専攻医を過労自殺に追い込んだ2つの巨大悪

「学会の林立」と「専門医制度」

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

「自己研鑽は労働か」だけでは問題の本質に迫れない

 神戸市の甲南医療センターに勤務していた男性専攻医(26歳)が昨年(2022年)5月に過労自殺した。西宮労働基準監督署は、これを長時間の時間外労働で精神障害を発症したのが原因だとして、今年6月に労災認定した。この専攻医は自殺するまでの約3カ月間休日がなく、死亡前月の時間外労働は「207時間」に上っていた。これは、国が定める精神障害の労災認定基準(月160時間以上、3カ月平均100時間以上)を大幅に上回っている。労基署は「専攻医になったばかりで先輩医師と同等の業務量を割り当てられ、『指示された学会発表の準備』も重なり、長時間労働となった」と判断し、「過労で精神障害を発症したことが自殺の原因」と結論づけた(関連記事「26歳専攻医が過労自殺、労災認定」)。

 これに対して、同センターの具英成院長は記者会見で「病院として過重な労働をさせた認識は全くない」と長時間労働の指示を否定した。同センターでは、労働時間をタイムカードによる医師の自己申告に基づいて管理していたが、この専攻医が申告した死亡前月の時間外労働は「30.5時間」だったと述べた。同院長は「医師は自由度が高く、『労働』と『自己研鑽』の切り分けは難しい。労基署の認定には、『労働に当たらない自主的な自己研鑽』の時間が含まれている」として、「見解に相違がある」と主張した(関連記事「専攻医が過労自殺、院長『過重労働させた認識ない』」)。

 医療者の間ではこの病院側の姿勢を非難する声が多く上がっているが、「自己研鑽を労働として認めるか」の議論で立ち止まっていては、問題の本質を見失ってしまう。本件を医師の労働環境の改善に生かすことはできない。

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