研究の背景:IDFが昨年使用を推奨、日本では古くから注目 日本糖尿病学会(JDS)では、75gブドウ糖負荷試験(OGTT)を糖尿病診断のゴールドスタンダードに採用しており、0分値〔=空腹時血糖(FPG)〕126mg/dL以上または120分値200mg/dL以上を糖尿病型の診断基準に、0分値110mg/dL未満または120分値140mg/dL未満を正常型の診断基準にしている(糖尿病型でも正常型でもないのが境界型、図1)。 図1. OGTT 0分値および120分値による糖尿病の診断基準 しかし、このOGTTの判定基準は学会・組織によって異なっている(表1)。JDSの判定基準は世界保健機関(WHO)基準(WHO report 2006)にかなり近い。WHO基準や国際糖尿病連合(IDF)基準(11th Diabetes Atlas 2025)の定めるimpaired fasting glucose (IFG)とimpaired glucose tolerance(IGT)を合算したものがJDS基準の境界型である一方、米国糖尿病学会(ADA)はFPG 100mg/dL未満を正常とし、JDS基準でいうところの境界型とHbA1c 5.7~6.4%を合わせてprediabetes(前糖尿病)と呼称している(Diabetes Care 2025; 48 Suppl 1: S27-S49、表1)。 表1.各学会・組織における境界型・前糖尿病・中間高血糖の定義 (山田悟氏作成) さて、ここでご注目いただきたいのが表1に示したIDFの判定基準である。IDFは今年(2025年)発行された前掲11th Diabetes Atlasの糖尿病診断基準(p15)とは別に、昨年新たなOGTT判定基準として、60分値使用を推奨するposition statementを発表している(Diabetes Res Clin Pract 2024; 209: 111589)。具体的には、60分値155mg/dL未満を正常、155~208mg/dLを中間高血糖(intermediate hyperglycaemia)、209mg/dL以上を糖尿病と判定することを推奨しているのである。 わが国では古くから、0分値110mg/dL未満、120分値140mg/dL未満の正常型であっても、60分値180mg/dL以上の場合には、将来糖尿病を発症する確率が高く、境界型に準じた対応をすべきとされている。例えば、JDSが1999年に発表した『糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告』(糖尿病 1999; 42: 385-404)においても、「空腹時、2時間血糖値がともに正常域であっても、1時間値が180mg/dLを超えるもの(急峻高血糖)では糖尿病型に進展するものの比率が高い」と記載されており、『糖尿病治療ガイド2024』にも同様の記述が掲載されている。しかし、なぜかしら、いずれも参考文献は付されておらず、180mg/dLという数値の根拠をたどることはできない。 一方、IDFが中間高血糖の診断基準とした60分値155mg/dL以上という数値は、20年ほど前から広まってきているものである。この値を最初に提唱したのが、米・テキサス州San Antonioのグループ(Diabetes Care 2008; 31: 1650-1655)であり、その後、Botnia研究(Diabetes Care 2009; 32: 281-286)、NY大学研究(Acta Diabetol 2016; 53: 543-550)、Malmo予防プロジェクト(Diabetes Care 2018; 41: 171-177)、ArizonaSWNA研究(Diabetes Res Clin Pract 2023; 203: 110839)で確認されている。 このたび、そのSan Antonioのグループが、OGTT 60分値155mg/dLどころか、120mg/dL以上155mg/dL未満をも、糖尿病発症予防の取り組みの対象とすべきだとする論文をADAの機関誌Diabetes Careに報告した(2025; 48: 1273-1279)。わが国におけるOGTTデータの活用法を考え直す契機となる論文としてご紹介したい。