新規骨形成促進薬アバロパラチドへの苦言

ついでに日本の薬事行政をディスってみる

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景:国際試験ではテリパラチドを超える骨折予防効果認めず

 私は他者承認欲求が人一倍強い。人に褒められるのが大好きで貶されるのが大嫌いである。これでも若いころは随分と人に褒められた。褒められると嬉しかった。年を取るにつれて、褒められることがめっきり少なくなった。というよりも、なくなった。しかし、ごくたまに褒められるとやはり嬉しい。

 この連載でも「参考になった」の数が多いとご機嫌だが、少ないと死にたくなる。「参考になった」アップの「傾向と対策」としては、まずはMedical Tribuneさんが「ポイント2倍キャンペーン」を続けてくれることである。しかし、こればかりは私にはどうにもならないし、微妙に釈然としない。私の経験に基づいた作戦としては、自分の趣味嗜好に走ってはいけない。ゲノム編集や核酸医薬などのド基礎ネタ、医者の労働環境とか応召義務などの政治系ネタはご法度である。最も効率がいいのは「ディスりネタ」である。人を貶してでも自分が褒められたいというサイテーの他者承認欲求に苛まれる日々は続く。

 今年(2022年)8月31日に、骨粗鬆症治療薬アバロパラチド酢酸塩(商品名オスタバロ皮下注カートリッジ)の1.5mg製剤が国内製造承認された。同薬は、副甲状腺ホルモン関連ペプチド(parathyroid hormone-related peptide:PTHrP)のアナログ製剤(PTHrP1-34)で、先行薬の副甲状腺ホルモン(PTH)アナログ製剤(PTH1-34)であるテリパラチド(商品名フォルテオ、テリボン)と同じ骨形成促進薬に分類される。

 PTHrPもPTHも生体内ホルモンで、前者は腫瘍細胞から分泌されるのに対して後者は副甲状腺から分泌されて、ともに副甲状腺ホルモン1型受容体(PTHR1)に結合する。生理作用としては、「持続的」に腎臓と骨のPTHR1を活性化することで血中カルシウム濃度を上げて「骨吸収」を促進する。一方、薬理作用は逆で、アバロパラチドもテリパラチドも骨芽細胞のPTHR1を「一時的・間欠的」に活性化することで「骨形成」を促進する。アバロパラチドの用法・用量は「1日1回皮下注射。投与は1年半まで」となっている。

 同薬は、帝人ファーマが米・ラディウス・ヘルス社から国内権利を獲得した輸入製品で、米食品医薬品局(FDA)では承認されているが、欧州医薬品庁(EMA)では2018年に承認拒否されたままである(EMAリリース)。日本の医薬品医療機器総合機構(PMDA)の判断が注目されていたが、2021年3月に3mg製剤が国内承認された。当時、帝人ファーマは「新医薬品の処方日数制限に対応する製剤を開発中」との理由で3mg製剤の薬価収載手続きは行わなかったが、今回、再承認された1.5mg製剤は処方日数制限(1年半)に対応できる規格となっている。早ければ今年11月に薬価追補収載され、臨床現場に登場すると予想される。

 FDAが2017年にアバロパラチドを承認した根拠となった第Ⅲ相試験(ACTIVE試験)は、閉経後骨粗鬆症女性2,463例を対象とした国際グローバル試験である(JAMA 2016; 316:722-733)。日本は参加していない。同試験はプラセボ、アバロパラチド80μg、テリパラチド(フォルテオ)20μgの毎日皮下注射(1年半)の3群ランダム化比較試験(RCT)になっているが、プラセボとアバロパラチドの群間比較はブラインド化された二重盲検試験で、テリパラチド群はブラインド化されていない非盲検(オープンラベル)である。

 結果、アバロパラチドはプラセボとの二重盲検比較において、新規椎体骨折を有意に抑制し(P<0.001)、非椎体骨折をギリギリ有意に抑制した(P=0.049)。テリパラチドとの非盲検比較では、アバロパラチドは椎体、全大腿骨近位部、大腿骨頸部の全ての部位で骨密度をテリパラチドよりも有意に上昇させた(P<0.001)。両剤ともに血中骨形成マーカーも骨吸収マーカーもプラセボよりも有意に上昇させ、骨形成促進薬の特徴である骨代謝回転の亢進が確認されたが、アバロパラチドによる骨吸収マーカーの上昇はテリパラチドよりも弱かった。しかしながら、肝心の新規骨折予防効果については、椎体・非椎体ともに両剤の間に明らかな差は認められなかった。

 安全性に関しては、心血管系有害事象が指摘されたが、これは動悸(プラセボ0.4%、アバロパラチド5.1%、テリパラチド1.6%)などの軽症の事象で、心筋梗塞(それぞれ0.2%、0.1%、0.2%)などの主要心血管系有害事象(MACE)は群間に差はなかった。この点が、発売後わずか半年間で68例のMACEが報告され16例が死亡したロモソズマブ(商品名イベニティ)と明らかに異なる点である(関連記事「イベニティ最終報告、発売半年で死亡16例」)。

 ちなみに、ロモソズマブは骨形成促進薬と誤解されているようであるが、その後の研究で、骨吸収抑制効果がメインであることが明らかになっている(J Bone Miner Res 2019; 34 :1597-1608)。新規骨折抑制効果もアジア人では従来のビスホスホネート剤と有意差がない(Osteoporos Int 2020; 31:677-685)。
すなわち、「高価で危険な骨吸収抑制薬」である(関連記事「骨形成促進薬についての大いなる誤解」)。

 厚生労働省がいまだにロモソズマブの重大なリスクに警鐘を鳴らさず、メーカーはそれをいいことに不見識なプロモーションを繰り返し、多くの医師がそれを鵜呑みにして処方を続けているのは日本だけである。プレガバリン(商品名リリカ)の適応外処方の蔓延と同レベルで、国民医療費の無駄遣いはとどまることを知らず、そのほとんどが海外に流出しているのはコロナワクチンだけではない。かと思うと、学術的に展望のない国産第一号と銘打ったプラスミドDNAワクチンに75億円もの国費を投入して、案の定、今年9月7日に開発中止が発表された(アンジェス社リリース、関連記事「医者がもうかれば国民が健康になる?」)。

 日本の医療行政にサイエンスのプロ、「目利き」がいないことが露呈した結果である。75億円あれば安倍さんの国葬を4回やってもお釣りがくる。野党もメディアもこっちの方を攻撃してくれよ。

 というわけで、ムリクリの脱線でお約束(?)の「ディスり」で前振りしたところで、今回、紹介する論文は、アバロパラチドの国内承認の根拠となった国内第Ⅲ相試験(ACTIVE-J試験)である(J Clin Endocrinol Metab 2022年9月28日オンライン版)。

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