果糖が元凶か、生活習慣病もがんも

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研究の背景:果糖の害悪に関する研究報告が集積

 以前、糖尿病性心筋症の発生機序に自己抗体が関連している可能性を示す論文をご紹介したことがある(Circulation 2020; 141: 1107-1109、関連記事「糖尿病性心筋症の機序に注目すべき新説」)。しかし、それ以前から糖尿病性心筋症の病因として注目されていたのが果糖である(Diabetes 2016; 65: 3521-3528)。

 果糖というと果物の糖質と考えられがちだが、主たる摂取源は清涼飲料水である(果物でもブドウ糖と果糖の比率は1:1程度のものが多く、明確に「ブドウ糖<果糖」の果物として挙げられるのはスイカ、ナシ、マンゴー、リンゴ程度である)。

 清涼飲料水にはコーンシロップあるいは高果糖液糖とも呼ばれる甘味料が使用されており、これはトウモロコシの澱粉にイソメラーゼ処理(異性化処理)を加えて果糖濃度を高めたものである。本来、澱粉を分解すればブドウ糖になるのだが、それをイソメラーゼで処理することで果糖に変換することが可能なのである。それ故、異性化糖とも呼ばれる。

 果糖は心筋症のみならず、肥満やメタボリックシンドロームや脂肪肝に悪影響を及ぼすことが懸念されている(Am J Clin Nutr 2007; 86: 899-906J Nutr Biochem 2009; 20: 657-662)。ただ、果糖は小腸から吸収されて門脈に入った後、ブドウ糖と違ってほぼ全てが肝臓でトラップされるとの見解を目にしたため、肝臓内での脂肪酸合成から脂肪肝や高トリグリセライド(TG)血症(高VLDL血症)を生じることは理解できるにしても(図1)、高果糖血症は生じず、直接的に心筋に悪影響を与えることはないのでは、と疑問に思っていた。

図1.各種細胞におけるブドウ糖と果糖の代謝(今回の論文のデータも踏まえたイメージ)

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(山田悟氏作成)

 しかし、最近になって、B6マウスを用いた実験で、果糖をトラップするのは肝臓ではなく小腸上皮であり(対照的にブドウ糖をトラップするのは筋肉であり)、果糖摂取後に門脈に乗る時点では、小腸上皮で果糖はブドウ糖やグリセリン酸などの有機酸に変換されている一方、果糖摂取が多量になると(0.5g/kgを超えると)小腸での処理が追いつかなくなって肝臓(門脈)や大腸(便中)に到達するようになるとの報告が米・プリンストン大学の研究グループからなされた(Cell Metab 2018; 27: 351-361.e3)。

 このことは、小腸であるにせよ、肝臓であるにせよ、フルクトキナーゼ(フルクトースを処理する最初の段階の酵素)による果糖の処理には限界があり、多量の果糖摂取は果糖を体循環に乗せうることを示している(実際、このCell Metab論文においては尾静脈での果糖濃度の上昇が示されている)。

 そうであれば、果糖の過剰摂取が糖尿病性心筋症を生んでもおかしくない。そして、このたび、食事中の果糖が小腸上皮細胞に直接的に影響を与え、小腸絨毛を伸ばし、また栄養吸収能力を高め、さらには大腸がん発症につながりうる作用を持つことが(やはりB6を中心としたマウスの実験にすぎないが)報告された(Nature 2021; 597: 263-267)。大腸がんは、日本人で最も罹患数予測が多く、死因としても2位のがんである(国立がん研究センター「がん統計予測」)。

 この研究を報告した米ニューヨークのワイルコーネル医科大学のグループは、ヒトにおける大腸がん増加の原因として果糖の過剰摂取を考えるべきだという(相関関係ではなく因果関係だと断言している)。メタボリックドミノ(日本臨牀 2003; 61: 1837-1843)の最上流にエネルギー過剰摂取があるのか、糖質過剰摂取があるのかの議論について以前ご紹介したが(JAMA Intern Med 2018; 178: 1098-1103、関連記事「真逆の新肥満理論"糖質-インスリンモデル"」)、今回は「がんを含めたメタボリックドミノの最上流にあるのは、果糖の過剰摂取なのかもしれない」という思いを持ってお伝えしたい。

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