うべきか...。どのように判断したら適切なのだろうとモヤモヤしたことはありませんか?

 とりわけ、"倫理的判断"に迷う場面においては、直感に基づく判断をせず、そのケースをさまざまな側面から幅広く検討し、より望ましい決定をするというプロセスが重要になります。

 今回は、門前医に疑義照会しようとしたら、同僚に「それは確認しちゃダメ」と言われたケースです。薬剤師として、どのように対応すればよいでしょうか。

 このケースの詳しい状況説明や、薬剤師が倫理的に判断するために必要な5つの視点からの解説はこちらに掲載しています。
(関連記事)「それは確認しちゃダメ」

それぞれの対応は望ましい?

 このケースを考える上で大切な、5つの視点から解説していきます。
※(関連記事)倫理的に判断するための5つの視点とは?

a.JPG医師ともめるのはよくないので、同僚のアドバイスを受けて、このまま調剤する。

 この方法は、特に薬学的な視点状況の視点QOLの視点が欠落しています。現在、経口血糖降下薬のラインナップが充実し2)、食事療法と運動療法にこれらを上手に組み合わせることによって、長期的な内服治療が叶うようになりました。糖尿病の初期からSU薬を使用した場合、インスリンの分泌量が早期に枯渇し、他の数々の治療薬が使えなくなってしまう可能性がある点と、強い低血糖の副作用が危惧されるという点で避けるべきでしょう。治療機会を失うことになるとすれば、IさんのQOLも長期的にわたって大きく低下します。その治療がガイドラインから大きくかけ離れている点で、説明が必要になるかもしれません。

2)日本糖尿病学会編著、「糖尿病治療ガイド2018-2019」、文光堂、2018

b.JPGこの医師には照会できないことが分かったため、患者に考え得る服薬の注意点をしっかりと伝える。

 この方法も薬学的な視点状況の視点QOLの視点が不足しています。本ケースではIさんに低血糖の危険性をしっかりと伝えることになるのでしょうが、医師のご機嫌伺いを優先し、不適切な処方だと思いながらも、確認も処方提案もしないでただ調剤したと知ったとき、Iさんはどう感じるでしょうか。この医師に疑義照会はできないと諦めてしまっては、今後も同様の処方が継続し、より望ましい治療を受ける機会を失う患者さんが引き続き生まれてしまいます。

「患者のための薬局ビジョン」3)には、かかりつけ薬剤師・薬局が持つべき3つの機能に医療機関等との連携が掲げられ、「医師の処方内容をチェックし、必要に応じて疑義照会や処方提案を実施」すると明記されています。必要があると感じたときの、薬剤師による処方提案がますます求められています。

3)「患者のための薬局ビジョン」~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~、平成27年10月23日公表、平成30年度診療報酬改定の概要 調剤、厚生労働省保険局医療課、平成30年3月5日版

c.JPG将来的に適切な処方となることを願って、医師にガイドラインの概要や論文等を届け続ける。

 この方法は、5つの視点がいずれも少しずつ足りません。ガイドラインの概要や論文等を届けても、医師が必ずしも確認してくれるとは限りません。この医師が若いころには、経口血糖降下薬がそろっておらず、糖尿病と診断されたらSU薬というご認識をお持ちなのかもしれませんし、新しく発売された薬の情報を十分に持ちえていないのかもしれません。なんらかの苦い経験があって、使い慣れない薬には懐疑的な姿勢であるのかもしれません。長いお付き合いをしていかなければならない先生ですから、コミュニケーションを図る関係を築き、そのあたりを把握した上で、対策を講じたいところです。

d.JPG 疑義照会をやめておいた方がいいという同僚の認識は間違っているため、そんなことではいけないと言って、薬局のあり方を改善する。

 この方法は、特に薬学的視点関係者の視点QOLの視点が不足しています。同僚の認識を指摘したところで、不適切だと思われるIさんの処方について、何もしなかったとすれば、結果的にaと同じです。Iさんは適切な治療を享受できず、IさんのQOLは何ら改善されません。

 これまでに処方医とどういうやりとりがあって、この薬局ではSU薬に関する疑義照会がしづらい状況になっているのでしょう。過去に「その質問はしなくていい」と言われたことがあるとか、処方医が「間違いの指摘には応じるが、処方に文句は言わないでほしい」という姿勢をお持ちなのか等、同僚に確認しなければなりません。そして、処方医の不適切な処方をどう感じているのか、他の薬剤師にも聞いてみたいところです。

e.JPGこの処方は不適切なので、医師に照会し、納得の得られる回答が得られるまで調剤しない。

 この方法は、特に患者の視点関係者の視点QOLの視点が欠如しています。処方が不適切だと指摘された医師は、いい気持ちはしないでしょう。ましてや、薬剤師に問い合わせをさせない姿勢をお持ちなのですから、調剤拒否をすれば、処方医と修復が不可能な関係に陥ってしまうかもしれません。薬剤師が医師を怒らせたとすれば、Iさんも通院しづらくなり、治療の継続に支障を来す可能性があります。Iさんが別の薬局から同じSU薬をもらったとしても、なんら解決には至りません。

望まれる対応は?

 このケースでは、患者から聞きえた情報と、糖尿病治療薬の一般的な使用法から考えたとき、薬剤師には「適切とは思えない処方に感じられた」ということになります。疑問を抱えたまま調剤することは、患者の健康回復や改善のために、適切な処方薬を提供する義務を負う薬剤師の任務を放棄することになり、社会の委託に反することになるでしょう。現在の標準的な糖尿病治療に沿って、個々の患者の課題や状況を勘案しながら、その患者にとって最善の治療が提供されるべきです。その実現のために、さまざまな専門職が存在し、連携して協働するのです。

 処方医への情報提供や疑義照会・処方提案は、最善の治療という目的に向かって行うものであり、対立は避けなければなりません。医師との対立は、患者さんの治療にとって1つもよいことがないからです。

 では、具体的にどうすればよいかといえば、疑問を感じたときには、処方医に何らかのアクションをすべきです。「経口血糖降下薬の数が増えてきて複雑になってきているところ、わかりやすいフローチャートを見つけましたので、お持ちしました!」「薬の作用点から私はこんなふうに考えましたので、先生のご指導を仰ぎたいと思い、ご連絡を差し上げました」といったような、あくまでも"お役に立てれば"とか、"教えていただく"というスタンスで臨み、医師の自尊心を傷つけない配慮が必要です。同時に、定期的に薬の情報を持参したり、クリニックの看護師向けの勉強会を開くなど、継続的に現状を改善する努力が求められます。積極的に関わって友好的な関係性を構築し、どんな疑義も確認できたり、提案をポジティブに受け入れてもらえるようなパートナーとなれることが望ましいでしょう。

(参考)糖尿病ネットワーク:ニュース/資料室 糖尿病の飲み薬の特徴を知れば安全・効果的に治療できる http://www.dm-net.co.jp/calendar/2016/025505.php

対応策のアイデア

  • 薬に関することだけにとどまらず、患者さんの生活を軸にして望ましい治療を支援する
  • 考え得る今後の見通しまで考慮し、より高いQOLを長期的に保てるよう介入する
  • 処方医に情報提供や疑義照会・処方提案をする際は、くれぐれも対立を避ける
  • "教えていただく"、"役に立ちたい"といった姿勢で、医師の自尊心を傷つけずに伝える方法を考える
  • クリニックに積極的に関わり友好的な関係性を構築する
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