運動前の糖質摂取論争に決着つける凄い論文

南アフリカ・Noakes氏のNarrative Review

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景:カーボローディング vs. ファットアダプテーション

 スポーツ栄養学の分野では、長らくカーボローディングと称して、糖質を多く摂取することにより、筋肉内にグリコーゲンを蓄えることが運動持久力の向上に役立つと信じられてきた。

 一方、これとは真逆に、糖質摂取を制限し、脂質摂取を増やした食事をすることにより、脂質燃焼能力を高めることができ、運動中も皮下脂肪を燃焼させることで高い運動持久力を得られるという概念も提唱されている。

 このファットアダプテーションとも呼ばれる、スポーツ栄養学における糖質制限食の有用性の概念を20世紀から提唱していたのが米・コネティカット大学のVolek氏と米・カリフォルニア大学デービス校のPhinney氏であり、以前、彼らの論文(Metabolism 2016; 65: 100-110)をDoctor's Eyeで取り上げたことがある(関連記事「"運動前には糖質をたっぷり摂れ"は嘘だった」)。

 しかし、古くからカーボローディングを主張し、糖質制限食(ファットアダプテーション)の棺桶に釘を打ったと主張し(J Appl Physiol 2006; 100: 7-8)、2010年代になってその主張の見直しをしていた(Sports Med 2015; 45: S33-S49)豪州スポーツ研究所のBurke氏は、やはり糖質制限食は運動パフォーマンスを低下させるという論文をここ数年立て続けに発表していた(J Physiol 2017; 595: 2785-2807PLoS One 2020; 15: e0234027J Physiol 2021; 599: 771-790)。

 Volek氏らの論文をご紹介し、その後サッカー選手の長友佑都氏に食事のアドバイスをしてきた私としては、どうしてVolek氏らとBurke氏らとで全く結論が異なるのか、解釈ができずにいた。

 そんな中、南アフリカのケープ半島工科大学のNoakes氏がNutrients2022; 14: 862)に、食事摂取内容が運動パフォーマンスに与える影響についてのNarrative Reviewを発表した。正直に言えば、Narrative Reviewなど著者の個人的な意見にすぎず、客観性に乏しいため、学会がオフィシャルに実施したものを除けばこれまでDoctor's Eyeで取り上げてこなかった私であるが、このNoakes氏のNarrative Reviewにより知識が整理され、Volek氏とBurke氏の主張の相違も、(それが真実であるかどうかは別にして)私なりに理解できるようになった。

 参考文献174本、53ページの壮大な総説をNoakes氏単独で記載したのであり、結論としてはカーボローディングか、ファットアダプテーションか、それは問題ではなかったのである。では、運動パフォーマンスに影響を及ぼすものは何か。それは、筋肉ではなく肝臓もしくは脳のグリコーゲンであ(り、低血糖であ)る、というのが同氏の主張である。

 このNoakes氏の主張を多くの方に共有していただきたく、できるだけ簡潔に、そして私なりの解釈でご紹介する。最後まで読んでいただけたら、今年(2022年)の第98回箱根駅伝で起こったアクシデントについても、ストンと納得してもらえるのではないかと思う。

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